【√と彼らの記憶遊戯】第一章_2話(3/4)「再配役」
朝起きると、寝不足からか頭が重い。昨夜はいろいろと考えすぎて寝付くまでに時間がかかった。
洗面所で鏡を見ると、クマができていて、おまけに寝ぐせもひどい。
それでも朝になると、少しは気持ちが整理されているものだ。
俺は、昨日の違和感の正体を確かめるため、学校に行くと決めていた。こんな時こそ、いつも通りに振る舞わなければ。と寝癖を直す。
「______もっと肩の力を抜け。」なんて兄さんの声がまた聞こえた気がした。
*****
「レンリ、おはよ!」靴箱で八坂と鉢合わせる。
「おはよ。今日から授業だよな?一限は……」と俺はいつも通りに話そうとするが、
「……あれ、なんかクマひどくね?」と八坂は顔を覗き込んでくる。俺は、
「気のせいだろ。」と軽く返すのがせいぜいだった。
「あ!あと、頑張って寝ぐせ直そうとしたでしょ。髪の毛が湿ってる。」
コイツの見た目に関する観察眼は女子より鋭いのではないか。それでも俺は、いつもの軽口をたたく元気もなく、何も返せずにいると、
「あれ、ほんとになんかあった感じ?」と八坂は困ったように頭をかいた。
「…ちょっと野暮用あって、1限さぼるから。適当に理由つけといて!」俺は、そう言い残すと足早に校長室へ向かった。
_____昨日、無抵抗に連れていかれた兄は何か知っていたのではないか。
俺は、兄が何か伝言を残していないかをまず確かめたかった。
*****
校長室のドアを開けると、予想外の光景に俺は一瞬戸惑う。
昨日、兄さんが座っていた黒い革張りの大きな椅子。その椅子は窓側を向いているが、誰かが座っているのが分かったからだ。
「__やっと来ましたね。」その誰かは、俺が入ってきたことに気づくと、椅子を回転させてこちらを向く。
男は、水色の半袖シャツの上から紫色のエプロンとゴム手袋をしている。
帽子を外して見せた男の髪は、淡い水色のウルフヘアを後ろで無造作に束ねており、目は淡い紫色で、ギラリと怪しく光って見えた。
俺は、この男とどこかで会った気がして記憶を辿る。しかし…ひどく頭が重い。
その間、男はニコニコと俺を見ていて一向に喋る気配がなかった。
やがて靄がかっていた記憶を無理やり引っ張り出すように、俺は思い出した。
「__あんた、昨日の清掃員の…!」そこに座っているのは昨日すれ違った男だ。
意外な人物に、俺は驚きを通り越して困惑する。しかし、一度思い出すと確信した。
俺が感じた重要な違和感とは、昨日すれ違ったこの男だったのだ。対面するまで、どうして思い出せなかったのだろう。
「清掃員ではなく掃除屋とお呼びください。」と、何のこだわりか男は訂正したいようだった。
この男からは、関わらない方がいい危険な雰囲気すら感じられる。
(この男は何者だ?……怖い)
それでも、ここで引くわけにはいかない。
能力も先生も兄さんも、もう失うものなんて何もないのだから______。
*****
「掃除屋か。で、あんたは何を知ってる」俺は、いつも通りの口調で落ち着いていた。
「何をというか、昨日のことは私が仕組みました。」と飄々と暴露するので、驚く間も無かった。
「そうか、ならあんたから洗いざらい吐き出させればいいんだな。」と俺は深く考えるより先に、あっさりと口に出した。
校長だった兄さんも、異能警察だったのに忘れていたという篠崎先生も、この男の何らかの能力によって居なくなった。
それなら案外納得できてしまうのだった。
それだけこの掃除屋と名乗る男のオーラは異質に感じられたからだ。
「いやあ、中々受け入れるのが早いんですねえ。ぜひその調子で。」掃除屋と名乗る男は、何やら満足げに笑う。
俺は、次にこの正体不明の男がどこまで答えてくれるのかを考えていた。この男の仕業だというなら、聞きたいことは山ほどある。
掃除屋は紫色のゴム手袋を外すと、席を立ち俺を来客用のソファーに座るよう促す。
そして、棚から紅茶缶を見つけると、来客用のテーブルにおぼんでティーセット一式を運んできて、どうやらここで紅茶を淹れるようだった。
「色々聞きたいのでしょうが、質問は3つまで。この紅茶を淹れる間に考えてください。その代わりなんでも正直に答えますよ。」と掃除屋は言うと、砂時計をひっくり返した。
それなら遠慮はいらない。シンプルに聞いてしまえばいいのだ、と俺は腹を括って質問を絞ることにした。
_つづく
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