第1冊『株式会社EQUES』――松尾研発AIスタートアップは、研究・製薬・エネルギー・量子・フィジカルAIをどう社会実装するのか(第2回)(第Ⅰ部 Origin 第1章 松尾研からEQUESへ――AI研究から企業が生まれる)
第Ⅰ部 Origin
――研究から企業が生まれる
企業には、設立年月日より前から存在しているものがある。
創業者が何を学んできたのか。
どのような研究環境にいたのか。
どのような技術に触れたのか。
どのような企業課題を経験したのか。
そして、既存の組織ではなく、新しい会社をつくる必要をなぜ感じたのか。
会社の登記によって法人は成立する。しかし、企業を動かす知識、人材、問題意識、技術的能力まで、その日に突然生まれるわけではない。
EQUESのOriginを理解するには、2022年2月1日から時計を動かすだけでは不十分である。
その前に、大学がある。
研究がある。
東京大学がある。
松尾研究室との接点がある。
システム情報学やハプティクスを含む創業者の研究背景がある。
そして、AI研究を企業の課題へ接続してきた経験がある。
第Ⅰ部では、これらがどのように一つの会社へ集約されていったのかを追う。
⸻
大学発スタートアップについて語るとき、「大学発」という言葉はしばしば一種のブランドとして使われる。
しかし本書では、そのようには扱わない。
重要なのは名称ではなく、Knowledge Transferの実態である。
大学や研究環境に存在していた知識が、人を介して企業へ移る。
研究方法が移る。
Experimentの考え方が移る。
最新技術へアクセスする能力が移る。
企業との共同研究経験が移る。
さらに、それらが採用、開発Process、顧客との関係、Product、Organizationへ変換されていく。
その過程を、
Research → People → Company
として読む。
⸻
ただし、EQUESは松尾研究室そのものではない。
ここには明確な境界がある。
大学研究室では、研究上重要なQuestionを追究できる。
Startupでは、そのQuestionを社会のProblemへ接続しなければならない。
研究成果だけでなく、顧客価値を生み出す必要がある。
Experimentだけでなく、Productionが必要になる。
Technologyだけでなく、Businessが必要になる。
個人の専門性だけでなく、Organizationとして再現可能なCapabilityが必要になる。
したがって大学からStartupへの移行は、
ResearchをBusinessへ捨てること
ではない。
研究能力に、
顧客。
市場。
組織。
資本。
納期。
運用。
責任。
という新しい条件を加えることである。
⸻
EQUESの創業を考えるうえでは、もう一つ重要な点がある。
それは、AIだけを起点にしないことである。
創業者の岸尚希は、システム情報学やハプティクスという、情報と現実世界の接点に関係する研究背景を持つ。
この事実を、後年のフィジカルAI事業へ直線的に結びつけるべきではない。
2026年の事業を見た後から、「最初から現在の展開が予定されていた」と解釈すれば、企業史を結果から書き換えることになる。
しかし一方で、2026年のEQUESがSoftwareだけでなくPhysical AIへ活動領域を広げた現在から振り返ることで、創業者が持っていた技術的背景に新しい意味を見いだすことはできる。
ここでは、
当時確認できるFact
と、
後から見えるCorrespondence
を区別する。
それが本書の企業史の読み方である。
⸻
2022年2月1日は、その意味で一つの境界になる。
その日より前には、人、Knowledge、Experienceが存在している。
その日以後には、それらを継続的な社会実装へ変える法人が存在する。
個人が持っていた能力を、Companyが持つ能力へ変えなければならない。
Individual Capability → Organizational Capability
という転換が始まる。
研究者やEngineerが優秀であるだけでは会社にならない。
Knowledgeを共有する。
Teamを形成する。
顧客を獲得する。
Projectを管理する。
Codeを蓄積する。
再利用可能なArchitectureをつくる。
人を育てる。
失敗から学習する。
これらをOrganizationとして反復できるようになって初めて、研究能力は企業能力へ変わる。
⸻
EQUESはまだ若い会社である。
だからこそ、この形成過程を観察できる。
完成した巨大企業では、現在の組織構造から創業時のKnowledge Transferを逆算することは難しい。
しかしEQUESでは、大学・研究・企業との接点から会社が生まれ、そこから伴走型技術開発、製薬AI、エネルギーAI、フィジカルAI、量子コンピューティングへと活動範囲が広がっていく時間が比較的短い。
そのため、
何を持って創業したのか。
何を後から獲得したのか。
何が個人能力から企業能力へ変わったのか。
を追いやすい。
第Ⅰ部で問うのは、EQUESが「どれほど優れた大学発Startupか」ではない。
より基本的な問いである。
研究から、どのように企業が生まれるのか。
そして、
研究者・Engineer・Knowledge・Experienceは、どのように一つのOrganizationへ変わるのか。
第1章では、2022年2月1日という会社の出発点から、岸尚希と創業Team、松尾研究室との関係、研究と起業、システム情報学とハプティクス、若い技術者組織へと視点を広げていく。
最後に再び、一つの問いへ戻る。
大学で形成された研究能力は、会社という新しい主体を得たとき、何へ変わるのか。
Research → People → Company。
ここからEQUESの企業史が始まる。
第1章 松尾研からEQUESへ
――AI研究から企業が生まれる
第1節 2022年2月1日
2022年2月1日。
株式会社EQUESは、この日を設立日としている。現在の本社は東京都文京区本郷に置かれ、代表取締役は岸尚希、取締役は助田一晟である。EQUES自身は、東京大学松尾研究室発のAIスタートアップとして自社を位置づけている。(EQUES)
企業史として見れば、これは一つの日付にすぎない。
しかし、研究から産業が生まれる過程を考えるなら、この日は重要な境界になる。
2022年2月1日より前にも、AI研究は存在していた。
岸尚希も存在していた。
助田一晟も存在していた。
東京大学も松尾研究室も存在していた。
企業との共同研究経験も、機械学習に関するKnowledgeも、Engineering Capabilityも存在していた。
それでもEQUESという企業は存在していなかった。
設立によって起きたのは、Technologyの誕生ではない。
既に存在していた人、Knowledge、Experienceを、一つの企業主体として継続的に社会へ実装する仕組みの誕生である。
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会社が生まれる前
EQUESの創業を理解するためには、会社設立以前を見る必要がある。
岸は東京大学大学院情報理工学系研究科に進み、松尾研究所でProject ManagerやChief AI Engineerとして企業との共同研究に従事した経歴を持つ。また、東京大学工学部計数工学科在学時にEQUESを創業し、専門領域としてシステム情報学、テラヘルツ波通信、ハプティクスを挙げている。助田も東京大学大学院、松尾研Project Manager、松尾研起業クエストなどの経験を持ち、岸と計数工学科で出会いEQUESを創業したとされる。(EQUES)
ここで重要なのは、「東京大学の学生が起業した」という事実だけではない。
創業以前に、
Research
と、
Enterprise Project
の双方への接点があったことである。
研究だけを知っていたわけではない。
企業だけを知っていたわけでもない。
AI技術と企業課題が接触する場所を経験していた。
この経験が、EQUESのOriginを考える重要な初期条件になる。
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2022年という時代
EQUESが設立された2022年は、AI産業全体にとっても転換期の直前だった。
Deep Learningはすでに画像認識、自然言語処理、推薦、予測など多くの領域へ普及していた。
Transformerを基盤とするLanguage Modelも急速に大型化していた。
しかし、一般社会における生成AIの認知が爆発的に広がるのは、その後である。
つまりEQUESは、「生成AIブームが起きたから創業された会社」と単純化することはできない。
実際、EQUESは2024年のGENIAC採択時にも、自社をGenerative AIだけでなく、数理最適化を含む研究開発を行うAIスタートアップとして説明している。(EQUES)
この点は、後の企業展開を理解するときに重要になる。
EQUESの起点は特定のLLM Productではない。
より広い、
機械学習技術を社会へ実装すること
にあった。
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法人化によって何が変わるのか
研究TeamとCompanyは同じではない。
Companyになることで、新しい責任が発生する。
顧客とContractを結ぶ。
人を採用する。
給与を支払う。
知的財産を管理する。
Dataを扱う。
納期を守る。
Systemを運用する。
売上を生み出す。
事故やFailureに対応する。
そして、Organizationを存続させる。
ここで研究能力は、初めてBusinessの条件へさらされる。
研究では、
「この方法は成立するか」
を問える。
Companyでは、
「この方法を継続的な価値として提供できるか」
まで問われる。
したがって2022年2月1日は、
Research Capability → Corporate Capability
への変換が始まった日と読むことができる。
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「研究と実践」という二項
現在のEQUESは、研究と実践をシームレスにつなぎ、より良い解を社会へ実装することをVisionとして掲げている。また、最先端の機械学習技術と実務現場を結ぶ架け橋になることを、自社の役割として説明している。(EQUES)
ここには、EQUESを理解するための二項がある。
Research
と、
Practice
である。
大学側だけにいればResearchへ寄る。
一般的な受託開発だけならPracticeへ寄る。
EQUESが設定している位置は、その中間である。
研究を理解しながら、現場へ入る。
現場のProblemを理解しながら、必要なら研究へ戻る。
この往復をCompanyとして行う。
2022年2月1日に生まれたのは、単なるAI Software Companyではなく、この接続を事業として継続するためのOrganizationだったと捉えることができる。
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最初から現在のEQUESだったわけではない
ただし、ここで企業史を結果から書き換えてはならない。
2026年のEQUESには、
伴走型技術開発。
製薬AI。
QAI。
製薬特化LLM。
Energy AI。
Physical AI。
AI Agent。
Quantum Computingへの研究開発。
など、創業時より広い活動領域が存在する。
しかし、これらすべてが2022年2月1日に完成したBusiness Planとして存在していた、と推定する根拠はない。
むしろ企業は、顧客、Technology、Market、Researchとの接触によって変化する。
したがって本書では、
2026年から2022年を決定論的に説明しない。
2022年には何があったのか。
その後に何が加わったのか。
どの時点で方向が変わったのか。
何が連続し、何が非連続だったのか。
それを分けて読む。
