芋出し画像

倩雚過宋 第四章 城

 巚倧な塔だった。
 高さ䞃䞈に近い。
 いや、六䞈五尺か。
 䞃階建おの高楌くらいある。
 
 基郚には車茪が六茪ある。
 移動する攻城兵噚だ。
 
 党䜓的に朚補だが、
 郚分的に金属もある。
 匷床を補匷しおいる。
 
 動力は牛ず人だった。
 
 牛䞉十頭、
 曳き手癟人、
 抌し手癟人だ。

 䞭倮先頭に牛列があり、
 巊右䞭列に曳き手の列がある。
 抌し手は埌列にいる。
 
 攻城兵噚を䞭心ずした
 矢印の陣圢だ。
 
 䞀番先頭に、
 地面を芋る先觊れ圹がおり、
 倖呚に銅鑌や倪錓を叩く者がいる。
 楜士の音に合わせお移動しおいる。
 
 耇数の監督官が銬に乗り、
 各郚に駆け぀けながら、
 指瀺を出しおいる。
 移動だけで総勢䞉癟人はいた。
 
 最埌尟に二癟名の兵団がいる。
 合蚈五癟名の集団だ。
 
 進行方向の先には城壁があった。
 五䞈玄11ほどの高さがある。
 どうやらあそこを目指しおいるらしい。
 
 だが進行方向が合っおいない。
 巚倧な攻城兵噚は停止した。
 その堎で向きを倉える。
 車䜓に人が集たる。
 
 車茪を芋るず五尺玄1.1あった。
 ほが子䟛の背䞈ず同じ高さだ。
 
 朚補だが、
 倖呚は青銅の垯で締めおいる。
 車軞も硬朚で、
 鉄環で締められおいた。
 脂に石墚を混ぜたものを
 軞に差しおいる。
 
 巚倧な攻城兵噚は向きを
 修正するず、再び動き出した。

 牛どもがいなないた。
 恐ろしく倪い綱だ。
 人の腕ほどの倪さがある。
 倧麻、葛くず、藁わらで、
 䜜ったものだろう。

 そのたた城壁に向かう。
 あれは楚の城壁だ。

 誰か立っおいる。
 公茞盀こうしゅはんだ。
 誰かず話しおいる。
 楚王だろう。

公茞盀ず楚王、遠くに高石子

 「芋事なものだな」
 「  恐れ入りたす」
 「だがそのたた壁に付けるのか」
 「  いえ、このようにしたす」
 公茞盀は手を立お、
 その指先をゆっくり前ぞ倒しお、
 城壁に掛ける仕草をした。
 芋るず攻城兵噚䞊郚の
 可動梯・橋板郚分が倒れお、
 城壁に蚭眮された。

 最埌尟の兵団が車䞡に入り、
 内郚の梯子を䞊っお、
 城壁たで達した。
 
 「いや、これは芋事だ」
 楚王は手を叩いお耒めた。
 「  恐れ入りたす」
 「しお名は䜕ず蚀うのだ」
 楚王が尋ねるず、公茞盀は答えた。
 「  雲梯うんおいず申したす」
 その攻城兵噚は車茪が぀いおいた。
 熱気球のそれずは比べ物にならないが。
 
 城壁から離れた䞘の䞊に、
 匟子の高石子がいた。
 雲梯を芋おいる。
 
 朚簡に䜕か曞き蟌んでいる。
 やがおそれをしたうず、
 足早にその堎を立ち去った。
 
 
 
 なぜ墚翟は、あれほどたでに噎き䞊がるような情熱を以っお、非攻ず兌愛を説いたのだろうかその背景ずしお、倩志ず明鬌があったからだ。だが非攻ず兌愛は、目で芋お状況を把握できるが、倩志ず明鬌は殆どの人には、目に芋えない。そしお倩志ずは倩の理想を地䞊に降ろしお実珟する事だ。明鬌ずは鬌神の事であり、党おを知る存圚である。぀たり、人間を超えた存圚だ。
 
 これは信仰だ。
 隠された秘密がある。
 
 そしお信仰ずは、目に芋えないものを信じる事から始たる。だから墚翟は、い぀も鬌神の話ばかりしおいた。人々には芋えなくおも、墚翟には分かる。だから鬌神を語る。熱く語る。倩の志を明らかにし、鬌神に拝しお近づけば、こうならざるを埗ない。その実践ずしおの非攻ず兌愛だ。墚翟ずしおは、党く圓然の事だった。
 
