【√と彼らの記憶遊戯】第一章_2話(4/4)「質問は3つまで」
_____やがて砂が全て落ちて、おそらく3分が経過したのだろう。
紅茶が二つのティーカップに注がれると、その一つを俺に勧めつつ、掃除屋が口を開く。
*****
「さあ、一つ目をどうぞ。」
と掃除屋が質問を促す。聞かれて俺は、
「____この紅茶、砂糖、陶器類に毒、もしくは能力にかかる何かを仕組んでないか?」と確かめた。
「ははッ!まずは身の安全。そう来ましたかッ!」掃除屋は不意を突かれたようで、手を叩いて笑う。
何が面白いんだ、と俺は睨みつける。
俺はいま能力で視ることができない。だからこの男が何か盛っていないか安全性を確かめるのは最重要事項だろう。
「毒は入ってませんし、トラップもありません。安心して飲んでください。」と、掃除屋は笑う。
「はぁ……」僕は無意識に止めていた息を吐きだした。どうもこの男と同じ空間に居るのは、思っていた以上に疲れるようだ。
俺は、テーブルにある角砂糖の白い壺を、自分の方に引き寄せてふたを開けると、消費したエネルギー分を補充するように、紅茶にポトポトと角砂糖を入れていく。
「……キミ、いくらなんでも角砂糖12個は入れすぎでは?」となぜかドン引きする掃除屋に突っ込まれるが、
「2個はアンタのせい」と俺は最もらしく答えると、
「10個が基本……!?」とまた驚く掃除屋だった。
俺は、淹れたてで熱く、甘めにした紅茶をすする。
掃除屋はというと、砂糖やミルクは一切入れずに紅茶の香りを楽しむように、ゆっくりとカップに口を付けていた。
*****
「では、二つ目を」
俺がカップを一度置くと、次の質問を促される。
「_____あんたの能力は何だ?」
「これまた、意外と直球に聞くんですねえ。でもまあ、正直に答えると約束しましたので」
掃除屋は何やら楽しそうな様子でニヤニヤしていた。その笑みは俺の不快感をえぐるようでイライラする。
(そんなことはどうでもいい。早く答えろよ。)
そんなモヤモヤとした黒い焦燥感が湧き上がってくる。しかし、
____もっと肩の力を抜け。とまた、兄さんの言葉が蘇ってきた。
(そうだ。今焦って質問を間違えたら、取り返しがつかないかもしれない。相手の隙をつくにはまず相手のペースを掴まなければ)
俺は、また一口紅茶すすると、目の前のこの男――掃除屋のペースに合わせることにした。
「私の能力は、Recasting(リキャスティング) ―― 再配役。この学校を舞台と仮定して、主人公を決めるとその周りの登場人物の配役を変えることができます。」
「再配役?」まるでドラマや舞台を仕切るものみたいな…馬鹿げた能力だ。
「君の思う通り!」と、男は俺の考えを先読みするかのように肯定して来る。
「おい、そんな規格外の能力あってたまるか。そんなの異能警察が黙ってるわけな…」
「_____規格外だから異能警察も見つけられないんですよ。」と掃除屋は当然のことのように答えた。
(じゃあ、それの意味はなんだ?)
俺は、掃除屋もつけているピアスに目をやる。
異能者全員に装着が義務づけられたこのピアスは強い能力の使用を検知し、周囲や能力者自身に危険が及ぶと見なされると、異能警察が飛んでくる仕組みだ。
この学校は能力者と一般生徒の共生と育成を目的とした学校だから、監視はあれど治外法権として、ある程度の能力の使用は許されている。
しかし、ピアスを付けていながらこれ程の能力が見過ごされるはずがない。
「これは表に出るときのファッションですよ。」と掃除屋は、視線をくみ取ったのか、俺が聞いてない質問に答える。
そして指先でピアスの飾りをジャラジャラと揺らした。
「あなた方と違って、ワタシは裏の人間。掃除屋、暗殺屋、他にも政府の息のかかった規格外能力者は存在しますがね______。」
質問を絞らせときながら、この掃除屋と名乗る男は自分からよく喋る。
俺はその長い語りを聞きながら、ついには紅茶を飲み干してしまった。
******
「それでは、最後の質問と行きましょうか」と、掃除屋は気が済んだのか、唐突に最後の質問を促した。
__兄さんが抜けたこの学校はこれからどうなっていくのか。
__そもそもこの男、掃除屋の目的は何なのか。
聞きたいことは他にもあるが、俺の中で最後の質問は決まっていた。
「__どうすれば兄さんは戻ってくる?」
掃除屋はその質問をまるで待っていたかのように目を光らせ、フフッと笑い含める。そして、
「_____ワタシはあなたを主人公にしました。
ですから、これから起こる出来事に対して自分の思うままに行動し続けること。
そうすれば、あなたのお兄さんを返してあげましょう。」と答えるのだった。
(主人公?自分の思うままに行動?)
(なんて曖昧な定義だ。)
しかしここに至るまで昨日の出来事を何度反芻し、後悔をしたことか。
(俺は、もう立ち止まるわけにはいかない__。)
「約束だ。」と俺は掃除屋の目を見て、念を押す。
「はい、ワタシに二言はありませんよ。」と掃除屋は、笑みを消して承諾した。
「__そのための配役は揃えました。せいぜい頑張って下さい。」と掃除屋は、カップに残った紅茶を飲み干して立ち上がる。
そして、
「貴方のお兄さんは面白い人ですね。」と額縁に入れて壁に大きく飾られた校訓|“風流韻事 《ふうりゅういんじ》”
を指し示すと、ひとりでに校長室のドアから出ていった。
「面白い…?」俺には何が面白いのか、よく分からない。
しかし、最後の質問で俺の目的がはっきりと決まった。
_____自分の思うままに行動していいと掃除屋は言った。なら今の俺はこう思う。
能力を取り戻して掃除屋を暴き、警察に突き出す。そして、能力を解いたこの高校に再び校長として兄さんを取り戻して見せる。
たとえ彼の、規格外異能力者の舞台の上で踊らされていようと。
出来るか出来ないかは関係ない。
__そう決意して俺は校長室を後にしたのだった。
_第一章_2話:完
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