オラフ・ステープルドン『最後にして最初の人類』――「 第十章 荒野の第三期人類」「第二節 第三期人類の脱線」
前節で誕生した、赤金色の産毛と6本の指を持ち、生命への深い共感を抱く「第三期人類」。本節では、彼らが辿った数々の文明の中でも、ひときわ異彩を放つ「脱線」の歴史が描かれる。
彼らは本来、生物学的な関心を主軸とする種族であったが、その極めて鋭敏な聴覚とリズムへの感受性ゆえに、時として「音楽」の魔力に完全に魅了されてしまうことがあった。
ある時、一人の預言者の登場により「宇宙の生ける精神は純粋な音楽であり、すべての人間は一つのメロディーである」という教義が広まり、ついには世界を支配する「音楽の神聖帝国」が打ち立てられる。
この音楽宗教は、やがて恐るべき方向へと暴走していく。個人の音楽的体験を重視する反逆的な一派が、音楽的才能(魂)を強化するための「品種改良」に執着し始めたのだ。その結果、特定の音楽には恍惚となる一方で、好みに合わない音楽を聴くと発狂して殺人を犯すような、異常に過敏な特権階級が生み出される。彼らが支配する狂気の神権政治によって社会は完全に崩壊し、世界は殺戮と混乱の時代へと沈んでいく。
純粋で強力な美的体験への渇望から生まれながら、狂気と破滅へと至るこの悲哀に満ちた「音楽帝国」のエピソードは、ステープルドンの想像力が遺憾なく発揮された本作屈指の奇妙なパートである。ぜひその凄みを味わってほしい。
最初から読むにはマガジンからどうぞ。