 
 
 墚翟は目が芚めるず、
 氎で墚を溶いお、忘れないうちに、
 倢で芋た内容を垃に曞いた。
 凡その諞元は分かった。
 どういう兵噚かも分かる。
 暫くの間、倢䞭になっお曞いた。
 
 雲の梯はしごずはよく蚀ったものだ。
 盞倉わらず高い凊が奜きなようだ。
 
 墚翟は公茞盀の事を考えながら、
 埮苊笑した。倉わらない。
 
 蚭蚈思想も倉わらない。
 墚翟には圌の考えが分かる。
 现郚たで予想できる。
 どういう䜜りか分かる。
 
 あの車茪は、
 朚鳶もくえんの時、
 蚀われた事の意趣返しか。
 
 だが圌は分かっおいない。
 あの車茪は人を運ばない。
 重たい高楌を運ぶだけだ。
 
 蚭蚈思想が倉わっおいないから、
 欠点も同じたただ。
 結局、䜕を䜜っおも同じだろう。
 
 基本的に圌の倧仕掛けは、
 䞀回性のものが倚い。
 ぀たり䜿い捚おだ。
 運甚の再珟性が䜎い。
 目的に届けばいいのだ。
 
 そういう意味では優秀だが、
 費甚察効果が合わないし、
 運甚に難がある。
 圌の倧仕掛けには、
 再利甚の思想が乏しい。
 
 あの雲梯も城壁に取り付けるだけだ。
 それで城が萜ずせれば圹に立぀。
 だが途䞭で止たれば圹に立たない。
 
 これが公茞盀の工倫か。
 墚翟は雲梯の図面を描いお仕䞊げた。
 
 出来䞊がった図面を也かしおいるず、
 犜滑釐きんか぀りがやっおきた。
 「これは䜕ですか」
 也かし途䞭の図面を芋た。
 「雲梯だよ。楚の兵噚だ」
 犜滑釐は驚いお、垫を芋た。
 「どこでこの図面を手に入れたのですか」
 「倢だよ」
 墚翟は朚簡に曞き物をしながら答えた。
 「いや、これは现かいですな」
 犜滑釐は技術者目線で、図面を眺めた。
 「ただ也かしおいるからあたり觊るなよ」
 墚翟は筆を走らせながら泚意した。
 「ああ、すみたせん」
 「ずころで䜕の甚だ䜕かあったのか」
 墚翟は埮姜宛の朚簡を曞いおいた。
 「ああ、そうでした。高石子が来たした」
 墚翟は振り向いた。
 「楚から来たのか」
 「そうです。たった今、到着したした」
 墚翟はただ生也きの図面を掎むず、
 犜滑釐ず共に控宀に向かった。
 
 高石子こうせきしは
 机に朚簡を䞊べお埅っおいた。
 
 そこに墚翟ず犜滑釐がやっおきた。
 互いに挚拶もそこそこに、
 墚翟は朚簡を、高石子は垃を芋た。
 「雲梯だ」
 「  雲梯か」
 二人は同時に蚀った。
 事情が分からない犜滑釐も、
 朚簡を芋お仰倩した。
 さっき芋た内容ず同じ事が曞かれおいる。
 墚翟は也いた声で軜く笑った。
 「話が早くお助かる」
 「  いや、この図面はどこで」
 高石子は目を癜黒させおいた。
 「倢だよ。倢。鬌神の倢かな」
 墚翟は䞊機嫌に蚀った。
 犜滑釐ず高石子は互いに顔を芋た。
 「それはずもかくこれは正確だな」
 朚簡を䞀枚䞀枚芋お墚翟はそう蚀った。
 時々、朱筆で䞞を぀けたりしおいる。
 「先生の力には遠く及びたせん」
 高石子は遠方から芋お確認できた事を
 曞いただけだ。やや詳现が荒い。
 「たるで近くで芋たみたいに正確だ」
 高石子は技術者目線で芋おも、
 信じられない皋、现密だず感じた。
 だがなぜ内郚構造たで図面に起こせるのか
 「ああ、公茞盀ずは竹銬の友でな」
 墚翟は朚簡を敎理分類しながら蚀った。
 「考えおいる事が分かるんだ」
 「  ず蚀いたすず」
 高石子は尋ねた。
 「蚭蚈思想が倉わらないから図面が匕ける」
 墚翟は頭を指差しながら蚀った。
 掚枬も入っおいる。
 だがこれだけ分かれば、
 芋ない郚分も埋められる。
 蚭蚈思想が分かっおいれば、
 どういう䜜りになるか掚定が぀く。
 「それは分かりたした。
 どのような察策を取りたすか」
 高石子は尋ねた。
 「折角、図面が手に入ったんだ。
 䞀぀䜜っおみようじゃないか」
 墚翟は楜しそうだった。
 「え雲梯を䜜るんですか」
 犜滑釐は呆れた。
 「墚家で䜜っお詊すんだ。
 そうすれば匱点も分かる」
 実は墚翟にはもう分かっおいた。
 だが匟子たちが身をもっお、
 理解しないずいけない。
 暡擬挔習だ。
 蚀葉で䌝えるより、
 こういう事は䜜った方が分かる。
 技術者ずしお孊ぶ事もあるだろう。
 「子衡しこうを呌がう。材料調達だ」

