24歳の娘、いざパリへ。〜部屋も仕事も未定の荒波と、32年前の私〜

24歳の娘が、自分の足で新しい未来を切り拓きに飛び込む場所です。
Buonasera a tutti! (みなさん、こんばんは。)
フィレンツェの家具修復士のみっちーです。
8月も後半に入りました。フェッラゴースト(聖母被昇天の祝日)の連休が明け、日本の皆さんもお盆休みを終えて日常に戻られた頃でしょうか。残暑の中、今週もお仕事や家事、本当にお疲れ様でした。どうぞご無理をなさらず、お身体を大切にお過ごしくださいね。
イタリアも、8月半ばの深い静寂のピークを越え、今週いっぱいはまだ夏休みモードのお店が多いものの、来週24日(月)頃からは少しずつ街に活気が戻ってくる気配が漂っています。
さて、そんな日常の再開を前にした我が家ですが、実は今、リビングの空気がちょっぴり張り詰めています。
というのも、24歳になる私の娘が、いよいよパリへと旅立つカウントダウンに入ったからです。
今回のエピソードもラジオ(stand.fm)でお話ししています。
旅立ちを前にした娘のリアルな様子や、32年前の自分と重ね合わせながら感じる親としての想いを、ぜひ私の「生の声」でも受け取っていただけたら幸いです。
出発日を24日に変更した、リアルな理由
以前のエッセイでも少しお話ししましたが、娘は勤めていた名門ラグジュアリーブランドを退職し、パリの大学院(マスターコース)へ進学してキャリアを自力でアップデートするという大きな挑戦を決意しました。
当初の予定では、まさに今日・8月21日(金)にパリへ出発するはずでした。
ところが、直前になって出発日を「8月24日(月)」へと変更したのです。
理由はとてもシンプル。先週お話しした通り、イタリアだけでなくフランス・パリも今週いっぱいはバカンスの真っ只中。不動産屋も企業も本格的に動き出すのは24日頃からなので、「それなら数日遅らせても状況に大きな差はないね」と、冷静に日程を仕切り直すことにしました。
……と、スケジュール自体は合理的に変更したものの、出発が目前に迫るにつれ、娘の表情には目に見えて緊張と不安の色が濃くなってきました。
それもそのはず。
大学院の授業は9月からスタートするというのに、なんと現時点で「パリの部屋」も「学費を負担してくれるスポンサー企業」も、まだ何ひとつ確定していない状態なのです。

不安を抱えながらも、彼女はこの街のどこかで自らの居場所を見つけていくはずです。
12月までのタイムリミットと、背水の陣
娘が挑戦しているのは、フランスの「アルテルナンス」という産学連携の制度です。大学院で学びながら企業で働き、その企業が学費を全額負担してくれて給料も支給されるという、自力で進学したい若者にとっては夢のようなシステムです。
しかし、その「スポンサー企業」は自力で勝ち取らなければなりません。
期限は今年の12月まで。もしスポンサーが見つからなければ、高額な学費を自分で工面するか、道を諦めざるを得ないという、まさに背水の陣のサバイバルです。
住む場所も、働く先も決まっていない未知の大都市へ、スーツケースひとつで飛び込んでいく。
普段はカラッとしていて強気な娘ですが、さすがに出発が現実味を帯びてくるにつれ、不安とプレッシャーに押しつぶされそうになっているのが痛いほど伝わってきます。
眉間にシワを寄せて画面を見つめる娘の背中を眺めていると、ふと、私の胸の中に32年前の記憶が鮮やかによみがえってきました。
32年前の私と、いまの娘――同じ「24歳」という場所
それは奇しくも、私がすべてを捨てて単身イタリアへと渡ったときと、まったく同じ年齢です。
あの頃の私と、いまの娘。
同じ24歳での海外挑戦ですが、置かれた状況は良くも悪くも、まるで違います。
当時の私は、親に反対されるのが怖くて、すべての手続きを裏で勝手に進めて直前に「私、イタリアへ行くから」と事後報告した、本当に身勝手で親不孝な娘でした。それに比べれば娘は、最初から自分の夢や計画をオープンにし、堂々と家族に相談しながら準備を進めてきました。その意味では、娘の方がずっと大人で立派です。
けれど、現地の受け入れ環境という点では、私の方が圧倒的にぬるま湯でした。
32年前の私は、イタリアに着いた時点で身を寄せるホームステイ先も決まっていましたし、通う学校もすべて手続き済みでした。何より、着いてすぐに自力で仕事を探して学費と生活費を稼ぎ出さなければならない、という切迫したプレッシャーはありませんでした。
一方の娘は、部屋すら決まらないままパリへ乗り込み、言葉も文化も違う異国で、12月までのリミットの中で企業と交渉し、自らの居場所を勝ち取らなければなりません。
親の目から見ても、彼女が背負っているプレッシャーの大きさは、当時の私の比ではないのです。
ハラハラしながらも、信じて待つということ
不安そうに眉をひそめる娘を見ていると、親としてはつい「大丈夫なの?」「本当に見つかるの?」と余計な口を出したくなってしまいます。
けれど、ここで親が取り乱したり、先回りして手を出してしまっては、彼女が自分で広げようとしている翼を傷つけてしまうだけ。
「部屋がなくても、スポンサーがまだ決まっていなくても、命まで取られるわけじゃない。まずはパリに着いたら美味しいクロワッサンでも食べて、一つずつ片付けていけばいいじゃない」
そう言って笑いかけると、娘も少しだけ肩の力を抜いて苦笑いしてくれました。
不安やハプニングを抱えながらも、自分の足で一歩を踏み出そうとしている娘。そんな彼女の姿を見つめながら、私自身も「親として、人生の先輩として、どう佇み、どう見守るべきか」を深く考えさせられる日々を過ごしています。
8月24日、我が家の頼もしいZ世代は、いよいよ新しい未来をこじ開けにパリへと旅立ちます。

