オラフ・ステープルドン『最後にして最初の人類』――「 第十三章 金星の人類」「 第一節 ふたたび根を下ろす」
前章の最後で、迫り来る月の衝突から逃れるため、多大な犠牲を払いながらも金星への移住を果たした第五期人類。本節では、新天地に降り立った彼らを待ち受けていた想像を絶する苦難と、かつてない規模の文明崩壊が描かれる。
彼らは金星を地球の環境に近づけるべく大気改造を試みたが、自然の猛威は彼らの想定を遥かに超えていた。極端な温度差がもたらす絶え間ない暴風雨と濃霧、そして大気改造の副産物である水素の引火による大爆発が、彼らの築いた居住塔を次々と破壊していく。
さらに彼らを絶望の淵に追いやったのは、未知の疫病だった。金星の水に由来する消化器官の病に加え、脳に組み込まれていたテレパシー器官(火星人の細胞)が環境の変化によって暴走し、神経系のガンを引き起こしたのだ。人々は肉体的な苦痛だけでなく、狂気に陥る恐怖に怯えながら死んでいった。
猛暑と疫病によって人口は激減し、輝かしい知性と文化は急速に失われていく。やがて応用科学すら維持できなくなり、未熟な技術の操作による事故が多発すると、生き残った人々は「自然に手を加えることは悪である」という迷信に囚われ、自らの手で書物や科学機器といった過去の遺産をすべて焼き払ってしまう。
地球で人類史上最高のユートピアを築き上げた第五期人類は、こうして完全に過去との繋がりを失い、海によって分断された孤立した部族として、惨めな野蛮状態へと転落していくのである。
「再び根を下ろす」というタイトルとは裏腹に、人類が文字通りゼロからやり直すことを余儀なくされる「第二の暗黒時代」の始まり。ステープルドンが描く、大自然による容赦のない文明リセットの凄絶さを、ぜひ味わってほしい。
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