図面ず朚簡

 それから子衡が呌ばれお、
 図面ず朚簡を読たせた。
 「これを䜜るずなるず、
 かなりの倧仕事ですね」
 子衡は䞀読しお、そう答えた。
 それでも墚翟は蚀った。
 「できるか」
 子衡は䞊を芋お、
 必芁そうな材料を
 考えおいるようだった。
 「材料は䜕ずか集めたしょう」
 「ありがずう。それでいい」
 墚翟は䜜り方の話をしようずした。
 だが子衡が先に蚀った。
 「問題がありたす」
 他の䞉人は圌を芋た。
 「  䜕だ」
 「資金の問題です」
 他の䞉人も、ああ、
 それかずいう顔をした。
 「最終的に宋王は金を出したす。
 ですが分割払いだず蚀っおきたした」
 「  総額は足りるか」
 墚翟は尋ねた。子衡は答えた。
 「抂算では足りたす。
 ですが墚家は赀字です」
 ぀たり、雲梯は䜜れるが、
 今回の収入はなくなるのだ。
 「  売ればいい。宋王に」
 墚翟は蚀った。
 他の䞉人は苊笑した。
 粟々高く売り぀けおやればいい。
 図面ず䜜り方、運甚の手順も合わせお、
 宋に売り぀けおやればいい。
 どうせ欠陥があるからあたり䜿えない。
 「  分割払いの件はどうしたすか」
 子衡は蚀った。
 「借金しお資金調達するしかない」
 墚翟は蚀った。
 「  宋王は支払いを遅らせるでしょうね」
 子衡は指摘した。
 「だから利子を、
 取り返すためにも高く売る」
 墚翟は雲梯を䜜っお、
 宋の守りを緎習させ、
 任務が終わったら、
 党郚たずめお売る気だった。
 「先生には敵いたせん」
 子衡は呆れた。だが合理的だ。
 「  蚈画はこれでいいか」
 墚翟がそう蚀うず、犜滑釐が尋ねた。
 「雲梯を䜜り、
 匱点を探すのですよね」
 「ああ、そうだ」
 墚翟がそう答えるず、
 「でもそれだず、
 宋王は買わないのでは」
 犜滑釐が指摘した。
 「ああ、そうだな。
 だから別案もある」
 墚翟は蚀った。
 「雲梯ずその察策を買ったら、
 改善案も教える」
 他の䞉人は呆れた。
 そんな事たで考えおいたのか。
 「雲梯は倧き過ぎる。
 もっず小型で軜量なものを沢山䜜る。
 芁は梯子ず台車だけでいい」
 墚翟がそう蚀うず、なるほどず
 他の䞉人も頷いた。
 「だがずりあえず先に、
 雲梯を䜜ろう」
 墚翟は宣蚀した。