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それでも残る連続性
一方で、創業から現在まで明確に確認できる連続性もある。
それが、
研究と現場を接続する
という方向である。
現在のEQUESは、企画から開発・運用までを一気通貫で支援し、先端AI技術と現場知識を融合する伴走型Solutionを自社の特徴として説明している。(EQUES)
製薬へ進んでも、この構造は残る。
Energyへ進んでも残る。
Physical AIへ進んでも残る。
2026年にAWSジャパンのPhysical AI開発支援Programへ採択された際にも、EQUESは研究と実践を接続する自社のApproachをPhysical AIへ適用する考えを示している。(EQUES)
つまり、Technologyは変わっている。
Domainも変わっている。
しかし、
Research → Implementation
という方向には連続性がある。
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若い会社の企業史をどう読むか
100年企業なら、創業から現在まで大量の出来事を並べることができる。
EQUESではそうはいかない。
2022年から2026年まで、わずか四年余りである。
だから本書では、年数の短さを出来事の水増しによって補わない。
代わりに、
一つの経験から何が蓄積されたか
を見る。
創業時の研究能力。
企業との共同研究経験。
伴走型開発。
製薬Domainへの進出。
Product化。
Domain-specific LLM。
Evaluation。
Energy。
Physical AI。
それぞれを独立したNewsとして扱うのではなく、企業Capabilityが形成されていくProcessとして読む。
企業史の単位を、
Year
から、
Capability
へ変えるのである。
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個人から組織へ
創業直後のStartupでは、企業能力と創業者個人の能力が重なりやすい。
顧客との関係も、技術判断も、採用も、研究も、少人数へ集中する。
しかし企業が成長するには、この状態から離れなければならない。
個人が知っている。
から、
Companyが知っている。
へ。
個人が作れる。
から、
Teamが再現できる。
へ。
個人が顧客と関係を持つ。
から、
Organizationが顧客価値を継続提供する。
へ。
つまり、
Individual Knowledge → Organizational Knowledge
という変換である。
2022年2月1日は、この変換が始まる起点でもある。
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最初の資産はKnowledgeだった
Startupについて考えるとき、資本金、Funding、Office、Productなど目に見える資産へ注目しやすい。
しかし研究開発型Startupの初期において、最も重要な資産の一つはKnowledgeである。
AIを理解している。
新しい論文を読める。
実装できる。
企業Problemを技術課題へ変換できる。
Experimentを設計できる。
必要な専門家へAccessできる。
このKnowledge Networkは、財務諸表だけでは捉えにくい。
EQUESが現在、自社の強みとして松尾研発の専門性、各領域の専門家へのAccess、価値変換力、開発速度などを示していることも、この企業特性を考える材料になる。(EQUES)
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本郷という場所
現在のEQUES本社は、東京都文京区本郷にある。(EQUES)
企業価値を所在地から決定することはできない。
しかし大学発Startupという文脈では、本郷というLocationは象徴的でもある。
東京大学を中心に、研究者、学生、Startup、企業、投資家、研究機関が近接するEnvironmentが形成されている。
研究と企業を完全に別世界として切り離すのではなく、その境界を人が往来する。
EQUESもまた、そのKnowledge Ecosystemの中から生まれた企業として位置づけることができる。
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2022年から2026年へ
設立から四年余りで、EQUESが扱う対象は大きく広がった。
2024年にはGENIAC採択を受け、製薬・薬学分野に特化したLLM、Dataset、Evaluation Benchmarkの開発を進めた。(EQUES)
2026年にはPhysical AI領域でAWSジャパンの支援Programへ採択され、VLAを含むRobot基盤Modelや、Data CollectionからTraining、実環境Deploymentまでを接続する開発を掲げた。(EQUES)
さらにEnergy AIでは、原子力施設の点検・保守、Explainable AI、Sensor・設備Dataによる予兆検知などを事業領域として提示している。(EQUES)
2022年の小さな起点から見ると、対象世界は明らかに拡張している。
しかし、その拡張の中心にある問いは変わっていない。
先端技術を、どうすれば現場で使えるのか。
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2月1日を出発点として読む
2022年2月1日に、現在のEQUESが完成したわけではない。
むしろ逆である。
その日には、まだ多くのものが存在していなかった。
現在のProductもない。
現在のDomain Knowledgeも十分にはない。
現在のPartnershipもない。
現在のPhysical AI事業もない。
だからこそ、この日は重要である。
企業とは、完成した能力の集合ではなく、能力を蓄積し続ける主体だからである。
2022年2月1日に始まったのは、一つの完成したBusiness Modelではない。
研究者やEngineerが持っていたKnowledgeをCompanyへ移し、Companyが産業と接触し、その経験を次のKnowledgeへ変えていくProcessである。
最小構造にすれば、
Research → People → Company
で始まる。
しかしCompanyが産業へ出れば、
Company → Project → Experience → Knowledge
が加わる。
そしてKnowledgeが次のTechnologyやProductを生めば、企業は成長する。
2022年2月1日。
この日は、EQUESという法人が誕生した日である。
同時に本書にとっては、もう一つの意味を持つ。
AI研究を、継続的に社会へ実装するための企業システムが動き始めた日。
ここから、松尾研との接点を持つ若い創業者たちが、どのように一つの会社を形成していったのかを追っていく。
第2節 岸尚希と創業チーム
会社は法人登記によって成立する。しかし、その会社がどの方向へ進むかは、創業時に集まった人間の経験、専門性、問題意識によって大きく左右される。
EQUESの場合、その中心にいるのが代表取締役CEOの岸尚希である。
岸を単に「東京大学出身のAI起業家」と記述するだけでは、EQUESのOriginは十分に見えてこない。
重要なのは、岸の経歴の中に、
情報工学・システム研究
AI研究開発
企業との共同研究
Project Management
起業
という複数の経験が重なっていることである。
EQUESは、一人の研究者が一つの研究成果を事業化しただけの会社ではない。
研究とEngineering、そして企業課題との接点から生まれた会社として見る必要がある。
⸻
岸尚希という創業者
岸尚希は、東京大学工学部計数工学科で学び、その後、東京大学大学院情報理工学系研究科へ進んだ。専門としてシステム情報学、ハプティクスなどに取り組み、AI領域では松尾研究所においてProject ManagerやChief AI Engineerとして企業との共同研究を経験している。
この経歴には、EQUESを理解するうえで重要な特徴がある。
岸の専門的背景は、最初からLLMだけに限定されていない。
システム。
情報。
センシング。
人間と機械のInteraction。
AI。
企業との共同研究。
複数の領域が接続している。
後年のEQUESが生成AIだけではなく、数理最適化、製薬、Energy、Physical AIなどへ活動を広げていることを考えると、この幅広いEngineering Backgroundは注目に値する。
ただし、ここで因果関係を作りすぎてはいけない。
ハプティクス研究をしていたからPhysical AI事業を始めた、と単純に断定することはできない。
確認できるのは、創業者が当初から情報を現実のSystemへ接続する研究・Engineeringとの接点を持っていたということである。
⸻
AIだけではない出発点
2026年からEQUESを見ると、LLMや生成AIの存在が大きく見える。
QAI。
JPharmatron。
RAG。
AI Agent。
これらは現在の事業を理解するうえで重要である。
しかし、2022年の創業時まで遡るなら、「生成AI企業」としてOriginを再構成するのは適切ではない。
EQUESの基礎にあるのは、より広い機械学習とEngineeringである。
Deep Learning。
数理的手法。
Optimization。
Software Development。
企業との共同研究。
そこへ生成AIの急速な進歩が後から加わった。
つまり、特定のTechnologyが会社を規定したというより、
新しいTechnologyを理解し、Problemに応じて利用する能力
が先にあったと考える方が自然である。
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共同研究で学ぶもの
岸の経歴で特に重要なのが、企業との共同研究経験である。
大学のAI研究と企業のAI Projectでは、成功条件が異なる。
企業には現実のDataがある。
予算がある。
期限がある。
担当者がいる。
既存Systemがある。
Security Requirementがある。
そして、「研究として面白いか」だけではなく、「Businessとして役に立つか」が問われる。
共同研究に参加することで、研究者やEngineerは、
TechnologyだけではProjectは成立しない
ことを経験する。
顧客が本当に解きたいProblemは何か。
そのProblemはAIで解くべきなのか。
必要なDataは存在するのか。
期待するAccuracyは現実的なのか。
PoCの後にProductionへ進めるのか。
こうした問いは、後のEQUESが掲げる伴走型技術開発とも接続する。
⸻
Chief AI EngineerとProject Manager
技術者としての経験とProject Managerとしての経験を併せ持つことも重要である。
AI Startupでは、この二つが分離すると問題が起こりやすい。
技術側は高度なModelを作る。
Business側は顧客のRequirementを聞く。
しかし、その間を翻訳する人がいなければ、両者は接続しない。
Project Managerには、
Customer Requirementを理解する。
技術的実現可能性を判断する。
EngineerへProblemを翻訳する。
Scheduleを管理する。
成果を顧客へ説明する。
という役割がある。
一方、Chief AI EngineerにはTechnologyそのものを判断する能力が必要になる。
両者を経験することは、
Technology ↔ Business
の境界を往復する経験になる。
EQUESが後に「研究と実践の接続」を企業の中心に置く背景を考えるうえで、この経歴は重要である。
⸻
助田一晟
創業Teamを考えるとき、岸一人だけに企業史を還元してはいけない。
