UAE戦争から脱出するまで、最大の難関は日本だった。【後編】
前編
日本領事館の融通の効かなさに辟易としていた中。
突然現れた、日本政府のチャーター便
他国に比べるとかなり遅くはあったが、すでに航空会社のフライトは再開していた。状況は不安定でも、街が完全に機能停止しているような状態ではない。だから、「政府便まで出るのか」というのが率直な印象だった。
私たちは自力で帰りたかった。自分で動いた方が融通も利くし、子供たちの負担も少ない。もっと必要な人に席を使ってほしいとも思った。
ただ、無戸籍状態の双子は選んでいる状況ではない。
陸路オマーンルート
ところがチャーター便は、まず陸路で隣国のオマーンへ移動し、そこから飛行機で日本へ向かうという計画だった。
双子は隣国へも入国できない事は、領事も周知の事実。確認したところ、返ってきた答えはあまりにもあっさり
「緊急旅券を発行します」
えええええええ
今まであんなに規則規則だったのに???
こういう場合は『規則外で発行できる規則』でもあるのだろう。
確かに、チャーター便まで出しておいて、「乳児はパスポートがないので置き去りにしました」となれば、それこそ責任問題になる。
しかし同時に思う。
もっと前にも出せただろう・・
緊急旅券という「条件付きの自由」
私は思わず聞いてしまった。
「緊急旅券が出た後は、考えた結果、政府便ではなく自分で退避するのもアリか。」
すると、声色が変わった。
「これはあくまで政府便に乗るために発行するものなので」
という言い方になり、さらに
「場合によっては集合場所で集まってから旅券を配布する可能性もあります」
とまで。
口を滑らせた・・・。と思った。
緊急旅券は私たちにとって黄金チケットのようなものだが、自分たちで動く自由があるわけではない。
深夜まで届かない最終連絡
選べる立場ではないので、チャーター便の希望フォームを提出し、案内に従って手続きを進めた。
結局、チャーター前日の夕方、直前で緊急旅券を受け取れる事になった。
しかし問題はここから。
希望者を募ってから、チャーター機の乗車人数との兼ね合いで選ばれた人に連絡が来るらしい。既に前日だが、そんなギリギリなものか・・とぼんやり思う。
優先順位は妊婦、高齢者、子連れ、旅行者、等々。
うちは双子乳児と3歳児連れで、しかも無戸籍状態。それどころか緊急旅券を政府チャーター便用に手配までしたのだからプライオリティは高いだろう。
集合は朝の7時頃を予定しているらしい。早い。
なので急ピッチですべて準備した。
陸路移動、国境越え、さらに長距離フライト。総時間がどれくらいになるのかも分からない。オマーンに行ってから翌日の飛行機に乗ると言う話もあるので、2日かかるかもしれない・・・。夫と私だけで生後2ヶ月の双子とやんちゃ盛りの息子。何がどれくらい必要になるか未知の世界である。
ミルクはすべて小分けにし、液体ミルクも分散させて持つ。息子のお菓子や飽きないための小さなおもちゃも詰め込む。


なかなか骨の折れるパッキング・・・
ところが、一番肝心の連絡が来ない。
16時。
18時。
21時。
いや、明日早朝出発だよね?
この状況で日付またぐことある?