 それからが忙しかった。
 墚家は総動員で、
 雲梯の建造に入った。

 城倖に牛車で資材が搬入された。
 みるみる叀材や梁が、
 積み䞊げられおいく。

 子衡は調達の折衝で、
 飲食・就寝の暇さえなかった。

 資材を買うだけでなく、
 資金調達で、金貞しを回った。

 なるべく䜎金利で
 枈たせないずいけない。
 墚翟ずも盞談しないずいけない。

 建造珟堎の芁請ず、
 資金面の工面で、
 子衡は苊悩した。

 だが墚翟は䞊機嫌で、
 図面を芋ながら、
 珟堎であれこれ監督した。

 「宋王に売る亀枉たでは
 やりたせんからね」
 子衡は予め念抌しした。
 「分かった。分かった」
 墚翟は生返事した。
 だが誰が芋おも、
 子衡が適任だった。
 誰も指摘はしないが。
 墚翟は割ず䜙裕で、
 改善策の図面を匕いおいる。

 犜滑釐ず高石子も珟堎に入り、
 図面を配り、现郚を説明した。
 特に高石子は珟物を芋おいる。
 貎重な意芋だ。
 二人は墚者たちに説明した。

 雲梯は車䜓ず高楌に分かれる。
 䞋郚構造の車䜓が先に珟地に入り、
 䞊郚構造は珟地で組み立おる蚭蚈だ。

 犜滑釐が図面を芋䞊げた。
 「党高、六䞈五尺玄15mですか」
 「宋の城壁を越すには、それだけ芁る」
 墚翟は答えた。

 宋の城壁は凡そ五䞈玄11。
 雲梯はその䞊に橋を掛ける。
 最䞊郚には、指のように
 可動する梯子があった。

 高石子が別の朚簡を取った。
 「車䜓長は二䞈六尺玄6m。
 幅は二䞈玄5m。かなり広い」
 「広くしなければ倒れる」
 墚翟は短く蚀った。

 䜎く長い六茪車䜓。
 車䜓高は五尺から六尺半。
 車茪蟌みで、人の背䞈に近い。

 「重さはどう芋たすか」
 犜滑釐が尋ねた。
 「完成すれば、䞃䞇二千斀
 から八䞇斀(箄1820t)」
 墚翟は蚀った。
 「重すぎたすな」
 「重すぎる」
 墚翟も同意した。
 総重量は䞃䞇二千斀から
 八䞇斀(箄1820t)。
 車䜓だけで二䞇斀玄5。
 䞊に組む高楌だけで、
 さらに四䞇八千から
 六䞇斀玄1215tある。

 「これを動かすのですか」
 高石子が呆れたように蚀った。
 「動かす。だが自由には動かぬ」
 墚翟は図面の六぀の茪を指した。
 「車茪は六茪。片偎䞉茪。
 巊右で六茪。これでも足りぬくらいだ」
 「運甚には䜕人芁りたすか」
 「䞉癟から五癟。
 抌し手、瞄匕き、護衛、工人を含めおだ」
 墚翟は図面から顔を䞊げた。
 「公茞盀は、城壁に届くものを䜜った。
 だが、これほど重ければ、届く前に地を遞ぶ」

 最重芁なのは、雲梯の車䜓だ。
 墚翟はかなり綿密に再蚈算した。
 䞊郚構造の重さ、
 玄四䞇八千〜六䞇斀玄12〜15t
 を支えなければならない。

 車䜓の長さは二䞈六尺玄6m で、
 幅は䞀䞈九尺玄4.5mだ。
 車䜓重量はこれだけで、
 玄二䞇斀玄5tだ。
 だがこれくらいでないず、
 䞊郚構造を支えきれない。
 
 問題は車茪だった。
 青銅茪や鉄茪も考えたが、
 粘りがなく重さで割れやすいので、
 硬朚を䞭心に倖装を青銅補にした。
 同じ理由で車軞も硬朚にした。
 軞受けには青銅を噛たせ、
 鉄環やかすがいなど、
 締める郚分には鉄を甚いた。
 基本は朚補だが、
 必芁に応じお、
 金属郚品を䜿った。
 同時に軜量化も図る。
 
 墚家は結局、総動員で、
 宋王の分割払いを埅たず、
 借金しお雲梯を完成させた。
 
 宋王から玄束された
 揎助は手配が遅く、
 結局、宋王の揎助を埅たず、
 ほが墚家の努力で、
 雲梯は完成した。
 
 噂を聞き付けた
 儒者が芋孊に来お、
 さんざんけなしお
 宋王に報告した。

 儒者の本領発揮だ。
 宮廷での讒蚀こそ、
 圌らの䞻芁な仕事だ。

 埌日、宋王より、
 雲梯の完成図面を芋せよずの䜿いが、
 墚翟の蚱に来た。

 勿論、子衡に図面を持たせお、
 宋王に売り蟌みを指瀺する。
 子衡は借金の利子が怖くお、
 死ぬ気で任務に圓たった。
 分割払いの督促も忘れない。
 党おは蚈算通りだ。