EQUESの取締役である助田一晟も、東京大学の計数工学系を背景とし、松尾研究室関連のProject Managementや起業活動との接点を持つ人物である。
岸と助田は大学で接点を持ち、その後EQUESの創業へ進んだ。
ここで会社のOriginは、
Founder
ではなく、
Founding Team
になる。
Startupでは創業初期の人数が少ないため、一人ひとりのCapabilityが企業全体へ直接反映されやすい。
Technology。
Management。
Sales。
Recruiting。
Finance。
Project。
これらを少人数で分担しなければならない。
したがって創業Teamの組み合わせは、そのまま初期Organization Architectureになる。
⸻
なぜ一人ではなく会社なのか
高度なAI Engineerであれば、個人として企業Projectへ参加することもできる。
研究者として大学に残ることもできる。
既存企業へ就職することもできる。
それでもStartupを設立する意味は何か。
会社をつくることで、個人では難しい継続性が生まれる。
人を採用できる。
複数のProjectを並行できる。
Knowledgeを組織へ蓄積できる。
Productを所有できる。
ContractをCompanyとして結べる。
Research Investmentを継続できる。
つまり起業とは、
Individual CapabilityをOrganizational Capabilityへ拡張する選択
でもある。
EQUESの企業形成を考えるとき、この転換は重要である。
⸻
若い創業者という特徴
EQUESは、創業者たちが非常に若い段階で設立したStartupである。
これは利点だけを意味しない。
大企業で長期間働いた経験。
特定産業で何十年も蓄積されたDomain Knowledge。
大規模Organizationを経営した経験。
こうしたものを創業時から持っているわけではない。
その一方で、AI研究の最前線との距離が近い。
新しいTechnologyを学習する速度が速い。
既存の業界慣行に強く固定されていない。
Experimentを高速に行える。
つまり若さは、
Experienceの不足
と、
Learning Speedの高さ
の両方を意味する。
この二つの間をどう埋めるかが、大学発Startupの経営課題になる。
⸻
Domain Expertとの接続
そこで重要になるのが、外部の専門家との協働である。
AI Engineerだけで製薬会社をつくることはできない。
原子力施設のKnowledgeを短期間ですべて獲得することもできない。
だから、
AI Engineer。
Customer。
Domain Expert。
Researcher。
Partner Company。
が共同でSystemを設計する必要がある。
EQUESの伴走型開発や共同研究を、この観点から見ることができる。
創業Teamがすべてを知る必要はない。
重要なのは、
必要なKnowledgeへ接続し、それをTechnologyへ翻訳できるOrganizationをつくること
である。
⸻
採用によって会社が変わる
Startupの成長とは、単純に人数が増えることではない。
新しい人が加わるたびに、Companyが扱えるProblemの範囲が変わる。
Machine Learning Engineerが加わる。
Software Engineerが加わる。
Project Managerが加わる。
Domainに詳しい人材が加わる。
Business Developmentが加わる。
一人のKnowledgeがOrganizationへ接続される。
すると、
Founders’ Knowledge
から、
Collective Organizational Knowledge
への移行が始まる。
この転換が進まなければ、Companyの成長速度はFounderの処理能力によって制限される。
⸻
創業者依存から企業システムへ
若いStartupでは、創業者依存はある程度避けられない。
重要なCustomer Relation。
Technology Decision。
Recruiting。
Strategy。
これらがFounderへ集中する。
しかし長期的には、
Decision Process。
Development Standard。
Documentation。
Knowledge Base。
Evaluation Method。
Project Management。
Organization Culture。
へ変換しなければならない。
つまり、
Founder → Process → Organization
である。
創業者の優秀さを会社の競争力へ変えるには、その能力を組織として再現可能にする必要がある。
本書が第6章でKnowledge Compoundingを扱うのは、このためである。
⸻
岸尚希を英雄化しない
企業史では、創業者を中心とした成功物語が作られやすい。
しかし本書は、その方法を採らない。
EQUESが成長したとしても、それを岸一人の才能だけで説明することはできない。
共同創業者。
Engineer。
Researcher。
Customer。
Domain Expert。
大学。
Public Program。
Partner Company。
これらのNetworkが存在する。
同時に、創業者の役割を過小評価する必要もない。
初期のCompanyでは、何をProblemとして選び、どのTechnologyへ投資し、誰を採用し、どのCustomerと仕事をするかという判断が、後のCapability形成を大きく左右する。
したがって見るべきなのは人物の神話ではなく、
Founder DecisionがOrganizational Capabilityへどう変換されたか
である。
⸻
創業チームから企業へ
2022年のEQUESには、現在ほど多くのCapabilityが蓄積されていたわけではない。
しかし初期条件として、
研究へアクセスできること。
AIを実装できること。
企業Projectを経験していること。
異なる専門性を持つ人間がTeamを形成していること。
そして、自ら会社をつくって社会実装を進めようとする意思決定があった。
この組み合わせからEQUESが始まった。
最初は、
People
である。
そこにKnowledgeがある。
Experienceがある。
Networkがある。
それらが法人という器へ入る。
しかしCompanyが成長するためには、その順序を反転させなければならない。
特定の人がいなければ動かない会社から、
OrganizationそのものがKnowledgeを保持し、学習し、実装できる会社
へ変わる必要がある。
岸尚希と創業Teamを理解する意味は、創業者の経歴を紹介することだけではない。
EQUESという企業が、どのような初期Knowledgeから形成されたのかを理解することである。
People → Knowledge → Team → Company。
2022年2月1日に法人が生まれた。
しかし企業としてのEQUESが本当に形成されていくのは、その後、創業者たちの能力が少しずつOrganizationの能力へ変換されていく過程なのである。
第3節 松尾研という出発点
EQUESを理解するとき、「松尾研発」という言葉をどこまで重く見るべきだろうか。
東京大学大学院工学系研究科の松尾・岩澤研究室は、Deep Learningを中心とするAI研究を進めると同時に、企業との共同研究、教育、人材育成、起業支援などを通じて、研究成果を社会へ接続してきた研究拠点の一つである。
EQUESも、その周辺から生まれた企業である。
しかし、本書では「松尾研発」を企業価値を保証する肩書として扱わない。
重要なのは、研究室の名前ではなく、そこから何がEQUESへ移ったのかである。
Research → People → Knowledge → Company
というKnowledge Transferとして読む必要がある。
⸻
研究室は会社ではない
最初に境界を明確にしておこう。
松尾研とEQUESは別の組織である。
研究室の研究成果を、そのままEQUESの成果として扱うことはできない。
松尾研の研究者が発表した論文が、自動的にEQUESの知的財産になるわけでもない。
逆に、EQUESが顧客と開発したSystemやProductを松尾研の成果として扱うこともできない。
「松尾研発」という言葉から両者を一体化してしまえば、大学発Startupの実態を見誤る。
本書が見るのは所有関係ではなく、
Knowledge Ecosystemとの接続
である。
⸻
松尾研が形成してきた環境
松尾研の特徴をAI研究だけに限定することも適切ではない。
Deep LearningやFoundation Modelを含む研究がある。
学生への教育がある。
企業との共同研究がある。
社会人向け教育がある。
起業を志す人材への支援がある。
研究者、Engineer、企業、Startupが接触するNetworkがある。
つまり研究室を中心として、
Research
Education
Industry
Entrepreneurship
が接続するEnvironmentが形成されてきた。
大学で生まれたKnowledgeが論文だけで終わらず、人材や共同研究、Startupを通じて社会へ移動する。
EQUESのOriginは、このEnvironmentの中に置くことで理解しやすくなる。
⸻
人を介してKnowledgeが移る
大学から企業へのTechnology Transferというと、PatentやLicenseを想像しやすい。
しかしAIでは、別のTransferも非常に重要である。
それがPeopleである。
研究者や学生が、
論文を読む能力。
Experimentを設計する能力。
Modelを実装する能力。
結果を評価する能力。
新しいTechnologyを短期間で理解する能力。
研究Communityへアクセスする能力。
を持って企業へ移る。
このとき移動しているのは、一つの完成したTechnologyだけではない。
Technologyを継続的に理解し直す能力そのものである。
AIのように技術更新が速い領域では、この違いは大きい。
⸻
最新技術より重要なもの
ある時点で最新だったModelも、数年後には一般化する可能性がある。
2022年のAIと2026年のAIを比較するだけでも、利用可能なModel、Compute、Tool、開発方法は大きく変化している。
したがってStartupが大学から受け取る最も重要な資産を、「特定の最新技術」と考えると持続性が低い。
より重要なのは、
新しい論文を理解する。
再現する。
既存手法と比較する。
自分たちのProblemへ適用する。
必要なら改良する。
失敗を検証する。
というResearch Processである。
つまり、
Knowledge
だけでなく、
Learning Capability
が移る。
EQUESが長期的に研究開発型企業であり続けられるかどうかも、この能力をOrganizationとして維持できるかに左右される。
⸻
企業との共同研究という中間領域
松尾研周辺のEnvironmentを考えるうえで、企業との共同研究は重要である。
大学研究と商用Productの間に、共同研究という中間領域が存在する。
企業は現実のProblemを持っている。
大学側には研究能力がある。
両者が接触すると、
「このProblemは現在のAIで解けるのか」
という問いが生まれる。
ここでは研究者も、完全に自由なResearch Questionだけを扱うわけではない。
企業側のData。
Business Requirement。
Schedule。
Evaluation。
などの条件と向き合う。
逆に企業側も、既存Softwareを購入するだけではなく、まだ完成していないTechnologyをExperimentする。
共同研究は、
ResearchとBusinessの境界領域
になる。
岸が松尾研究所で企業との共同研究やProject Managementを経験していたことは、この意味で重要である。
⸻
Problem Settingを学ぶ