この街で過ごす日々が彼女の人生を艶やかに磨いてくれますように。
今週末のラインナップ
明日からの週末は、我が家の「挑戦」と「世代を超えて紡がれるご縁」、そして「自立を見守る親の心」にまつわる物語をお届けします。
明日・土曜日:【蔵出し裏話】
今から30数年年前、私が初めてイタリアの地に足を踏み入れたときのお話。 「ここに住みたい」と心を奪われたあの旅には、実は私のその後の人生に思いがけない形でつながっていく「ある人物」が同行していました。 30年以上の時を経て、その人とのご縁が、今まさに我が家の次の世代へと不思議なご縁でつながっていくことになります。時を超えて紡がれる、我が家のリアルなサバイバルとご縁の裏側をお届けします。
日曜日:【人生哲学】
「信じて待つ、ということ〜家具修復士が考える、子どもの自立と親の佇まい〜」。 傷ついた木を直すとき、余計な力をかけずに木の復元力を信じてじっと待つように、自立していく子どもを前に親はどう心を整え、ドッシリと構えるべきか。不安や思い通りにいかない日々を人生の豊かな「年輪」に変えていくための哲学をしっとりとお届けします。
毎週土曜・日曜の有料記事は、各200円でも単品購入いただけます。 でも、もし毎週の工房やトスカーナの物語が「続きが気になる」「自分のペースで読み返したい」と思っていただけているなら、月額500円の「みっちーの合鍵マガジン」がおすすめです。 フィレンツェの日常や手仕事の記憶を綴ったアーカイブも、いつでも好きな時間に紐解いていただけます。 週末のひとときに、合鍵を一本持っていませんか?
エピローグ
荷造りが進む娘の部屋を見つめながら、子離れの少しの寂しさと、彼女の旅立ちを特等席で見届けられる誇らしさが静かに胸を満たしています。
かつて私が24歳で日本を飛び出したあの日から、32年。 親の敷いたレールやブランドの看板に寄りかからず、自分の足で荒波へ飛び込んでいく娘の背中を、私は一番の応援者として、最高の笑顔で送り出したいと思います。
みなさんの周りでも、新しい一歩を踏み出そうとしている大切な方はいらっしゃいますか? どうぞ温かく、肩の力を抜いて背中を押してあげてくださいね。
今週も最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。 どうぞ心安らぐ、素敵な週末をお過ごしください。
Buon fine settimana!
(素敵な週末をお過ごしくださいね!)
トスカーナの自宅より、感謝を込めて。
みっちー