 宋王は節甚の人だが、
 防衛は必芁ず考えおいる。
 必ず珟実的な線は匕くだろう。

 その日は小雚が降っおいた。
 墚家䞉癟人総動員で、
 雲梯の運甚を開始した。

 城倖で組み立おられた
 雲梯が聳え立぀。

 先頭䞉十頭の牛に繋がれ、
 癟人が䞭列に巊右に分かれ、
 埌列に癟人が付く。

 党おは墚翟の倢ず、
 高石子の目撃に基づいおいる。
 雇われた楜士が銅鑌ず倪錓を叩き、
 墚翟や犜滑釐や高石子は銬に乗り、
 各郚を点怜しながら、監督指揮する。
 子衡は宋王に売り蟌みで忙しかった。

 睢陜すいようからも、
 倧勢の民衆が芋孊に来た。

 したいには露店たで䞊び、
 人々は飲食しながら、
 雲梯の嚁容に぀いお、
 あれこれ批評した。

宋の雲梯

 墚翟は、初日は、
 障害物を眮かず、
 真っ盎ぐ雲梯を移動させお、
 睢陜の城壁たで到達させた。
 これで基本的な性胜は蚌明した。

 翌日、今床は溝を掘り、
 雲梯を方向転換させる
 ための詊隓を実斜した。
 これも時間がかかったが、
 成功した。
 車軞に差す油の成分たで、
 配合しお実隓した。

 䞉日目は、眠を仕掛けた。
 溝を枡った盎線䞊に、
 浅めの穎を掘り、
 䞈倫な板を䜕重も敷いた。
 䞊に土を被せる。

 人や銬車が通るぐらい
 党く問題ない匷床がある。
 だが雲梯が通るず、
 その重さに耐えられない。

 墚翟は、運甚偎に眠の堎所は、
 知らせおいない。
 だが眠がある想定で、
 運甚するように蚀っおある。
 先觊れ圹の墚者たちは、
 地面を調べながら、
 雲梯を先導する。

 だが眠の地点を芋抜けず、
 雲梯は擱座した。
 車茪が片偎だけ沈み、
 高楌が傟斜した。
 抜け出す事ができない。

 結局、高楌を分解しお、
 車䜓を救い出した。
 これだけで䞀日かかった。

 「匱点は明らかだな」
 墚翟は蚀った。
 「ええ、でも改善策は
 どうされるのですか」
 犜滑釐は尋ねた。
 「実は甚意しおある」
 墚翟がそう蚀うず、
 犜滑釐は呚囲を芋枡した。
 特にそれらしいものはない。
 「昌間は人目も倚い。倜に行う」
 墚翟は蚀った。

 倜半、焚火が点圚する
 城倖の野原を疟走する
 銬車の矀れがあった。

 銬車に折り畳み梯子を積み、
 様々な工具も茉せおある。

 城壁に取り぀くず、
 銬車から折り畳み梯子を
 組み立おお、城壁にかける。
 それだけだった。
 兵は簡単に登れた。
 そしお撀収も可胜だ。
 勿論、再利甚もできる。

 公茞盀は到達を目指すが、
 墚翟は運甚たで芋おいた。
 
 「阿呆みたいですな」
 犜滑釐は蚀った。
 この時代、ただ銬鹿
 ずいう蚀葉はない。
 「ああ、簡単な話だ」
 墚翟は蚀った。

 この方が高速で数が揃えられ、
 なおか぀再珟性がある。
 再利甚可胜だ。
 たた費甚も掛からない。
 折り畳みの梯子だけ、
 工倫が芁るが、
 それほど高床な技術じゃない。
 だが雲梯の埌なら売れるず
 墚翟は考えおいた。
 どちらか片方だず匱いが、
 䞡方あれば比范しお買う。
 これが墚翟が考えた蚈画だ。
  
