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未明の砦/太田愛【読書記録】ー「小さな声が歴史を動かす」静かに胸を打つ社会派青春群像劇

✳︎衣咲(えさき)です

読後、じわじわと感情が押し寄せてくる。
読みやすいのに、深くて重たいテーマが静かにのしかかってくる。
太田愛さんの『未明の砦』は、そんな一冊でした。

非正規雇用や労働者の歴史と現実に真正面から向き合いながら、
美しい風景描写と緻密な人間ドラマでぐいぐい読ませてくれる物語。
読み応えがあるのに、気持ちよく読み進められる。
読めてよかった、心からそう思える作品でした。

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海辺の語らいから始まる、それぞれの物語

ある夏の日の海辺。4人の非正規労働者たちが、休暇中にも実家に帰らず、ささやかに集まって過ごしている。
「なぜ今の仕事をしているのか」「どうして帰省しないのか」
ぽつりぽつりと語られていくそれぞれの過去と事情が、とても静かで切ない。

それぞれが抱える事情がある。
社会のどこかでこぼれ落ちたような人たちが、静かに生きている。
そんな中で、ある事件が起き、彼らを取り巻く状況が少しずつ動いていきます。

社会派群像劇としての強さと優しさ

『未明の砦』のすごさは、重たい社会テーマを扱いながらも、それを押しつけがましくなく、自然な物語の流れとして描いているところにあると思います。
戦後、GHQ占領下では派遣雇用が禁止されていたこと。
そこからどうやって、現代の「非正規」という働き方が広がっていったのか。私たちが普段あまり目を向けない歴史と制度の背景が、物語の中でさりげなく示されていきます。

そして、登場する人物たちはどれも丁寧に描かれていて、誰一人として「脇役」ではない。
それぞれにちゃんと生きていて、どこかで読者の誰かと重なるようなリアリティがあるのです。
全員が必要で、全員に物語がある。だからこそ、最後の展開に向けての緊張感が自然と高まり、ページをめくる手が止まらなくなっていきます。

「小さな声」の力を信じたくなる

物語を通して伝わってくるのは、
「一人の声なんて何も変えられない」そんな無力感を超えていく力です。

誰かの叫びは、すぐに結果を生まないかもしれない。
でも、それが少しずつ、誰かの意識を変え、社会を動かしてきた。
そんな歴史の積み重ねの中に、私たちもまた生きている。
そう思うと、どんなに小さくても「声をあげること」「行動すること」には意味があるんだと信じたくなります

自分を偽らず、できることをひとつずつ―
そんなふうに生きていきたいと思わせてくれる読書体験でした。


物語の余韻にひたりながら、もう一度本の表紙を見てみました。
最初に見たときと、感じ方がまったく違っていて、
あの写真の意味が心にすとんと落ちてくる
そんな瞬間に、読書の深さと面白さを改めて感じました。


#未明の砦
#太田愛

大手自動車メーカー「ユシマ」の工場で働く四人の非正規工員は、夏休みのある出来事を契機に大きくその人生の軌道を変える。そして冬、彼らは共謀罪の初の標的となる。逃亡のさなか、四人が決意した最後の実力行使の手段とはー。共謀罪始動の真相を追う刑事、この国を超法規的な手段で一変させようと試みるキャリア官僚。怒りと欲望、信頼と打算、野心と矜持。それぞれの思いが交錯する。最注目作家・太田愛が描く、瑞々しくも切実な希望と成長の社会派青春群像劇。

内容紹介(「BOOK」データベースより)



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