「働きたいだけ働く」の問題点―労働法のプロが問い直す「働く」について
「働きたいだけ働く。何が問題なの?」
最近、高市政権になってからの「働きたい改革」に賛同して、そう思っている方は、けっこう多いかもしれません。
正直なところ、私もどこかでそう思っていました。
でも今日聴いたラジオ番組で、その“当たり前”をやさしく問い直されて、ハッとさせられたので、シェアさせてください。
労働法のプロが、“働く”を問い直す
TBSラジオ「荻上チキ・Session」の特集、「“働く”を問い直す〜労働法から見える日本社会の現在地」。
ゲストは、労働法学の第一人者・水町勇一郎先生(早稲田大学法学学術院教授)です。
水町先生は、政府の「働き方改革実現会議」の議員も務めた方。
『労働法入門』(岩波新書)などの著書でも知られ、フランスやアメリカの労働法制も長く研究されてきた研究者です。
全国社会保険労務士連合会でも、社労士向けに研修をしてくださっており、私も尊敬してやまない方です。
その先生が、むずかしい専門用語をかみ砕きながら、ありきたりな説明ではなく「その人ならではの視点」で労働法を語ってくださる。
聴いていて、何度も「なるほど」とうなずきました。
心に残った3つの視点
① 働き方改革は「悪しき正社員中心主義を直す」もの
働き方改革というと、残業を減らす・休みを取る、といった話に聞こえがちです。
でも水町先生は、その本質を「悪しき正社員中心主義を直すこと」と表現されていました。
とても本質的だな、と感じます。
ここで少し驚く話をひとつ。
実は「正社員」という言葉、法律のどこを探しても定義は書かれていません。
労働基準法では、正社員もパートも契約社員も、みんな同じ「労働者」。
「期間の定めがなく、フルタイムで、直接雇用される人」と一般に呼ばれているだけで、実は、法律上の区分ではないのです。
定義もないのに、「正社員」という働き方だけが「標準」とされ、ひとり歩きしてきた。
その前提そのものを問い直そう、というわけです。
② 日本には「働きすぎ」を止めるブレーキがない
番組では、海外との比較も印象的でした。
ヨーロッパは、労働法の規制がしっかりと働く人を守っている。
アメリカは、労働法の縛りがないけれど、個人や家族の価値観が「ここまで」という線引きをしている。
ところが日本は、そのどちらのブレーキもかかりにくい、といいます。
言われてみれば、と思い当たる方も多いのではないでしょうか。
③ 「働きたい」気持ちに、あえてブレーキをかける理由
私が一番考えさせられたのが、ここです。
「本人が働きたいと言っているなら、いいじゃないか」。そう思いがちですが、水町先生の視点は違いました。
ひとつは、その「働きたい」が本心かどうか分からないこと。知らず知らずのうちにそう強いられていて、本人も気づいていない場合がある。
もうひとつは、まわりへの影響です。長く働くことが当たり前になると、「私は8時間で十分」という人や、家族の事情で長くは働けない人の選択肢を、結果的にせばめてしまうことになります。
先生は仰ってはいませんでしたが、ふたり以上世帯の場合は、そうして「働きたいだけ働く」人がいると、どうしても、残りの人が家事などを引き受けざるを得ない、という状況も生まれがちです。
「働きたい人が働く自由」だけを見ていると、つい見落としてしまう視点だなと感じました。
「よく知っている人」の言葉は、やさしくて深い
水町先生のお話は、広くて深い知識がベースにあるのに、言葉がとてもやさしい。
そして、よくある解説をなぞるのではなく、ご自身の視点で労働法を見せてくださいます。
労働や雇用、働き方について「なんとなくモヤモヤ」を抱えている方にこそ、一度聴いてみてほしい番組です。
労働法って、自分の生き方や働き方を支えるための必要な知識なんだなと、あらためて思いました。
▶ 番組はこちら:「荻上チキ・Session」特集(2026年6月15日放送分)
