第8回 できることを、できる時に、できるところから——誰も一人ぼっちにしない場所づくりのはじめ方
まだ途中だからこそ、始められる
誰も一人ぼっちにしない場所をつくりたい。
そう思って、この連載を書いてきました。
でも、これは完成した活動の報告ではありません。
まだ途中です。
すべての仕組みが整っているわけではありません。
大きな場所があるわけでもありません。
十分な人手や予算があるわけでもありません。
それでも、私は思うのです。
途中だからこそ、書けることがある。
途中だからこそ、始められることがある。
完璧な形になるのを待っていたら、目の前の一人に声をかけることさえ、後回しになってしまうかもしれません。
だから私は、できることを、できる時に、できるところから始めていきたいと思っています。
ここまで書いてきたこと
第1回では、看護師として35年歩んできた経験が、今の夢につながっていることを書きました。
病院を離れても、白衣を脱いでも、私の中には人の不安に耳を澄ませるまなざしが残っていました。
第2回では、子どもたちに必要なのは勉強だけではなく、安心できる場所なのだと書きました。
「ここにいていい」と思える場所があって初めて、子どもたちは少しずつ自分の力を出せるようになるのだと思います。
第3回では、シニアは支えられるだけの人ではないと書きました。
長い人生の中で培ってきた記憶や知恵は、次の世代に手渡せる大切な力です。
第4回では、支える人も支えられていいということを書きました。
子どもを支える親も、介護をする家族も、奉仕する人も、一人で抱え込まなくていい。
第5回では、子どもとシニアが出会う場所について書きました。
教える人と教えられる人が入れ替わり、支える人と支えられる人も固定されない場所です。
第6回では、奉仕は与えるだけではなく、受け取ることでもあると書きました。
誰かを支えようとする中で、私自身もまた励まされ、癒されていました。
第7回では、パン作り、昔遊び、歌、散歩、会話のような小さな活動から、未来の居場所が育っていくのではないかと書きました。
ここまで書いてきて、改めて感じます。
居場所づくりは、特別な誰かだけがするものではない。
大きな制度や立派な建物がなくても、今日の小さな関わりから始められるのだと思います。
はじめの一歩は、声をかけること
誰も一人ぼっちにしない場所づくりのはじめの一歩は、特別なことではないのかもしれません。
目の前の一人に、声をかけること。
「おはようございます」
「来てくれて嬉しいです」
「元気でしたか」
「会えてよかったです」
そんな短い言葉で、人の心が少しやわらぐことがあります。
何か立派なことを言わなくてもいい。
すぐに深い話をしなくてもいい。
ただ、その人の存在に気づいていること。
その人がそこにいることを喜んでいること。
それが伝わるだけで、人は少し安心できるのではないでしょうか。
話を急がずに聴くこと
二つ目に大切にしたいのは、話を急がずに聴くことです。
人は、すぐに正解を求められると、話せなくなることがあります。
「こうしたらいいよ」
「それは違うよ」
「もっと頑張らないと」
そんな言葉が、必要な時もあるかもしれません。
でも、まず必要なのは、安心して話せることなのだと思います。
うまく言えなくてもいい。
途中で黙ってしまってもいい。
同じ話を何度してもいい。
その人のペースで言葉にできるように待つこと。
それだけでも、誰かの孤独を少しやわらげることがあります。
できていることを見ること
三つ目は、できていないことだけではなく、できていることを見ることです。
私たちは、つい足りないところに目が向きます。
学校に行けていない。
勉強が進んでいない。
片づけられていない。
忘れっぽくなっている。
気持ちが不安定になっている。
もちろん、困っていることに目を向けることは大切です。
でも、それだけでその人を見てしまうと、その人の中に残っている力を見落としてしまいます。
今日、来ることができた。
少し笑えた。
誰かに「ありがとう」と言えた。
昔のことを話してくれた。
誰かの変化に気づけた。
手伝おうとしてくれた。
小さな「できていること」を見つけることは、その人の力を信じることにつながります。
人は、自分の中にある力を見てもらえると、少しずつ前を向けるのだと思います。
小さな役割を渡すこと
四つ目は、小さな役割を渡すことです。
人は、支えられるだけではなく、誰かの役に立つことで元気を取り戻すことがあります。
お茶を入れる。
机を拭く。
荷物を持つ。
初めて来た人に声をかける。
昔の遊びを教える。
スマホの使い方を教える。
話を聴く。
ただそばで見守る。
