【人間観察エッセイ】「人間嫌い、銭湯へ行く」 | 第1湯 : 下町デザイナーズの洗礼
《東京都足立区「大平湯」》
我が家の床下が絶望に染まり、始まった銭湯暮らし。
記念すべき「放浪記」の第1湯に選んだのは、足立区にある「大平湯(たいへいゆ)」だ。
ここは、いわゆる「デザイナーズ銭湯」の先駆けとして知られる有名店らしいが、
実家の近くにも関わらず、銭湯に縁がないため私は全く知らなかった。
(理由はプロローグ参照)

普段キャッシュレス生活の私は、事前にコンビニでしっかり小銭を作ってから挑んだ。
なぜなら、銭湯のドライヤーは10円玉課金制が多いとGoogle先生に聞いていたからだ。
なにせ数十年ぶりの銭湯、怖すぎて検索しまくったのは言うまでもない。
この準備が、のちに私を救うことになる。
何も知らない私は、平日のオープン時間である15時すぎに突撃してしまった。
「平日だし、お昼下がりだし、空いているだろう」という目論見は、暖簾をくぐった瞬間に粉砕される。
脱衣所は、すでに常連のオバさまたちで満員御礼。完全にアウェイだ。
浴室に入ると、さらに独自の生態系が広がっていた。
カラン(洗い場)に向かうも、早速「場所取り」の洗礼を受ける。
椅子と洗面器が置いてある空いてるところを使おうものなら、凄い勢いで「それ、私のよ!自分でもってこないと!」と教示を受ける。
「すみません!すみません!」と入り口に取りに戻る。
湯船を見れば、新参のオバさまたちが、そこに鎮座する「重鎮」に対して律儀に挨拶をしてから入湯しているではないか。
……なんだここは。
お風呂の形をした、濃密すぎる下町コミュニティか。
シャワーは壁固定タイプ。
これはどうやって使うんだ?
隣との距離も近く、他人に湯水がかからないかヒヤヒヤする。
人間嫌いの私は「アヒルの行水」のごとく、己のパーソナルスペースを最小限に保ちながら、最低限の水量で音速のごとくシャンプー&洗体を済ませた。
使った洗面器と椅子を元の場所に戻してから(たぶんこれが正しい)、横長の湯船の端っこにそっと浸かった。
温度は熱くもなくぬるくもないちょうど良さ。
なるほど、これは長湯できてしまう。
湯船はライトアップされていて確かにオシャレなのだが、常連さんたちの賑やかな会話と混雑で、正直まったく落ち着かない(笑)。
番台のおばちゃんが勧めてくれた扉の奥の「立ち湯」の存在などすっかり忘れ、私は3分足らずで湯船から飛び出し、立ちシャワー(最初からここを使うべきだったか)で身体を流してから脱衣所へと退避した。
ここからも時間との戦いだ。ドライヤーは20円で3分。
なぜこんな時に私はロングヘアなのか?
自分を殴りたくなった。
あとに待つ人の鏡越しの視線(プレッシャー)を感じながらきっかり3分でその場をゆずり、髪は生乾きの状態で大急ぎで服を着る。
焦るあまり床を一滴濡らしてしまった!
「常連に怒られる…!」
と恐怖した私は、レンタルした250円のタオルセットのフェイスタオルで慌てて床を拭きあげた。(本当はダメなマナーかもしれないが、背に腹は変えられないサバイバルである)
こうして、何か言いたげな常連からの視線をどうにか回避し、ロビーへ脱出した。
しかし、この大平湯、事前に調べた口コミによると「番台の対応」で評価が真っ二つに分かれている。
戦々恐々としながら向かった番台にいたのは、一人のおばちゃんだった。
私は入店時、「初めてなんです!」と先に降参(チュートリアル請求)をしておいた。
さらに、入浴料550円に加えて、タオルセット250円を注文して現金かつ釣り銭なしでスマートに支払うという「上客(エレガント)ムーブ」をかましていた。
これが大正解だったらしい。
しっかり施設の説明をしてくれたので、迷わずに脱衣所に向かうことができた。
レンタルタオルを返却する際、「PayPayも使えるんですね」と聞くと、「50円のカミソリとかで使われたら手数料で困っちゃうんだけどねぇ(笑)」と苦笑い。
すかさず「今日みたいにタオルセット込みで800円とかなら大丈夫ですか?」と聞くと、「もちろん!」と満面の笑顔が返ってきた。
完全にセレブ認定(?)である。
そこからの追撃がまた凄かった。
靴箱へ向かい、靴を履き終えるまで、おばちゃんは番台からずっと話しかけてくれた。
「駐車場はわかった?」「歩き?」「家近いの?」「奥のお湯は入った? あら残念! 近いならまた次回ね!」
なかなか個人情報を深追いしてくるスタイルだが、これぞ親切な下町アルアル、嫌な気はしない。
次々くるお客さんをさばきながらも気にかけてくれるおばちゃんに見送られながら、やっとの思いで外に出る。
中での緊張感から解放されて、ようやく大きく息を吸い込むことができた。
ふと見ると、建物の外にはコインランドリーと、懐かしいアイスの自動販売機が並んでいる。そうそう、昔ながらの銭湯って、こういうセットが定番だったよね。
実はこの時の私は、お風呂だけでなく、我が家の洗濯機も使えないという絶望的な状況。
だからこそ、この「コインランドリー併設」というスペックは、神の救いに思えた。
お風呂に入っている間に洗濯を回しておけば、一石二鳥でミッションが完了するではないか。
これは同じようなトラブルに直面した人間にとって、最高にありがたい導線だと思う。
私は自販機でアイスを買い、解放されているコインランドリーのベンチに腰掛けた。冷たいアイスが火照った体に染み渡り、ここでようやく「あぁ、ホッとした……」と心から寛ぐことができたのだ。