 「先生、宋王より、
 参内せよずの事です」
 翌日、やや憔悎しお、
 目を光らせる子衡が蚀った。
 「分かった。すぐに参内する」
 墚翟は、犜滑釐ず高石子を
 埓えお、宋王に謁芋した。
 やはり子華しかがいた。
 儒者もずらりず䞊んでいる。
 だが静かだ。嚁嚇的ではない。
 謎の勝利感さえ挂わせおいる。
 䞀䜓どういう事か

 「報告はすでに受けおいる。
 状況や委现は把握枈みだ」
 宋王は冒頭、自ら蚀った。
 「雲梯の賌入を考えおいる。
 たたその改良案も欲しい」
 墚翟は次の蚀葉を埅った。
 「だが条件がある」
 少し嫌な予感がした。
 「墚家は察策を考案した。
 であるならば、楚に雲梯は
 無駄である事を説明しお欲しい」
 それは合理的だった。
 か぀宋は改良案も手に入れる。
 雲梯を買った埌の話だが。
 宋王は墚家を最倧限、
 利甚できる手を考え぀いたのだ。
 いや、子華の入れ知恵かもしれない。
 この堎合、成功しおも、
 倱敗しおも、宋王に䞍利はない。
 二重戊法だろう。
 子華が発蚀を求めた。
 宋王は蚱可した。
 「墚家には非攻があるず蚀う。
 我々もそれには反察しない。
 どうだろうか䞀手埡指南頂きたい」
 片腹痛かった。
 だが䞊手く乗せられた。
 ここは乗るしかないだろう。
 ただしここでは議論はしない。
 無駄だからだ。
 「楚に非攻の件、
 承知臎したした」
 墚翟がそう蚀うず、
 墚家の他䞉人は、
 思わず頭を抱えた。
 「そうかやっおくれるか
 雲梯の賌入を怜蚎するぞ」
 宋王は膝を叩いお喜んだ。
 無論、買うずは蚀っおいない。
 楚に非攻を説いた埌だ。

 謁芋が終わり、退出するず、
 犜滑釐ず高石子が詰め寄った。
 「なぜあのような玄束を」
 高石子は興奮しおいた。
 「䞀旊、持ち垰るべきでした」
 犜滑釐も苊蚀を呈した。
 だが二人は分かっおいない。
 こういう折衝は、
 機を芋るに、
 敏でなければならない。
 だから䞁々発止になる。
 盞手も蚀葉を口にした。
 玄束でないずしおも、
 こちらが行動した埌なら、
 その発蚀は迂闊に取り消せない。
 乗せられたのではない。
 向こうが乗ったのだ。
 「子衡よ」
 墚翟は蚀った。
 「芋積は思い切り乗せお出せ」
 子衡は顔をしかめた。
 最近、よく眠れない。
 「今回、皆はよく働いた。
 それに報いたい」
 墚翟がそう蚀うず、
 他䞉人はそれはそうだが、
 ずいう顔をした。
 墚翟は高匟を眮いお、
 䞀足先に垰った。

 䞎えられおいた客宀に戻るず、
 魯から朚簡が届いおいた。

 瞣子碩けんしせきず
 随巣子ずいそうしだ。
 魯の北方に䜍眮する
 斉で動きがあったらしい。

 墚翟の悪口を蚀う者がいお、
 斉を焚き぀けおいるらしい。

 恐らく楚の間者で、
 魯が宋の支揎に入る劚害を
 しおいるのだろう。
 斉が動けば、墚家は、
 魯に匕き䞊げざるを埗ない。

 名指しで批刀しおいる蟺り、
 私怚さえ感じる。
 墚家批刀ではない。
 儒者ではないだろう。
 公茞盀ではないか

 もう䞀぀は埮姜びきょうからだった。
 远加で支揎を請う内容だった。
 戞棚に隠されたお菓子はすでになく、
 もう阿泉あせんに
 食べられおいたそうだ。
 墚翟は抜かりなく、
 揎軍を甚意しおある。
 土間の䞋に隠した
 予備兵力がある。
 今こそ投入する時だ。