AIの社会実装では、Modelを作る前にProblemを正しく設定しなければならない。
企業が、
「AIを使いたい」
と言ったとしても、それはProblem Definitionではない。
何を改善したいのか。
どの業務がBottleneckなのか。
どのDataが存在するのか。
何を成功とするのか。
どこまでAutomationするのか。
Humanはどこに残るのか。
こうした問いへ分解する必要がある。
研究と企業の境界にいることで、
Business Problem → Researchable Problem
への翻訳を経験できる。
後にEQUESが伴走型技術開発で重視する要件定義やPoCも、このProblem Settingの延長として理解できる。
⸻
Experimentの文化
研究室からStartupへ移り得るもう一つの重要な要素が、Experimentの文化である。
最初から答えが分かっているなら、研究は必要ない。
仮説を立てる。
小さく試す。
測定する。
失敗する。
条件を変える。
もう一度試す。
このProcessは、StartupのProduct Developmentとも相性がよい。
特にAIでは、仕様書を書いただけでは性能を確定できない場合が多い。
Dataによって結果が変わる。
Modelによって変わる。
Promptによって変わる。
Environmentによって変わる。
したがって、
Hypothesis → Experiment → Evaluation → Revision
を高速に回す必要がある。
研究方法そのものが、Business Developmentの方法へ転用できるのである。
⸻
Benchmarkという研究的態度
後のEQUESによるJPharmaBenchのような取り組みも、この文脈で読むことができる。
AIを「高性能」と呼ぶだけでは研究として不十分である。
何と比較したのか。
どのTaskを測ったのか。
どのDatasetを使ったのか。
どの条件で評価したのか。
を明確にする必要がある。
このEvaluationの考え方を産業へ持ち込むと、
「このAIは使えるか」
という曖昧な問いを、
どの業務で、どの条件なら、どの程度使えるのか
という検証可能な問いへ変えられる。
研究的態度は、産業実装における品質管理にもつながる。
⸻
起業というKnowledge Transfer
大学発Startupでは、起業そのものをKnowledge Transferの一形式として見ることができる。
論文として移す。
Patentとして移す。
共同研究として移す。
人材として移す。
そして、
Companyとして移す。
Companyをつくれば、大学では扱いにくい領域へ継続的に入ることができる。
Customer Support。
Production System。
Sales。
Operation。
Product Management。
Security。
Maintenance。
これらは研究室の中心機能ではない。
Startupは、Research Capabilityを保持しながら、これらを新しく獲得する。
その結果、大学に存在していたKnowledgeが別の制度的な器へ移される。
⸻
松尾研発企業というNetwork
松尾研周辺からは、EQUES以外にも複数のAI Startupが生まれている。
このことは、個々の企業だけでなく、Startup Ecosystemとして見る必要があることを示している。
人材が育つ。
共同研究を経験する。
起業を知る。
先行するFounderから学ぶ。
新しい会社が生まれる。
その会社が次の人材を採用する。
こうした循環が成立すると、大学は単に研究成果を外へ出す場所ではなく、新しい企業を継続的に形成するKnowledge Hubとして機能する。
ただし、同じ研究室から生まれた企業でも、Business Model、Technology、Target Industryは異なる。
したがって「松尾研発」という共通Originから、各社の成功を自動的に導くことはできない。
最終的には、それぞれのCompanyが独自のCapabilityを形成しなければならない。
⸻
EQUESが独立しなければならない理由
Originが強いほど、Startupには別の課題が生まれる。
いつまでも「松尾研発」で説明される会社から、自分自身の実績で説明される会社へ移行しなければならない。
大学Brand。
Founderの経歴。
Research Network。
これらは初期の信用形成に役立つ。
しかし顧客が長期的に評価するのは、
Productが役立つか。
Systemが安定するか。
Securityを守れるか。
Domainを理解しているか。
問題が起きたとき対応できるか。
継続的に改善できるか。
である。
したがって、
University Reputation → Company Reputation
への転換が必要になる。
大学発Startupが本当に企業として成立するのは、この転換が進んだときである。
⸻
松尾研から何を継承し、何を新しくつくるのか
EQUESのOriginを整理すると、松尾研との関係から少なくとも三つの層を分けて考えることができる。
第一はPeopleである。
研究や共同Projectを経験した人材。
第二はMethodである。
Research、Experiment、Evaluation、Learningの方法。
第三はNetworkである。
研究者、Engineer、企業、Startupとの接続可能性。
しかし、その先はEQUES自身がつくらなければならない。
製薬Domain Knowledge。
QAI。
JPharmatron。
Energy AI。
Physical AI。
Customer Relationship。
Organization。
これらはEQUESというCompanyの時間の中で形成されていく。
したがって、
OriginとIdentityは同じではない。
松尾研はOriginの重要な一部である。
しかしEQUESのIdentityそのものではない。
⸻
出発点としての松尾研
本節の問いへ戻ろう。
「松尾研発」とは何を意味するのか。
それは単なる肩書ではない。
また、松尾研の研究成果すべてをEQUESへ帰属させる言葉でもない。
本書では、より限定して捉える。
研究、人材、共同研究、Experiment、起業という環境から、EQUESという新しいOrganizationが生まれたこと。
その最小構造は、
Research Environment → People → Experience → Startup
である。
そしてStartupが成立した後は、次の段階へ進む。
Startup → Customer → Domain Knowledge → Product → Company Capability
へ。
松尾研はEQUESの完成形ではない。
出発点である。
大学で形成されたKnowledgeとPeopleが、Companyという新しい器へ移る。
そこから先、そのKnowledgeをどの産業へ接続し、どのような企業能力へ変えるかは、EQUES自身の選択になる。
大学から受け取ったのは、完成した未来ではない。
新しいProblemを発見し、学習し、Experimentし、実装するための初期条件である。
その初期条件から、EQUESという独立した企業がどのように形成されていくのか。
それが、ここから追うべき企業史なのである。
第4節 研究と起業
研究と起業は、一見すると異なる活動に見える。
研究は、まだ答えのない問いを設定し、仮説を立て、実験し、知識を増やしていく。起業は、顧客の課題を発見し、製品やサービスをつくり、組織を形成し、継続的な事業を成立させる。
目的も評価基準も異なる。
しかしAIのように技術変化が速く、研究成果と産業応用の距離が短い領域では、両者の境界は接近する。
研究によって新しい可能性が生まれる。
その可能性を現場へ持ち込むと、新しい問題が見つかる。
問題を解くために、再び研究が必要になる。
EQUESの創業を理解するには、研究から起業への移行を「研究をやめてBusinessを始めた」と捉えるのではなく、研究能力を社会の中で継続的に利用するための組織形成として見る必要がある。
⸻
研究は問いから始まる
研究の出発点はQuestionである。
既存手法ではなぜ解けないのか。
別のModelなら性能は上がるのか。
どのDataが必要なのか。
どの条件なら成立するのか。
結果は再現できるのか。
研究者は、分からないものを分からないまま放置せず、検証可能なProblemへ変換する。
そして、
Question → Hypothesis → Experiment → Evaluation
を繰り返す。
このProcessは、起業にも共通する。
市場について完全な答えを持って創業する会社はほとんどない。
顧客は本当にこのProblemを持っているのか。
AIで解決する価値があるのか。
どのSolutionなら使われるのか。
顧客は対価を支払うのか。
Productとして横展開できるのか。
Startupもまた、仮説の連続なのである。
⸻
起業もExperimentである
この意味では、Startupそのものを一つのExperimentとして見ることができる。
ただし研究室のExperimentとは異なる。
研究では、条件を可能な限り統制する。
Businessでは、条件を完全には統制できない。
Technologyが変わる。
Customer Requirementが変わる。
競合が現れる。
規制が変わる。
人が辞める。
資金制約がある。
Market Environmentも変化する。
その中で仮説を検証しなければならない。
したがってStartupでは、
Hypothesis → Implementation → Market Feedback → Revision
という循環になる。
研究的思考は残るが、Experimentの場所がLaboratoryからMarketへ広がる。
⸻
「技術がある」から始めない
研究者が起業するときに陥り得る問題の一つが、TechnologyからBusinessを考えすぎることである。
優れたModelを開発した。
だから何かに使えるはずだ。
新しいAlgorithmがある。
だから市場があるはずだ。
しかし、技術的な新規性と顧客価値は一致しない。
起業では問いを反転させる必要がある。
何を作れるか
だけでなく、
何を解く必要があるか。
そして、
そのProblemに本当にAIが適切なのか。
EQUESが伴走型技術開発で課題設定や要件定義を重視することは、この境界を考えるうえで重要である。
Technologyを先に固定するのではなく、Problemを理解してからMethodを選択する。
これは研究能力をBusinessへ翻訳する基本動作になる。
⸻
論文の評価と市場の評価
研究成果には研究Communityによる評価がある。
新規性。
妥当性。
再現性。
既存研究との比較。
学術的意義。
一方、Businessには別のEvaluationがある。
顧客が使うか。
時間を削減できるか。
品質が上がるか。
Riskを減らせるか。
Costに見合うか。
継続契約されるか。
つまり、
Scientific Validation
と、
Market Validation
は異なる。
研究として正しいTechnologyでも、Market Validationに失敗することはある。
逆に、研究上は新規性が小さくても、既存技術を適切に組み合わせることで大きな顧客価値を生み出すこともある。
研究開発型Startupは、この二つの評価系を同時に扱わなければならない。
⸻
PoCは研究と事業の中間にある
その境界に位置するのがPoCである。
PoCでは、
技術的に成立するか。
必要なDataがあるか。
どの程度の性能が出るか。
業務改善につながる可能性があるか。
を小さく検証する。
これは研究的なExperimentに近い。
しかし目的は論文を書くことではなく、Productionへ進むべきか判断することにある。
したがって、
Research Experiment → PoC → Production
という連続性が成立する。
EQUESのような研究開発型AI企業にとって、PoCは単なる小規模受託ではない。