役割は、大きなものでなくていいのです。
「あなたにもできることがある」
「あなたがいてくれて助かった」
そう感じられることが、人の心を温めます。
居場所とは、ただ安心していられる場所であると同時に、自分にも小さな役割があると感じられる場所なのだと思います。
一人で抱え込まないこと
五つ目は、一人で抱え込まないことです。
誰かを支えたいと思う人ほど、自分一人で頑張ろうとしてしまうことがあります。
もっと私が動かなければ。
私が何とかしなければ。
迷惑をかけてはいけない。
そう思ってしまうことがあります。
でも、一人で抱え込む支援は、いつか苦しくなります。
支える人も、支えられていい。
相談していい。
分担していい。
休んでいい。
誰かと一緒に考えていい。
誰も一人ぼっちにしない場所づくりは、支える人を一人ぼっちにしないことでもあるのだと思います。
完璧でなくていい
居場所づくりは、完璧でなくていいと思っています。
毎回うまくいくわけではありません。
人が集まらない日もあるかもしれません。
思ったように会話が弾まない日もあるかもしれません。
準備が足りなかったと思う日もあるかもしれません。
自分の言葉がうまく届かず、落ち込む日もあるかもしれません。
それでも、失敗しながら、学びながら、少しずつ形にしていけばいいのだと思います。
大切なのは、完璧な場所を作ることではなく、目の前の一人を大切にしようとし続けることです。
できることを、できる時に、できるところから。
その歩みでいいのだと思います。
その人の歩幅を大切にする
誰も一人ぼっちにしない場所づくりで、私が忘れたくないことがあります。
それは、その人の歩幅を大切にすることです。
早く変わってほしい。
元気になってほしい。
学校に行けるようになってほしい。
外に出てほしい。
誰かと関われるようになってほしい。
そう願うことは自然なことです。
でも、こちらの願いが強くなりすぎると、相手の歩幅を置き去りにしてしまうことがあります。
人には、それぞれのペースがあります。
すぐに変われない日もあります。
立ち止まる日もあります。
戻ってしまったように見える日もあります。
それでも、その人の中には、その人なりの力が残っています。
だから、急がせすぎず、あきらめすぎず、そばにいること。
その人の歩幅を大切にすること。
それも、居場所づくりの大切な土台だと思います。
今日、ここから始める
誰も一人ぼっちにしない場所づくりは、遠い未来の大きな計画だけではありません。
今日、ここから始められます。
誰かに声をかけること。
話を最後まで聴くこと。
小さな良さに気づくこと。
「助かりました」と伝えること。
「一緒にやってみましょう」と誘うこと。
「無理しなくていいですよ」と言うこと。
その一つひとつが、誰かの心に小さな安心を届けるかもしれません。
そして、その小さな安心が積み重なって、いつか居場所になっていくのだと思います。
私もまだ途中です
私自身も、まだ途中です。
迷うことがあります。
失敗することがあります。
人との関わりの難しさに立ち止まることもあります。
それでも、看護師として出会ってきた人たちから教えられたまなざしを、これからの活動の中で生かしていきたいと思っています。
子どもたちが安心できる場所。
シニアの方々が役割を感じられる場所。
支える人も支えられる場所。
奉仕する人も癒される場所。
誰かが「ここにいていい」と思える場所。
そのような場所を、少しずつ育てていきたいと思います。
大きなことはできないかもしれません。
でも、できることを、できる時に、できるところから。
その小さな一歩を、これからも大切にしていきたいと思います。
今日のまとめ
誰も一人ぼっちにしない場所づくりは、特別な人だけがするものではありません。
声をかけること。
話を聴くこと。
できていることを見ること。
小さな役割を渡すこと。
一人で抱え込まないこと。
その一つひとつが、居場所づくりの始まりになります。
完璧でなくてもいい。
途中でもいい。
できることを、できる時に、できるところから。
そこから、人と人がつながる温かな場所は育っていくのだと思います。
人生の問いかけ
あなたの周りに、今、少し孤独を感じている人はいるでしょうか。
また、あなた自身が
「ここにいていい」
と思える場所はあるでしょうか。
大きなことではなくても、今日できる小さな一歩は何でしょうか。
今日の小さな一歩
今日、身近な誰かに一つ、温かい言葉をかけてみたいと思います。
「会えてよかったです」
「助かりました」
「一緒にやってみましょう」
「無理しなくていいですよ」
その一言が、誰かにとっての小さな居場所になるかもしれません。
