オラフ・ステープルドン『最後にして最初の人類』――「第一章 バルカン化したヨーロッパ 」「第二節 英仏戦争」
「第1章第1節 欧州大戦とその後」、読んでどんな印象を持っただろうか。
著者のステープルドンが突きつけてくる、我々「第一期人類」がいかに自らの作り出した環境の重圧に耐えきれず、限界を迎えているかを見てもらった。
実際には欧州戦争も英仏戦争も起こらなかったし、それどころか、欧州の国力自体がいつのまにか矮小化していることを知っている我々には、奇異にも映る世界だ。しかし、第二次大戦に突入する前、世界がこんなふうに見通せていたというのは興味深い。それをベースに予測した世界は、もしかしたら、本当に起きていたことかもしれない。
今回TALESにアップした「第1章第2節 英仏戦争」では、いよいよ具体的な「歴史」が動き出す。舞台は欧州大戦(第一次世界大戦)後のヨーロッパだ。ここで「最後の人類」の口から語られるのは、あまりにも皮肉で、悲劇的な我々の自己破壊のプロセスである。
ステープルドンがここで描くのは、たったひとつの「ささいな偶然」がいかに巨大な歴史の歯車を狂わせるか、という恐るべきシミュレーションだ。
物語の中で、激化する英仏戦争のさなか、イギリス政府は敵国フランスに対して「我々は撃たない」という奇跡的で英雄的な平和のメッセージを送る。人類がまさに国家の壁を超え、ひとつの世界へと統合されようとしたその絶頂の瞬間。そこで、一機の迷走した飛行機がロンドンに墜落し、一人の美しい王女の命を奪うという事故が起きるのだ。
この偶然が、平和への祈りを一瞬にして「制御不能な憎悪」へと反転させる。フェイクニュースに踊らされ、性的なシンボルでもあった王女の死に狂乱する群衆は、瞬く間に理性を失い、自らの手で大英博物館をはじめとする文明の遺産を灰にしてしまう。
はるか未来の視点から描かれたこの悲劇だが、読んでいて背筋が寒くならないだろうか。発端となる「暴行の噂」というフェイクニュースや、大衆の原始的な部族意識が暴走する姿は、1930年に書かれたとは思えないほど、現代のSNS社会の危うさと不気味なほど重なって見える。
我々の文明がいかに危ういバランスの上に成り立っているか。そして、人間という動物がいかにたやすく狂気に呑み込まれるか。
「最後の人類」が容赦なく解剖するこのドラマチックな歴史の転換点を、ぜひ一緒に目撃してほしい。
断っておくが、ここもやっぱり、読むに耐えない。でも、もうちょっとだけ、我慢して読み進んでみてくれ。それでもしんどければ、斜め読みでも構わない。いや、ここに書いてある紹介文だけ読んで、次に行ってもらっても構わない。😂
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