Research CapabilityをBusiness Decisionへ変換する重要なInterfaceである。
⸻
失敗の意味も変わる
研究では、仮説が否定されることにも価値がある。
「この方法では成立しない」と分かること自体がKnowledgeになる。
Startupでも本来は同じである。
あるModelでは精度が出ない。
必要なDataがない。
顧客に十分なEconomic Valueがない。
Production Costが高すぎる。
Human Workflowに合わない。
こうした結果を早期に確認できれば、大規模な投資を避けることができる。
つまり、
Fast Failure → Learning
である。
PoCの価値は成功することだけではない。
「進めるべきではない」と判断するためのEvidenceを得ることにもある。
研究的な検証文化は、Startupの資源配分を合理化する。
⸻
研究者と経営者の時間
一方、研究と起業には大きな違いもある。
研究では、一つのProblemを長期間追究することができる場合がある。
Startupでは複数の時間軸を同時に扱う。
今日のCustomer Problem。
今月のProject。
今年の売上。
数年後のProduct。
さらに将来必要になるTechnology。
すべてを同時に考える必要がある。
短期だけを見れば、受託案件を増やす方が合理的かもしれない。
長期だけを見れば、Researchへ大きく投資したくなるかもしれない。
しかしCompanyは、その両方を成立させなければならない。
Current Revenue × Future Capability
のBalanceが必要になる。
ここで研究者は、経営者として別の時間感覚を獲得する。
⸻
研究投資をどう維持するか
研究開発型Startupにとって難しいのは、Researchが直接売上を生まない期間をどう支えるかである。
研究にはComputeが必要になる。
Engineerの時間が必要になる。
Datasetが必要になる。
Experimentを繰り返す必要がある。
成果が出ない可能性もある。
一方、Startupには資金制約がある。
そこで、
Customer Project。
Product Revenue。
External Funding。
Public R&D Program。
Partnership。
などを組み合わせながらResearch Investmentを維持する必要がある。
EQUESがGENIACや廃炉関連の公的研究開発事業、Physical AI支援Programなどを活用してきたことも、このResearch Financeという観点から読むことができる。
公的支援は単なる「資金を得た」というNewsではない。
民間企業単独では投資回収期間の長い研究開発を可能にする制度的Infrastructureでもある。
⸻
研究成果を企業資産へ変える
研究成果が出ても、それをCompanyへ蓄積できなければ企業価値にはつながりにくい。
Model。
Dataset。
Evaluation Method。
Code。
Patent。
Technical Documentation。
Domain Knowledge。
Development Process。
これらをOrganizationが再利用できる形へ変える必要がある。
つまり、
Research Output → Organizational Asset
である。
例えば一つの顧客案件で作ったPromptやPipelineを、その案件だけで終わらせるのか。
汎用Componentへ整理するのか。
Productへ組み込むのか。
Evaluation Frameworkとして残すのか。
この違いによって、同じResearch ProjectでもCompanyへの長期的効果は変わる。
⸻
研究からProductへ
研究成果が事業へ深く接続されると、Productが生まれる可能性がある。
EQUESの製薬領域は、その過程を考える重要な事例になる。
Domain-specificな課題を理解する。
必要なAI Capabilityを研究する。
評価方法を整える。
実際のWorkflowへ接続する。
複数顧客で共通するProblemを抽出する。
Softwareとして再利用可能にする。
ここでは、
Research → Project → Domain Knowledge → Product
という流れが形成される。
Product化とは、単にSoftwareへUIを付けることではない。
研究や案件で得られたKnowledgeを、多数の利用者が反復可能な形へ固定することである。
⸻
事業から研究へ戻る
さらに重要なのは逆方向である。
Productionへ入ると、研究室では見えなかったProblemが現れる。
実際のDocumentは複雑である。
Dataが欠損している。
専門用語の使い方が企業ごとに違う。
Rare Caseが存在する。
Humanの判断とModelの判断が一致しない。
Physical EnvironmentではSensor NoiseやCommunication Failureが起こる。
これらは、新しいResearch Questionになる。
したがって、
Research → Business
だけではなく、
Business → Research
が成立する。
この往復が研究開発型企業の重要な特徴になる。
⸻
起業によって研究対象が広がる
研究室では、研究対象を比較的限定できる。
しかしCompanyとして現場へ出ると、AIだけでは解けない問題に遭遇する。
Data Infrastructureが必要になる。
Securityが必要になる。
UIが必要になる。
Human Approvalが必要になる。
Organization Changeが必要になる。
RobotならHardwareやControlが必要になる。
つまり、研究対象がTechnology単体からSystem全体へ広がる。
Model Optimization
から、
Socio-technical System Design
へ。
これは研究を薄めることではない。
Research QuestionのScaleが変わることである。
⸻
EQUESにおける研究と起業
EQUESの創業をこの視点から見ると、研究と起業は断絶していない。
松尾研周辺で形成されたResearch Capability。
企業共同研究によって得られたImplementation Experience。
創業Team。
2022年の法人化。
顧客とのProject。
そこから蓄積されるDomain Knowledge。
Productや独自Modelへの展開。
この流れには、
Research CapabilityをCompany Capabilityへ変換する
という一貫した問いを見ることができる。
ただし、その変換が完成したと判断するにはまだ早い。
EQUESは創業から数年の企業であり、どの事業が長期的なCoreになるかも形成途上にある。
だからこそ、その変化を観察する意味がある。
⸻
研究者が会社をつくるということ
研究者が起業する意味を、単に「研究成果を売ること」と考えると狭すぎる。
会社をつくることで、研究に新しいFeedback Loopを加えることができる。
研究する。
実装する。
顧客が使う。
結果を測る。
失敗する。
改善する。
新しいQuestionを得る。
そして再び研究する。
最小化すれば、
Research → Implementation → Feedback → Research
である。
大学では研究成果が論文として蓄積される。
企業では、それに加えてProduct、Customer Experience、Domain Knowledge、Operation Dataとして蓄積される。
研究と起業が接続すると、Knowledgeの生成場所そのものが広がる。
研究室だけではなく、工場、Office、Infrastructure、Robotが動くPhysical Environmentまでが、新しい学習の場になる。
EQUESの創業を理解する鍵はここにある。
起業とは、研究を終えることではない。
研究能力をCompanyという新しい実行主体へ移し、社会そのものをExperimentとLearningの場へ広げることである。
その意味で、2022年に始まったEQUESの企業活動は、研究から事業への一方向の移動ではない。
研究と事業の間を往復しながら、両方を更新していく試みとして読むことができる。
第5節 システム情報学とハプティクス
EQUESの創業者・岸尚希の技術的背景を理解するとき、AIだけを見るのでは十分ではない。
岸は東京大学工学部計数工学科、大学院情報理工学系研究科で学び、専門領域としてシステム情報学やハプティクスなどを経験してきた。
この経歴は、後のEQUESを直接説明する「原因」ではない。
2026年のフィジカルAI事業を見て、過去のハプティクス研究から現在の事業が必然的に生まれたと逆算することも避けるべきである。
しかし、EQUESという企業の技術的Originを理解するうえでは重要な背景になる。
なぜならシステム情報学とハプティクスは、ともに情報を現実世界から切り離して考えない領域だからである。
⸻
情報をシステムとして捉える
AIについて語るとき、Modelへ視線が集中しやすい。
Neural Network。
Transformer。
LLM。
Foundation Model。
しかし実際のAI Systemは、Modelだけでは成立しない。
EnvironmentからDataを取得する。
処理する。
Stateを推定する。
Decisionを行う。
結果をHumanやMachineへ返す。
その結果によってEnvironmentが変化する。
そして再びDataを取得する。
つまり、
Environment → Sensing → Information Processing → Decision → Action → Environment
という循環の中にAIは存在する。
システム情報学的な視点では、個別Algorithmだけではなく、この全体構造を見る。
社会実装に進むほど、この視点は重要になる。
⸻
現実世界はDataの外側にある
Machine Learningでは、Datasetが世界の代理になる。
Image Dataset。
Text Corpus。
Sensor Data。
Training Data。
しかし現実世界そのものとDataは同一ではない。
Cameraには死角がある。
SensorにはNoiseがある。
Dataには欠損がある。
Sampling Rateには限界がある。
人間が付与したLabelにも誤りがある。
つまりAIが扱っているのはRealityそのものではなく、Sensorや記録を介して取得されたRepresentationである。
Physical AIでは、この違いが特に重要になる。
RobotはDatasetの中ではなく、予測不能なPhysical Environmentの中で動くからである。
⸻
ハプティクスとは何か
ハプティクスは、人間やMachineが接触を通じて力、振動、運動などを知覚・提示する技術領域である。
VisionやAudioが主に光や音を扱うのに対し、Hapticsでは接触と力が重要になる。
HumanがObjectへ触れる。
SensorがForceやMotionを測定する。
Systemが情報を処理する。
ActuatorがForceやVibrationを返す。
Humanがそれを知覚する。
ここには、
Physical World → Sensor → Computation → Actuator → Human
という閉じたLoopがある。
情報は画面の中だけに存在しない。
身体と物体のInteractionへ接続されている。
⸻
AIとハプティクスの違い
ただし、ハプティクスとAIを同一視してはいけない。
ハプティクスはMachine Learningの一分野ではない。
Control Engineering。
Mechanical Engineering。
Signal Processing。
