ひまわり🌻
いつものホームセンターの奥に、
見慣れない園芸コーナーができていた。
LEDライトは同じはずなのに、
そこだけ光が柔らかい。
夕方の美術館みたいな色をしていた。
木の棚には、花の袋が静かに並んでいる。
『モネの睡蓮』
『ミュシャの百合』
『北斎の朝顔』
どれも園芸用品には見えなかった。
古い画集を、そのまま袋に閉じ込めたみたいだった。
店員さんは深い緑のエプロンをしていた。
けれど、指先には土ではなく、
乾いた絵の具がついている。
青。
黄色。
白。
その人はジョウロではなく、
筆でも洗うみたいな手つきで
霧吹きを握っていた。
「……これ、ちゃんと育つんですか」
自分でも、なぜそんなことを聞いたのかわからない。
店員さんは少しだけ笑った。
「ええ。咲きますよ」
「普通の花が?」
「いいえ」
その返事だけ、不思議とはっきり聞こえた。
棚の奥には、小さな水鉢が置かれていた。
覗き込むと、水面の上で淡い光が揺れている。
絵の具を一滴落としたみたいに、
青と桃色が、ゆっくり混ざっていた。
「花はね」
店員さんが静かに言う。
「咲くというより、思い出すんです」
「……思い出す?」
「昔、誰かが見た景色を」
店内のBGMが遠かった。
どこかでガタンと台車の音がする。
誰かが肥料袋を運んでいる。
なのに、この場所だけ、
水の中みたいに時間が遅い。
「おすすめはありますか」
気づけば、そう聞いていた。
店員さんは棚の前に立ち、
指先で袋をなぞっていく。
青。
白。
紫。
そして最後に、黄色で止まった。
「あなたは——」
その瞬間、
遠くでレジの電子音が鳴る。
世界が少し揺れた。
僕は瞬きをする。
気がついたら、
ひまわりの種の袋を、強く握りしめていた。







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