【√と彼らの記憶遊戯】第一章_4話(4/4)「誰が為の能力」
俺はヨネさんの膝からサッと起き上がると、無意識に目からこぼれ落ちれていた涙を拭った。
「失礼しました、膝お借りしまして!」と俺が謝ると、
「よいよい。それより……大分うなされておったのう。大丈夫かえ?」と顔を覗き込まれ、ひどく心配されたのだった。
「もちろん、わしもこのようにしてお主の夢を上から覗いていたのじゃがな。」
とヨネさんは重箱の蓋を開けて見せる。
「なにも過去に失敗したからって、お主がすべて背負うことかのう?選んだ道は運が悪かった。だからこそ学びに変えればいい話じゃろう?」
と重箱から三色団子を選び取ると、
「兄が言いたかったのは、お主が現実を恐れるがあまりに行動と意思に食い違いがあったことじゃのうて?」
と一番上のピンク色を一口ほおばる。
「お主はそこが不安定じゃから、わしは能力を使わせるのを止めたんじゃ」
真ん中の白色団子を食べながら、そう饒舌に言い並べるヨネさんは、少し怒っているようにも感じ取れた。
******
「さて__お主は、なんとも巻き込まれがちな星の元に生まれたようじゃから、ここらではっきりさせてみんかね?」と、彼女は3色団子の最後の薄緑色に齧り付くと言った。
「はっきりさせる?」俺は何のことだろうと首を傾げて、次の言葉を待つ。
団子を食べ終わった彼女はその串を杖のように振り、言った。
「_____能力を使う時、お主は自分のために使うのか、人のために使うのか。」
それは、今まで意識したことのない問いだった。それでも____。
「お主は共感覚型能力者といったか。さればこそ、自分の軸は決めて置かなければ簡単にぽっきりと折れてしまうじゃろう。」
「ではどうあるべきですか?」
「質問を質問で返すでない。お主は過去を見てきてどう思った?」
「俺は後悔しました。屋上での浅い能力の使用と彼女に直接話しかけなかったのは自己保身のため。それなのに彼女が来なくなった後の教室で、必要以上に能力を使って、勝手にトラウマを背負って、被害者ヅラしたこと。」
「ほう……。」とヨネさんは興味深げに耳を傾ける。
「あの頃の俺は人を助けたいのではなく、教室で学級委員として面倒見のいいキャラとして自分を確立したかっただけなのかもしれません。そして、自分の居場所は平和なはずだと信じたかった。」
(良いように現実を捉えたかったがゆえに、目の前の彼女に声を掛ける機会を逃した。)
「でも能力を失ってからは、見知らぬ人に自然と人助けをする癖が抜けなくて。きっと、あの時の罪滅ぼしです。__結局俺は偽善者だ。」と俺は拳を握りしめた。
「人の性格や行動の癖というのは、何も元からあるものが全てじゃない。中には育った家庭環境、外で関わってきた人の影響で後から身につけた癖のようなものもあるじゃろ?」とヨネさんは問いかける。
両親を亡くしたこと。親戚のおじさんおばさんの家にいた時期。そして、信頼していた先生が兄さんを連行したこと___。
その全てを話したわけではないのに、ヨネさんは俺の心の奥底を理解しようとしてくれている気がした。
「人を助ける自分が好き。そういう理想がある。それなら、それでいいじゃろ?理想に向かって行動するほど、お主は段々と本物になってゆくよ。」
「それで良いんですか?」と俺はヨネさんを縋るように見る。
「良いんじゃ。良い行いをするのに何を余計なこと考えとる。」と自信満々に笑って見せる彼女は、教室で出会った当初よりも生き生きとして見えた。
*****
「__さて。ここからは現在じゃ。」
_____能力を使う時、自分のために使うのか、人のために使うのか。
(……まだその答えは出ない。)
「お主は能力を失ってから人助けをしたじゃろうか?」
「__俺は、新学期の朝、バスを降りておじいさんに忘れ物の栞を届けました。」
「……ほう。その時何と言ったか?」とヨネさんが問う。
「『俺のエゴなんで気にしないでください』と。」
(それは気を使わせないための言葉?それとも、本心から出た言葉?)