Human Perception。
Robotics。
などが交差する領域である。
一方、AIはDataからPatternを学習し、認識、予測、生成、Decisionなどを行う技術群である。
両者は異なる。
しかしPhysical Systemでは接続する。
AIがEnvironmentを推定する。
RobotがActionを決める。
ActuatorがPhysical Worldへ作用する。
Sensorがその結果を取得する。
そこでHapticsやControlのKnowledgeが必要になる。
つまり、
AI × Sensing × Control × Physical Interaction
というSystemが形成される。
⸻
Softwareだけでは閉じない世界
生成AIでは、InputとOutputの多くがDigital Spaceで完結する。
Textを入力する。
Textを生成する。
Documentを検索する。
Imageを生成する。
しかしRobotではそうはいかない。
AIのOutputがActionになる。
Robot Armが動く。
Objectを掴む。
移動する。
Equipmentへ接触する。
すると誤差はPhysical Consequenceを持つ。
Language Modelが不正確な文章を生成することと、Robotが位置を誤ってActionすることではFailureの意味が異なる。
Physical AIでは、
Inference Quality
だけでなく、
Action Safety
が必要になる。
⸻
SensorとActuatorの間
Physical Systemを最小化すると、二つのInterfaceがある。
一つは、世界から情報を取得するSensorである。
Camera。
LiDAR。
Force Sensor。
IMU。
Microphone。
Temperature Sensor。
もう一つは、世界へ作用するActuatorである。
Motor。
Robot Arm。
Wheel。
Gripper。
Haptic Device。
その間にComputeが存在する。
したがって、
Sensor → Compute → Actuator
という構造になる。
AIは、この中央のComputeへ入る。
しかしAIだけが高性能でも、Sensorが不正確なら正しく認識できない。
ActuatorやControlが不安定なら正しく行動できない。
Physical Intelligenceは、AI Model単体ではなくSystem全体から成立する。
⸻
Feedbackという考え方
システム情報学やControlの重要な考え方の一つがFeedbackである。
Actionする。
結果を観測する。
目標との差を測る。
次のActionを修正する。
つまり、
Observe → Act → Observe → Correct
である。
これは、後のAI AgentやRobot Learningにも重要になる。
一回推論して終わるAIではなく、EnvironmentとのInteractionによって状態を更新するAIである。
さらに企業活動へ視点を広げれば、
AIを導入する。
Humanが利用する。
結果を測定する。
改善する。
というContinuous Improvementにも同型の構造を見ることができる。
ただし、これはシステム情報学から企業経営が直接導出されるという意味ではない。
Feedbackという一般的なSystem Principleが、異なるScaleで利用できるということである。
⸻
Humanを含むSystem
ハプティクスでは、人間はSystemの外部にいるObserverだけではない。
HumanがDeviceへActionする。
DeviceがHumanへFeedbackする。
Humanが再びActionを変える。
つまりHumanそのものがControl Loopへ含まれる。
これはAI社会実装を考えるうえでも重要な視点になる。
企業AIでも、
HumanがInputする。
AIが提案する。
Humanが確認する。
修正する。
承認する。
その結果が次のDataになる。
というLoopが成立する。
したがって、
Human ↔ AI
というInteractionをSystem Architectureとして設計する必要がある。
EQUESが製薬のような高信頼領域へAIを実装するとき、Human Reviewが重要になる理由もここにある。
⸻
DigitalからPhysicalへ
EQUESの事業展開を見ると、2026年にはPhysical AIが明確な研究開発領域として現れている。
Document AIでは、主な対象はDigital Informationである。
Physical AIでは、
Environment。
Sensor。
Robot。
Action。
Safety。
へ対象が広がる。
構造的には、
Document → Data → Sensor → Environment → Action
という拡張である。
ここで創業者のハプティクスやシステム情報学の背景との対応を見ることはできる。
しかし、あくまで「対応」である。
創業時からこの事業展開が計画されていたことを意味しない。
企業史として重要なのは、後に会社がPhysical AIへ進んだとき、創業者のEngineering Backgroundと接続可能な技術領域が再び現れてきたという点である。
⸻
原子力というPhysical Environment
Energyや原子力施設では、Physical AIの要求条件はさらに厳しくなる。
人間が容易に立ち入れない。
通信条件が制約される可能性がある。
Environmentが複雑である。
RobotのFailure Costが大きい。
Sensor Dataが完全とは限らない。
こうした環境では、
「AIが賢い」
だけでは意味を持たない。
Perception。
Localization。
Planning。
Control。
Communication。
Fail-safe。
Human Supervision。
まで含めたSystem Engineeringが必要になる。
ここではシステム情報学的な視点が、より直接的な意味を持つ。
⸻
World Modelだけでも足りない
AIがPhysical Worldを扱うためにWorld Modelが重要になる。
しかしWorld ModelがEnvironmentを高精度に予測できても、それだけでRobotは安全に動かない。
SensorからStateを取得する必要がある。
Planningが必要になる。
Controlが必要になる。
Actionの結果を観測する必要がある。
Hardware Constraintも存在する。
したがって、
World Model → Planning → Control → Action → Feedback
という実行系が必要になる。
これは第2冊『EQUESの次世代AI実装大全』で扱うPhysical AI Architectureへ接続するが、本書ではまず企業の技術的背景として位置づける。
⸻
システムを見るという能力
ここまでの議論で重要なのは、ハプティクスそのものをEQUESのCore Technologyと断定することではない。
より一般化すると、
個別技術ではなく、技術間の関係を見る能力
である。
ModelだけではなくDataを見る。
DataだけではなくSensorを見る。
SensorだけではなくEnvironmentを見る。
AIだけではなくHumanを見る。
SoftwareだけではなくHardwareを見る。
AlgorithmだけではなくOperationを見る。
このSystem Perspectiveは、AIを社会へ実装するときに必要になる。
⸻
製薬にも同じ構造がある
興味深いことに、この視点はPhysical AIだけに限定されない。
製薬AIでも、
LLMだけではSystemにならない。
Documentがある。
Knowledge Baseがある。
Databaseがある。
Human Reviewerがいる。
Approval Processがある。
Audit Logがある。
既存Systemがある。
つまり、
Data → Model → Output → Human → Workflow
というSystemがある。
Physical AIでは、
Sensor → Model → Action → Environment → Feedback
になる。
対象は違う。
しかし、AIを単体ではなく周辺要素との関係として設計するという点は共通する。
⸻
System EngineeringとしてのAI社会実装
この視点から見ると、AI社会実装はMachine Learning Engineeringだけでは完結しない。
必要になるのは、
Software Engineering。
Data Engineering。
Cloud。
Security。
Human Interface。
Domain Knowledge。
Hardware。
Control。
Operation。
Governance。
である。
つまりAI社会実装は、徐々にSystem Engineeringへ近づいていく。
研究段階ではModelを切り出して評価できる。
Productionでは切り離せない。
AIは必ず何かのSystemの中で動く。
⸻
岸尚希の技術的Originをどう読むか
岸のシステム情報学・ハプティクスという背景を、本書では未来を予言していた証拠として扱わない。
そうではなく、EQUESが生まれる以前から存在していた技術的な初期条件として扱う。
そこには、
情報を取得する。
処理する。
Physical Worldへ返す。
HumanとMachineを接続する。
FeedbackによってSystemを動かす。
というEngineering Perspectiveがある。
その後、EQUESはAI企業として成長し、2026年には再びPhysical Worldを扱う領域へ進み始めた。
この二つの間に因果を断定することはできない。
しかし、企業のOriginと現在のTechnology Portfolioの間に技術的な連続性を検討できる地点ではある。
⸻
AIを世界へ接続する
AIの歴史は、長い間Digital Informationの処理能力を拡張してきた。
Image。
Text。
Audio。
Video。
しかしAIがRobotやInfrastructureへ入れば、次の段階が始まる。
AIは世界を認識するだけではない。
世界へActionする。
すると、
Information Intelligence
から、
Physical Intelligence
へSystem Requirementが広がる。
EQUESの企業史の出発点にシステム情報学とハプティクスという背景が存在することは、この拡張を考えるうえで示唆的である。
ただし、本質は特定の研究分野ではない。
AIを単独のModelとしてではなく、Human、Sensor、Software、Hardware、Environmentを接続するSystemとして考えること。
その視点は、製薬Document AIにも、Energy AIにも、Physical AIにも共通して必要になる。
EQUESが研究から社会実装へ進む過程は、AIをより高性能なModelへするだけの物語ではない。
AIを、現実のSystemの中で実際に機能させるEngineeringへ変えていく過程でもある。
第6節 若い技術者組織
EQUESの特徴を考えるとき、創業者の若さだけを見るのでは十分ではない。
より重要なのは、若い研究者やEngineerを中心とする組織が、技術変化の速いAI産業でどのような企業能力を形成できるかである。
AI企業にとって、人材は単なる人的資源ではない。
論文を読む。
Codeを書く。
Experimentする。
顧客のProblemを理解する。
新しいModelを試す。
結果を評価する。
Productionへ実装する。
こうした行為を実際に担う人間そのものが、研究開発能力の中心にいる。
EQUESのような若いAI Startupを分析するには、
