【√と彼らの記憶遊戯】第一章_1話(2/5)「双眼鏡の向こう側」
「うわ、思った通り……」
今日は高校二年の新学期初日。校舎の入り口に張り出されたクラス割りの模造紙の前は、我先にと見たい生徒でごったがえしていた。
仲のいい奴と同じクラスで喜ぶ者と、違うクラスで残念がる者とで空気は入り乱れる。
(俺は、あんな人混みに入るのはごめんだ。)
だから、わざわざ双眼鏡を持ってきたのだった。これなら20メートル離れていても容易に読むことができる。
「ーっと、暖野簾李、はタ行だから上の方か……」俺は半分より上に視線をずらす。クラスは5つあって、左から1組と始まるから、左から右へジグザグと辿るように見ていく。
「次は2年3組。…………あった。」
そして、自分の名前を見つけるのと同時に、__何やら視界の端で騒がしい動きをする奴も見つけてしまう。彼は、遠くにいる俺に気が付いて、何やらジェスチャーで伝えようとしているようだが、動きが騒がしいのでよく分からない。
俺はこっちに来いと手招きした。しばらく続けてあきらめた彼は、こちらに向かって走って来るようで、今度は双眼鏡にドアップで写りこんでくる。やっぱり騒がしい奴だ。
彼の名は、八坂多留。1年でクラスが同じになると、入学式の時からやたらフレンドリーに話しかけてきて、そこから何だかんだ1年間つるんでいた奴だ。
目鼻立ちは丸く、くっきりとしていて柴犬のような愛らしさがあると、一部の女子から定評があるらしい。
俺としては騒がしい奴、という印象の方が強いが、たしかに愛嬌があるといえばそうかもしれない。
彼の身長は165cm__と、普通平均を下回っていたらコンプレックスに感じる男子は多いだろうが、こいつはの場合は例外だ。
ダボっとしたパーカーを好み、自分はそれが似合う身長なんだと胸を張っている。
(それが時々眩しく見える……なんて本人に言ったら図に乗りそうだから言わないけど)
この学校の校則は緩く、髪色・髪型は自由。基本校章バッチを付けていればブレザーの上着など指定の制服は着なくても良いことになっている。
制服のパターンも多様性を取り入れてか、様々なデザインがある。私服を取り入れるのも可。
八坂はいつもカラフルなパーカーやジャンパーを着ていて彼の見た目は、校内を見回しても群を抜いて派手だと思う。
それでも先生や先輩からのお咎めなく、自由なファッションを貫いているのは、彼の人懐っこい人柄あってのことだろう。
(本当に器用な奴。)
「おはよ!レンリ!僕たち同じクラスだって!3組!!」と八坂は満開の笑みで話しかけてくる。
クラス割がどうなろうと俺としてはさほど問題なかったのだが、なるほど彼がいるのは心強いかもしれない。
俺は、双眼鏡を鞄にしまうと、
「ああ。……ほら教室行くぞ」と軽く返事をして、八坂の肩をぽんとたたく。
そして、校舎に向かう俺の後を八坂は、
「行こ行こー!」と跳ねるようにして付いてくるのだった。
(柴犬みたいってのがたった今わかった気がする……。)
「今日はやたらピンクなのな」と、教室に向かう道すがら彼の服装に触れると、
「そそ!新学期と言えばピンクでしょ」といつも通り嬉しそうな八坂。
このファッション好きは一度服装の話題に触れれば、気が済むまで喋り倒す。
「じゃあなに、桜色ってこと?どうせならズボンも緑色で桜餅でよくね」と俺が適当に返したら、
「なにそれ、センス無さすぎ」となぜか爆笑する八坂だった。
そんなこんなで、いつも通りたわいもない会話をしながら教室へ向かう。一瞬、会話が途切れたかと思えば、八坂は何やらスマホを見て返信を返しているようだった。
「彼女?」と俺が聞くと、
「んー、いや。ただの知り合い。」と気の抜けた返事が返ってくる。
「へー、知り合いね」
コイツの人脈は凄まじい。同級生から先輩まであらゆる人と連絡先がつながっている。
コミュ力があって顔でもそれなりに人気があるというので、いつか女子を勘違いさせて恨まれはしないだろうかと、つい心配になるほどだ。
「今年こそサークルに入らないかって、シュファ先輩から誘い来てるけど。引き続き断る?」と、ふいに八坂が聞いてくる。
(______ッ!!)
「_断るに決まってる!」と俺は思わず食い気味に返す。
「ていうか、連絡先繋がってんのかよ」
相手が三年の煌月シュファ…先輩となれば、動揺を隠せない俺だった。
_つづく
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