0時、まだ来ない・・・・。
SNSを見ると、どうやら誰にも連絡が来ていないようで、みんな不安になっていた。電話してもつながらない。
午前3時のお祈りメール
深夜1時頃、「連絡が来た人がいるらしい」という情報が流れ始めた。
ただ、私のところには来ない。
その後、ぽつぽつと決定メールが届き始めたらしい。
一斉送信ではなく、どうやら一人ずつ送っているようだったので待ってみる。
午前2時。まだ来ない。
ここまで来ると逆に現実感がなくなる。
そして午前3時。
届いたのは、いわゆるお祈りメールだった。
「今回は希望者多数のため、優先度の高い方からの乗車となります」
正直、目を疑った。
うちで優先度が高くないなら、逆に誰が高いのだろう。しかし、後から聞いた話では、第一便はほぼ短期旅行者だったらしい。
それならそれでも構わない。
しかし、そういう方針なら、もっと早く知らせてほしかった。こちらは寝ずに準備し、深夜3時まで待っていたのである。
現場への感謝と、役所への怒り
唯一フォローしたい事がある。例の感じの良かった窓口の担当の方からは個別にメールが来た。
『今回は選ばれなかったこと、選定は領事館ではなく日本の外務省が行っていて、現地では基準や処理時間も分からず長時間待たせてしまい申し訳ない』という内容。
この人は本当に心配してくれていたと思うし、きっと相当な数のクレームを一身に受けていたのだと思う。現在午前3時、寝ずに働いてくれている。
グッと気持ちを堪え、この方には今まで対応してくれたことへの感謝。そして明日順調に退避できる事を願うメールを送った。
問題はその奥の役所の方。
仕事が、あまりにも遅い。
きっと膨大な量のフォームを1人1人エクセルに打ち込んでアナログに選定しているのだろうという声があったが、この遅さ、多分そうなのだろう。
現場ではなく、フォームで決まる運命
窓口の方が言うには、選定は現地の領事館ではなく、日本の外務省が行っている。
これには正直驚いた。
領事館の人たちは実際に私たちとやり取りをしている。誰がどれくらい切迫しているか、一番分かっているはずだ。
しかし選定は、日本にいる外務省が希望フォームの内容を見て決めているらしい。
つまり、書いてあることをそのまま基準にしている。極端な話、フォームには何でも書けた。もちろん誠実にそのままをみんな書いているだろうが、構造として何でも書ける仕組みだった。むしろ直接やり取りしている領事が選んだ方が、よほど現実に即した判断ができたのではないかと思う。
しかし、もうどうでもいい
ここまで来ると、ショックや怒りを通り越して、笑えてくる。
「むしろ頼らず済んでよかった」
「最初からあてにしなきゃよかった。自力で出よう」
結果的にこの一連の騒動のおかげで緊急旅券そのものは手に入った。それだけは事実だった。

メールが来た5分後には航空券を取った。
取ったのは数時間後のフライト。政府便より早い。
とりあえず負担が少なく行けそうな近隣の国へ。
お粗末な結果
後から知ったのだが、政府チャーター便は連絡が遅すぎたせいか、かなり空席が出たらしい。バス8台の予定が、実際は3台程度しか埋まっていなかったという話も見た。
もしそれが本当なら、何をしているのかという感じである。
税金を使って手配して、案内は直前、選定連絡は深夜。
集合は早朝。当然動けない人や、諦めて別の方法に切り替えた人もいる。
政府便で実際に帰国した人の中には、限界体制の中、政府が守ってくれた。日本人を守るんだというプライドを感じた。と絶賛している人もいた。それは本当なのだと思う。
ただ、私自身の感覚としては少し違う。
日本人を守りたい一心で動いているんじゃなくて、自分の責任の範囲内の仕事を確実に遂行しようとしているのだ。
責任の範囲内はとても真面目。でも一歩でも責任の外だと、たとえそれが邦人保護のためであっても、動かない。
意地悪な事を言いたく無いが、そうとしか感じなかった。
制度が驚くほど硬く、遅い。物理的な危険はもちろん怖い。けれど、状況が悪化したときに頼るはずの制度が、「規則だから」「手順だから」「担当が違うから」という、いかにも日本的な理由で起きているのが、今回あらためてよく分かった。もし政府便の話がなかったら、今もまだUAEに足止めされていたかもしれない。
そして思ったこと
心の底から思う。
自力で帰って来れて良かった。
もし政府便に乗って帰っていたら、どれだけ不満があっても、それを口にできる空気ではなかった。どれだけ乗らざる負えない理由があったとしても、税金で帰ってきたという事実と目線はある。誰にも予期出来なかった事態なのだ。悪いことでは無い。しかし帰国者が取材やカメラを浴びている姿やSNSの声を見ると、うちは双子連れで目立つし、そんな事本当は心配したくないが、乗らなくて済んで本当に良かったと思ってしまう。
と言うわけで無事にドバイ国際空港からマレーシアへ。
すっかり観光も楽しんでいる。
8年前に一度来たが、違う国かというくらい発展している。
すごい。
またマレーシア記も書く予定🇲🇾✒️