People → Team → Capability → Company
という順序でOrganizationを見る必要がある。
⸻
少人数であることの意味
Startupの初期組織では、一人の担当範囲が広い。
大企業なら、
Research。
Machine Learning Engineering。
Data Engineering。
Software Engineering。
Project Management。
Business Development。
Product Management。
などを別部門へ分けることができる。
しかし少人数組織では、一人が複数の境界を越える。
研究論文を読むEngineerが顧客Meetingへ参加する。
PoCを作ったEngineerがProduction Architectureまで考える。
Project ManagerがTechnologyを理解する。
経営者自身がResearchやEngineeringへ関与する。
この構造は、役割分担が未成熟であることを意味する場合もある。
一方で、
ResearchとBusinessの距離を短くできる
という利点もある。
⸻
Communication Pathが短い
Organizationが大きくなると、情報は階層を移動する。
CustomerからSalesへ。
SalesからProduct Managerへ。
Product ManagerからEngineerへ。
EngineerからResearcherへ。
その過程で、Problemの意味が変わることがある。
少人数Teamでは、このCommunication Pathを短くできる。
CustomerのDomain ExpertとAI Engineerが直接話す。
Engineerがその場で技術的可能性を判断する。
必要ならすぐExperimentする。
結果をCustomerへ戻す。
つまり、
Problem → Engineer → Experiment → Feedback
のLoopを高速化できる。
伴走型AI開発において、この距離の短さは重要な競争条件になり得る。
⸻
若さとLearning Speed
AI産業では、経験年数だけで技術力を測ることが難しい。
数年前には存在しなかったTechnologyが、現在の開発標準になることがあるからである。
Transformer。
Foundation Model。
Generative AI。
RAG。
AI Agent。
VLA。
利用可能な技術Stackは短期間で変化する。
この環境では、
何を知っているか
と同時に、
どれだけ速く新しいものを学習できるか
が重要になる。
大学や研究環境に近い若い技術者は、新しいPaper、Open-source Model、Frameworkへ比較的自然にアクセスできる。
EQUESのような研究開発型Startupでは、このLearning Speedを企業能力へ変換できるかが重要になる。
⸻
ただし若さは競争優位ではない
若いこと自体を価値として扱うべきではない。
若いOrganizationには弱点もある。
大規模Systemの長期運用経験が少ない。
産業固有のKnowledgeが不足する。
重大Incidentへの対応経験が少ない。
Organization Managementの経験が十分でない可能性がある。
規制産業では、Technologyだけでは判断できない事項も多い。
製薬ではGMPや品質保証がある。
Energyや原子力ではSafety、Regulation、Physical Environmentへの理解が必要になる。
したがって、
Young Engineers + Advanced AI
だけでは、高信頼産業へ参入できない。
必要なのは、
Young Technical Capability × Domain Expertise × Operational Experience
である。
⸻
Domain Expertから学ぶ組織
そこで重要になるのが、顧客や外部専門家との関係である。
製薬会社の品質保証担当者は、AI Engineerが知らない業務Knowledgeを持つ。
原子力やEnergyの専門家は、現場固有のRiskやSafety Requirementを知っている。
AI Startupがこれらの産業へ入るとき、自社だけですべてのKnowledgeを保有する必要はない。
しかし、外部Knowledgeを理解し、System Requirementへ変換できなければならない。
構造としては、
Domain Expert → Requirement → Engineer → AI System
となる。
さらに実装結果をDomain Expertが評価することで、
AI System → Evaluation → Domain Knowledge
が戻ってくる。
この往復によって、若いOrganizationは経験不足をLearningへ変えることができる。
⸻
Projectが人を育てる
AI企業では、研修だけで人材が完成するわけではない。
実際のProjectそのものがLearning Environmentになる。
Customerの曖昧な要求を聞く。
Dataを確認する。
想定したAccuracyが出ない。
Modelを変更する。
Security Requirementへ対応する。
Human Workflowを理解する。
Productionで予想外のFailureが起きる。
こうした経験がEngineerのKnowledgeを変える。
したがって、
Project → Experience → Engineer Capability
という蓄積が起こる。
さらに、その経験をDocumentationやCode、Evaluation Methodへ残せれば、
Engineer Capability → Organizational Capability
へ変換できる。
ここが企業としての重要な分岐点になる。
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個人の学習を会社の学習へ変える
一人のEngineerが成長しても、そのKnowledgeが本人だけに残ればCompany Assetにはなりにくい。
退職すれば失われる。
別のProjectでは再利用できない。
同じ失敗を別Teamが繰り返す。
そこで必要になるのがKnowledge Sharingである。
Technical Documentation。
Code Review。
Reusable Component。
Experiment Log。
Evaluation Framework。
Internal Seminar。
Knowledge Base。
こうした仕組みによって、
Individual Learning → Team Learning
へ変える。
研究開発型企業のScaleとは、単純にEngineer数を増やすことではない。
一人が得たKnowledgeをOrganization全体が利用できるようにすることでもある。
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ResearcherとEngineerの境界
AI StartupではResearcherとEngineerを完全に分離しにくい。
新しいModelを研究するだけではProductにならない。
Production Codeだけを書いていても、Technology Frontierへ追いつけない。
そのため、
Paperを読む。
Prototypeを作る。
Benchmarkする。
APIへする。
CloudへDeployする。
Monitoringする。
という連続したCapabilityが必要になる。
すべてを一人で行う必要はない。
しかしTeamとして、
Research → Prototype → Production
を切断しないことが重要である。
EQUESの「研究と実践をつなぐ」という方向性は、Organization Designにも関係する。
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高信頼産業が組織を変える
製薬やEnergyへ入ると、Startup側も変わらなければならない。
速く作るだけでは足りない。
なぜそのOutputになったのか。
どのDataを利用したのか。
誰が確認したのか。
どのVersionのModelだったのか。
Failure時にどう戻すのか。
記録を残せるのか。
こうしたRequirementが増える。
つまり、
Speed
だけを重視するStartup Cultureから、
Speed × Reliability
へ移行する必要がある。
これはEQUESのOrganizationが成長するうえで重要な課題である。
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ExperimentとDiscipline
StartupにはExperimentの自由が必要である。
一方、高信頼産業にはEngineering Disciplineが必要になる。
この二つは対立するように見える。
しかし、開発段階を分ければ両立できる。
Researchでは大胆に試す。
PoCでは高速に検証する。
Productionでは厳格に管理する。
Operationでは変更を記録する。
つまり、
Exploration → Validation → Production → Governance
である。
若い研究開発組織が産業AI企業へ成長するとは、Experimentの文化を失うことではない。
Experimentできる場所と、厳格に管理すべき場所を区別できるようになることである。
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AI時代のOrganization Architecture
AIそのものも、Organizationの構造を変え始めている。
EngineerはAI Coding Toolを利用する。
Researcherは大量の論文を探索する。
Project TeamはLLMをKnowledge Retrievalへ使う。
Document作成やAnalysisもAIによって高速化される。
少人数企業ほど、この効果は大きい可能性がある。
一人の生産性が高まれば、従来より小さなTeamで高度なSystemを開発できる。
しかしAI Toolを導入するだけでOrganizationが強くなるわけではない。
AIが生成したCodeを誰がReviewするのか。
Confidential Dataをどこまで入力できるのか。
Outputの正確性をどう検証するのか。
責任は誰が持つのか。
AIを使うOrganization自身にもGovernanceが必要になる。
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採用はCapability Designである
研究開発型Startupにとって、採用は単なる人員補充ではない。
誰を採用するかによって、会社が解けるProblemが変わる。
Machine Learning Researcherを採用する。
Backend Engineerを採用する。
Robotics Engineerを採用する。
Domain Specialistを採用する。
Project Managerを採用する。
それぞれCompany Capabilityが変化する。
したがって採用は、
Headcount Growth
ではなく、
Capability Portfolio Design
として見ることができる。
どの未来を目指すかによって、現在必要な人材も変わる。
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東京から北海道へ
EQUESが北海道にも活動拠点を広げていることは、Organizationを考えるうえでも注目できる。
拠点拡大を単純な地域進出として見るだけではなく、
どこから人材を獲得するのか。
