Vol.41 「症状がないから大丈夫」が、いちばん危ない。無症状で進む病気の話。
「別に何の症状もないから大丈夫ですよ」
この言葉は、しばしば聞く危険なフレーズです。
医療の現場では、「なんとなく体がだるい」という軽い主訴で受診した方が、念のため行った検査で進行がんを指摘され、そのまま入院になる——そんなケースは決して珍しくありません。
ひどい場合には「何の症状もなく健診でたまたま指摘されただけ」なのに、それがもう末期の状態である、ということもあります。
病気の種類によりますが、命を落とす直前まで、自覚症状はあまりない。そういう病気も珍しくないのです。
病気は、皆さんが思っているより静かに、そして突然やってきます。
がんが怖いのは、早期では症状がほとんどないことです。痛み、出血、急激な体重減少——そういう症状が出てから病院に行っても、すでに「早期」ではない場合が多いのです。
最近の医療技術の進歩は目覚ましく、早期発見できれば内視鏡治療だけで完治できるがんも増えました。Vol.27 Vol.27 胃カメラとバリウム、どちらを受けるべきか。そもそも胃の検査は必要か。|ドクターO でも触れた胃がんの内視鏡治療や、大腸ポリープの内視鏡治療など、お腹を切らずにがんを取り除ける時代です。
しかしその恩恵を受けられるのは、「症状が出る前に見つけた」人だけです。
「まだ大丈夫」という感覚は、根拠のない楽観です。Vol.32 予防のパラドックス——「重症患者を治す」だけでは、社会は健康にならない。|ドクターOで書いた「予防のパラドックス」が示すように、低リスクに見える人の中に、実際の発症数は最も多く隠れています。だからこそ、症状の有無で受診するかどうかを決めるのは構造的に間違っているのです。科学的なメンテナンス(がん検診)を定期的に受けること——それが、自分の人生の選択肢を守り続ける最も確実な方法です。
「症状がない」ことが「健康である」証拠にならない最も典型的な例が、高血圧・糖尿病・脂質異常症・初期がんです。これらはいずれも、深刻な状態になるまで自覚症状がほとんどありません。高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれ、何年にもわたって血管を傷め続けながら、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞として現れます。
「症状がないのに検診を受けるのは無駄」と感じる方もいますが、考え方を逆にしてほしいのです。症状が出てから受診するのは「火事になってから消火器を買う」ようなもの。健診は「今は症状がないからこそ受ける」ものです。
「予防的受診」という概念を持ってほしいと思います。元気なうちに医師と関係を作り、自分のベースラインの数値(正常時の値)を把握しておくことが、将来の変化を早期に察知するための基盤になります。
Vol.17 Vol.17 健診の歴史——日本はなぜ世界有数の健診大国になったのか。|ドクターO でも触れたように、日本は世界的に見ても健診インフラが整った国です。にもかかわらず、がん検診の受診率は欧米と比べて低い。「健診大国だが、がん検診は不十分」というギャップが、私が予防医学に軸足を移した理由の一つでもあります。
症状が出てから動く医療から、症状が出る前に動く予防医学へ——この意識の転換が、長期的な健康を守る最初の一歩です。
参考:
国立がん研究センター がん情報サービス「がん検診について」https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/index.html
厚生労働省「2022年国民生活基礎調査の概況」https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/index.html
*noteの記事の内容は筆者の個人としての見解です。筆者所属の医療機関の見解とは一切関係ありません。内容の正確性には細心の注意を払っておりますが、万が一不適切な内容がございましたらご指摘いただけましたら幸いです。
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