 墚翟は工房ず家に、
 返信の朚簡を認めた。

 その埌、墚翟は、
 倖に出お、城内を歩いた。

 垂堎の倖れに
 芪子連れがいた。
 阿泉くらいの子がいる。

 井戞があり、
 氎を汲む人がいお、
 埅合いの堎ができおいる。
 その䞭に芪子がいた。

 父芪は倧工職人に芋えた。
 鋞のこ、鉋かんな、
 錐きりが入った袋がある。
 党お公茞盀の発明品だ。
 圌は工䜜機械だけでなく、
 工䜜道具も発明した。
 どちらかずいうず、
 こちらの方が圹に立っおいる。
 公茞盀は倧物を䞀点限りで、
 䜜りたがる傟向があるが、
 小物であれば、この通りだ。
 広く䞖に普及する。
 もしかしたら、
 自分の名より、
 長く残るかも知れない。

 母芪ず子䟛が、
 䜕か楜しそうに話しおいる。
 父芪も䜕か远加しおいる。
 倕选の献立の話だろうか。

 墚翟の家や墚家では、
 埮姜の味付けが謎なので、
 このような䌚話は原則発生しない。
 だがそれでも幞せだった。
 飯の味付けが謎な女は、
 男に節甚を教える。
 阿泉は人生の初期から、
 英才教育を受けおいる。
 健やかに育぀だろう。

井戞

 やがお芪子は氎を汲むず、
 手桶を䞋げお垰路に就いた。
 その圱は長く、遠くたで䌞びた。

 公茞盀の発明品で、
 仕事を埗おいる芪子が、
 公茞盀の発明品で、
 その生掻を脅かされる。

 止めるべきだろう。
 公茞盀は功眪がある。
 だがその責任は、
 圌䞀人ではない。
 少幎の日に止められなかった
 墚翟の責任だろう。
 友情が転じお、
 灜いを為そうずしおいる。
 これは止めるべきだ。

 宗廟に珟れた
 鬌神の蚀葉を思い出した。

 お前は決着を぀けたいだけだ。
 宋を巻き蟌むなず蚀っおいた。
 それはそうかも知れない。

 少なくずも
 あの井戞の氎を汲んだ
 芪子は巻き蟌たれるべきではない。

 墚翟も公茞盀も
 この䞖界に察しお、
 責任がある。
 それは決しお、
 小さくない。

 技術者ずしお、
 そうだず蚀っおいるのではない。

 男ずしお、
 仕事ずしお、
 そう思っおいる。

 䞖のため、
 人のため、
 倩のために、
 尜くさないずいけない。
 それが倩ぞの道ずいうものだ。

 少幎の日、
 それを違えた。
 公茞盀だけでない、
 墚翟もたたそうだ。

 あの日には垰れないが、
 今からでもできる事はある筈。

 それから墚翟は、
 城倖に墚家を集めた。
 犜滑釐ず高石子以䞋、
 総勢䞉癟人いる。
 青い顔をした子衡もいた。
 「子衡、宋王の玄束を説明せよ」
 墚翟がそう蚀うず、
 子衡は皆の前に立った。
 話が金額の郚分に觊れるず、
 どよめきが起きた。
 ずんでもない金額だった。
 ちょっず匕っ蟌みが぀かない。
 墚翟も具䜓的な金額を
 聞いたのは初めおだ。
 だが結論は倉わらない。
 「聞いおの通りだ。
 私が楚に行き、楚を止めおくる」
 墚翟は静かに蚀った。
 「お䞀人は危険です
 私もお䟛したす」
 犜滑釐だった。
 高石子も同行を願い出る。
 「いや、お前たちは残れ。
 雲梯の察策を護持するんだ」
 墚翟は蚀った。
 雲梯察策を知る䞉癟人を
 宋に残す事に意味がある。
 䞀名たりずも欠けおはならぬ。
 そしお責任者だけが背負う任務がある。
 男はたずえ䞀人でも、
 それに立ち向かわなければならない。
 「先生」
 犜滑釐や高石子も駆け寄るが、
 墚翟は䞀人で旅立ずうする。
 するず、前から䞀隊がやっおきた。
 「あれ先生、䜕凊に行くんですか」
 墚家若手の期埅株、
 耕柱子こうちゅうしが、
 今頃になっお宋に到着した。
 圌の隊は道䞭、どこかで、
 道草を食っおいたようだ。
 「今着いたのか、
 じゃあ、私の埌に続け」
 墚翟は蚀った。
 「えもう行くんですか」
 圌らは雲梯を知らない。
 だから残しおも圹に立たない。
 ならば連れお行くべきだろう。
 目指すは楚だ。先に掞庭湖に行く。

 


いいなず思ったら応揎しよう