ちなみに、ここは駐車場が無料らしい。
もし車で来ている人なら、お風呂上がりにそそくさと退散し、自分の車の中に逃げ込んでエアコンを効かせながら休憩する、というルートもおすすめだ。
これなら、常連さんたちの熱気やロビーのプレッシャーを100%回避して、完璧なパーソナルスペースを守り抜くことができる(笑)。
ちなみに某口コミには「子どもに厳しい」とも書かれていたが、子どもが得意ではない私にとっては、むしろ「静かに過ごせる可能性が高い」という最高に嬉しいボーナス情報だった。
ドライヤーの両替も誰の手も煩わせず、最初のハードルをクリアした私。
オシャレな空間と、ディープな下町ルール。
そのギャップに揉まれながら、私の銭湯サバイバルは幕を開けたのだった。

《サバイバル銭湯(戦闘)記⭐︎通信簿》
「大平湯」(足立区)
https://adachi1010.tokyo/archives/358
【1.アウェイ度(常連支配率)】
★★★★⭐︎高め
オープン時間は完全に常連のコミュニティ。
お邪魔します!の精神で挑むべし。
【2.ディスタンス度】
★★⭐︎⭐︎⭐︎近め
全体的に昭和サイズ。カランも隣との距離近し。
背中の距離も近いのでお湯マナーに注意!
【3.タイパ・コスパ】
★★⭐︎⭐︎⭐︎やや低め
・入湯料550円
・レンタルタオルセット250円
・滞在時間:約30分(時間制限なし)
テレビ付きの広いロビーはあるが、
一見が寛げるスペースは事実上存在しない。
【4.地雷タイム(混雑含む)】
・常連タイム:平日15:00〜16:00
ネット情報によると混雑時間は夜らしいが、
常連のオープンアタックタイムに要注意。
【5.年齢層・客層】
・近所の70代前後、子供少なめ
車より自転車が多かったので地元シニア優勢。
曜日や時間帯にもよるかも?
【6.独自項目:番台難易度】
★★★★⭐︎高め?
今回のおばちゃんは気さくなので挨拶やマナーを守れば無問題!
他の人だった場合や知ったかぶりは倍返しになる可能性も?!
※情報は2026年訪問時のものです
※あくまでも個人の感想、見解です
※営業時間やスペックはネット検索してください
(第2湯につづく)
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