_____あぁ、考える程分からなくなってくる。
それに見かねたのか、
「思考に偏るときは行動に目を向けるのじゃよ」とヨネさんは付け加える。
「行動…あの時、俺はすぐバスを降りて走りました。」と俺が言うと、
「そうかい。いい子じゃのう。」とヨネさんは微笑む。
「なら人助けがしたいのは本心からじゃな。迷わずすぐ行動に移すということはそういうことじゃ」
「__でも、あの時は能力を使っていないからためらわずに出来たんです。」
(夢見を通して、今まで閉じ込めていた能力に対する恐怖心を思い出した____。)
二人の間を生暖かい風が吹き抜けると、それを待ってか待たずかヨネさんは口を開く。
「_そうかい。これはあくまで持論として聞いてほしいんじゃが、能力とは本来自分のために生まれてくるものだと思うんじゃよ。」とヨネさんは何かを悟ったように言った。
「自分のため?」と俺は、反復する_____。
「そうじゃ。自分を守るため、自分の目的のための能力。それなのに使い方を誤るものが多くてのう。」と今度は少し困ったような表情を見せる。
(自分のため。なら、人のために使いたい時は?)
_____しばらくの沈黙のうち俺は、尋ねる。
「__人助けがしたい俺がいたとします。それで、もし人のために能力を使うとしたら、自分のためにもなる動機づけが必要ってことですか?」すると、
「聡いのう!つまりそういうことじゃ」とヨネさんが関心したように言った。
「俺は、当たり前に続くと思っていた学校生活から兄と信頼していた先生を奪われたんです。だから、せめて兄だけでも取り戻したい。」と告げる。
「ほう、あのかっこいい若造はいないのじゃな」とヨネさんは少し残念そうな顔をする。
「でもある男と取引をしました。俺が主人公として行動することで取り戻せると。…定義が曖昧だし怪しいので本当は、陥れたあの男を警察に突き出したいんですが。」
(でも__。)
「でもそれじゃ、兄さんが言い残した道とも何か意味が逸れてしまう気がしてきました。」
兄さんは、いつも俺のことを考え、時に叱ってくれた。
校長室を出る去り際に、『やっぱり、お前が主人公だ__。』と笑って言った。
その意味はまだ分からない、でも俺は__。
*****
「答えは決まったかのう?」
____能力を使う時、自分のために使うのか、人のために使うのか。
「俺は、自分のためを前提として、時に人のためにも能力を使います。加えて__」
「迷ったときには誰かの力を借りて、別の道を探します。」と宣言した。
「整ったのう!これがお主らしい、よい答えじゃ。お主が望むなら、わしも紫ボブも仲間となろうぞ。」と、ヨネさんは満開の笑みを向けてくれたのだった。
*****
「さて、使ってみるがよい」とヨネさんが目を閉じる。
今迷いがなくなった俺は、目の前のヨネさんのことを純粋に、『知りたい』と思えるのだった。
『魂の脚本 』_(スクリプト・オブ・ザ・ソウル)
桜の花びらが俺たちの回りを、まるで蝶のようにひらひらと舞っている__。
『和菓子、のんびり、知、沈黙』
頭上の文字が渦巻く塊から、昨日は分からなかった文字を読み取ることができた。
(和菓子とのんびり過ごすことが好き。それは分かる。)
俺は意を決して言った。
「あなたは、楓みたく生まれたてではないですよね?そして何かを知っている。__でも今それを話すつもりはないですか。」
「…すごいのう。お見通しじゃ。」とヨネさんは閉じていた瞼を開く。
「わしは沈黙が得意でのう、先ほど仲間になると言っといてすまんが、そう簡単に見せはできんこともある。」
_____今はそれでいい。彼女なりの考えがあるのだろう。
それに情報が増えずとも、自分らしい能力の使い方を見つけた今はとても清々しい気持ちで満たされていた。
*****
やがて、能力で視るのをやめた俺は、一つ懸念していたことについて尋ねてみることにした。
「____ところで教室、全く違う姿で行って馴染めましたか?」と聞くと、ヨネさんは急に渋い顔をした。
「_____それがのう…」
第一章_4話:完
◀ 前の記事
▶ 次の記事
作品用マガジンはこちら📚
