①溢れ出ていく歪んだ器──幸せが怖かった話
プロローグ
人が口にするような、
幸せな場面に身を置くたびに、
その幸せは、
脆く簡単に崩れ落ちていく気がする。
それは悍ましい怪物に、
常に見張られているような感覚。
そんな緊張感があった。
それはちゃんとした彼氏がいる時も。
信頼できる友人がいる時も。
結婚してからも同じで、
その感情は、
私を追いかけて見離してくれない。
満たされると、空にしたくなる。
常に飢えていないと、
生きている心地がしない。
それに慣れきっていた。
幸せはそういう歪んだ器の中に、
落ちてはこぼれ、溢れ出ていき、
きっとずっと、
満ち足りることはないのだろう。
わたしはそんな不確かで、不安定な器を、
胸に仕舞い込んでいた。
第一章
関係がうまくいくほど、怖かった。
壊れるのが怖くて、
先に壊したい衝動が止められない。
望んでたわけじゃなかった。
でも、このザマ。
そして関係が壊れた後、
お決まりのセリフが聞こえる。
ほらね。
その声は、
とても乾いてて、無機質で。
怒り、安堵、虚無感。
めまぐるしい感情たちと、
順番に向き合いながら、
心身が消耗していく。
私を罰してるのか。
それとも癒してくれてるのか。
知らなくていい、知りたくもない。
いつも聞くたびに、頭が揺れた。
そんな日は決まって、
すべての鎧を脱ぎ捨てて
自分を慰める。
私の熱に触れている間、
その瞬間だけ忘れられた。
第二章
最初はふつうの人間関係だった。
買い物に行ったり、カラオケに行ったり、
一般的な友人と呼べる関係を、
築いているつもりだった。
でもお互い近づきすぎて、傷つけあった。
距離感に戸惑い、深さに迷い、
見誤ってばかり。
一番怖いのは、
何も言われないこと。
何があったか教えてくれないこと。
気付いたら離れていて、
いなくなってた。
見捨てられた事実に、
なんとか堪えた。
第三章
やっと手にした一握りの希望は、
幸せという形では、保っていられない。
ひどく優しい人だ。
だからこそ不安でたまらない。
こんな人に裏切られたら、
最も残酷だから。
そもそも私には、
幸せになる資格はあるのだろうか。
その資格はどこかに売ってるんだろうか。
どうせ私には買えない。
それを得た瞬間に、破壊の始まりが訪れる。
そんな妄想が止められない。
そんな時はあれを思い出す。
ダメだったやつは、
幸せになる資格はないのか。
なっちゃダメなのか。
誰かの黙認でしか、
味わうことができないのか。
安らかな寝顔の横で、
悍ましい想像をする私のことを、
彼はどう思うだろうか。
エピローグ
さまざまな顔をした幸せが、
私を襲う。
私の歪んだ器は、
どの顔も受け止めることはできない。
今はこのまま、
逃げ続けることしかできない。
このまま身体ごと逃がして欲しい。
いつか器を作り直すまで。
▶ この人格の始まり
「お前はダメだ」シリーズ①
▶ 私のOSは母が作った
前提シリーズ①
▶ 欠落は、こうして器になる
OSの断片
「愛のなかに見えていた」