地域の大学や企業とどう接続するのか。
Remote Developmentをどう設計するのか。
東京以外のProblemへどうアクセスするのか。
というOrganization Networkの問題として見ることができる。
ただし、その長期的な効果については、2026年時点では慎重に評価する必要がある。
拠点を設けたことと、地域Innovation Ecosystemが成立したことは同じではない。
今後の実績によって検証されるべき領域である。
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若い会社だから変えられる
大企業には巨大な資産がある。
Customer Base。
Capital。
Brand。
Domain Knowledge。
Operation Experience。
一方、Startupにはそれらが十分ではない。
しかし、既存Organization Structureに固定されていないという特徴がある。
新しいTechnologyが現れればArchitectureを変えられる。
新しいDomainへ進める。
Roleを再設計できる。
Business Modelを変更できる。
この柔軟性は、
Organizational Plasticity
と呼ぶことができる。
EQUESが2022年から2026年の短期間に扱うTechnologyやDomainを拡張してきたことも、若いOrganizationの可塑性という観点から分析できる。
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若さをKnowledgeへ変えられるか
最終的に問われるのは、平均年齢ではない。
若い人材が多いことでもない。
重要なのは、
Learning SpeedをAccumulated Knowledgeへ変えられるか
である。
新しいTechnologyを早く学ぶ。
Projectで試す。
Failureを経験する。
Domain Expertから学ぶ。
KnowledgeをDocument化する。
Componentへする。
Productへする。
次の人材へ渡す。
この循環が成立すれば、若いOrganizationでも時間とともに深いKnowledgeを持つことができる。
逆に成立しなければ、常に個人の能力へ依存し、同じProblemを繰り返す。
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若い技術者集団から学習する企業へ
EQUESのOrganizationを2026年時点で完成した形として評価するのは早い。
創業からまだ数年であり、事業領域もOrganizationも変化している。
だからこそ見るべきなのは、現在の人数そのものではなく、Knowledgeが蓄積される構造が形成されているかである。
初期には、
Founder → Engineer → Project
だったかもしれない。
そこから、
Project → Experience → Shared Knowledge → Product
へ移れるか。
さらに、
Product → Operation → Feedback → Next Research
まで形成できるか。
ここまで進めば、EQUESは単なる若い技術者集団ではなくなる。
Organizationそのものが学習する企業になる。
若さの最大の価値は、若いことではない。
まだ固定されていないことである。
新しいTechnologyを学び、新しいDomainへ入り、失敗から修正し、Organizationそのものを書き換える余地が大きい。
しかし、その柔軟性を長期的な競争力へ変えるためには、経験を失わずKnowledgeとして蓄積しなければならない。
People → Experience → Knowledge → Organization。
EQUESの次の成長を決めるのは、優秀な人材をどれだけ集められるかだけではない。
その人材が学んだことを、どれだけ会社そのものの能力へ変えられるか。
若い技術者組織から、継続的に学習する研究開発企業へ。
その転換こそ、EQUESというCompany Systemの形成過程なのである。
第7節 研究を社会へ移す会社
EQUESのOriginをここまで追ってきた。
2022年2月1日の設立。
岸尚希と創業チーム。
松尾研という研究環境。
研究と起業。
システム情報学とハプティクス。
若い技術者組織。
これらを一つに重ねると、EQUESという会社の出発点にある構造が見えてくる。
それは、特定のAIモデルを販売するためだけに生まれた会社ではない。
研究によって生まれた知識や技術を、実際の社会で利用可能な形へ移す会社である。
しかし、「研究を社会へ移す」とは、研究成果をそのまま企業へ持ち込むことではない。
その間には長い翻訳工程が存在する。
⸻
ResearchとSocietyの間
研究室でTechnologyが成立したとしても、それだけで社会実装は完成しない。
論文で高い性能が確認された。
Benchmarkで優れた結果が出た。
Prototypeが動いた。
それでも、企業のProduction Environmentで利用できるとは限らない。
実社会には、研究条件には存在しなかった制約がある。
Dataが整理されていない。
既存Systemがある。
Security Policyがある。
Cost制約がある。
Human Workflowがある。
Regulationがある。
責任主体がある。
そしてSystemは、一度動けば終わりではなく、継続的に運用されなければならない。
したがって、
Research Result ≠ Production System
である。
両者の間を埋めるEngineeringが必要になる。
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Technology Transferでは足りない
大学から産業への移行は、一般にTechnology Transferと呼ばれる。
しかしAIでは、「技術を移す」という表現だけでは十分ではない。
AI Modelは、利用するDataによって性能が変わる。
Domainによって必要なKnowledgeが変わる。
UserによってInterfaceが変わる。
RiskによってEvaluation基準も変わる。
したがって必要なのは、単純なTransferではなく、
Adaptation
である。
研究Technologyを、利用されるEnvironmentに合わせて変える。
汎用ModelをDomainへ合わせる。
Research CodeをProduction Codeへ変える。
Benchmarkを実業務のEvaluationへ変える。
OutputをHuman Workflowへ組み込む。
つまり社会実装とは、
Technologyを現場の条件へ適応させるProcess
でもある。
⸻
「翻訳する会社」という見方
このProcessを企業機能として見ると、EQUESの位置が明確になる。
一方にはResearchがある。
もう一方にはIndustryがある。
研究側は、
Model。
Algorithm。
Paper。
Dataset。
Evaluation。
を扱う。
産業側は、
Problem。
Workflow。
Cost。
Risk。
Regulation。
Human。
Operation。
を扱う。
両者は異なるLanguageを使っている。
その間で、
企業課題を技術課題へ変える。
研究成果をSolutionへ変える。
Model PerformanceをBusiness Valueへ変える。
PrototypeをProduction Systemへ変える。
というTranslationが必要になる。
EQUESを理解する一つの方法は、ResearchとIndustryの間に位置するTranslation Companyとして見ることである。
⸻
ProblemをResearchへ翻訳する
翻訳は一方向ではない。
最初に必要なのは、
Industry → Research
である。
企業が持っているProblemは、最初からMachine Learning Problemとして整理されているわけではない。
「作業時間を減らしたい」
「品質を上げたい」
「人手不足を解決したい」
「事故Riskを下げたい」
というBusiness Problemを、
どのDataを使うのか。
何を予測するのか。
何を生成するのか。
何を検出するのか。
何を最適化するのか。
どのMetricで評価するのか。
というTechnical Problemへ変換する。
このProblem Definitionが間違っていれば、どれほど高度なAIを開発しても価値にはつながらない。
⸻
ResearchをImplementationへ翻訳する
次に逆方向がある。
Research → Industry
である。
研究で有効だったMethodを、企業Environmentへ合わせる。
必要ならFine-tuningする。
RAGを構築する。
Databaseへ接続する。
APIを作る。
UIを作る。
CloudへDeployする。
Securityを設計する。
Human Approvalを組み込む。
Audit Logを残す。
つまりAI Modelを、より大きなSystemの一Componentへ変える。
ここで重要なのは、
Modelを導入するのではなく、Workflowを再設計する
ことである。
AIがどれほど高性能でも、現場の業務から孤立していれば利用されない。
⸻
製薬が示すもの
この構造は、EQUESの製薬AIで特に分かりやすく現れる。
製薬会社には、品質保証に関わる大量のDocumentとWorkflowが存在する。
ここへ単に汎用LLMを提供しても、十分なSolutionにはならない。
GMPを理解する必要がある。
専門用語を扱う必要がある。
既存Documentを参照する必要がある。
Consistencyを確認する必要がある。
HumanがReviewできる必要がある。
Dataを安全に扱う必要がある。
つまり、
General AI → Pharmaceutical Requirement → Domain AI → Workflow
という変換が必要になる。
QAIやJPharmatron、JPharmaBenchを個別のProductやResearchとして見るだけでなく、この一連の社会実装Processとして読むことができる。
⸻
Physical AIでは距離がさらに長くなる
Physical AIでは、Researchと社会の距離はさらに広がる。
SimulationでRobotが動く。
Benchmarkで高性能を示す。
それだけでは現場投入できない。
実環境には、
Sensor Noise。
Communication Delay。
Mechanical Constraint。
Unexpected Object。
Human。
Safety Requirement。
などが存在する。
特にEnergyや原子力のようなEnvironmentでは、FailureのCostが大きい。
そのため、
Model → Sensor → Compute → Control → Robot → Environment
というSystem全体を設計しなければならない。
研究を社会へ移すことは、AIをSoftwareの外へ出すほど難しくなる。
⸻
高信頼産業という試験場
EQUESが製薬やEnergyのような領域へ進むことには、企業戦略上の意味がある。
これらは、AIが「便利である」だけでは導入しにくい産業である。
Accuracy。
Reliability。
Security。
Explainability。
Traceability。
Human Oversight。
Regulatory Compliance。
が要求される。
つまり、AI社会実装の難しい条件が集中している。
このEnvironmentで成立するAI Systemを構築できれば、そこで蓄積されたEngineering Knowledgeは他の高信頼産業にも応用できる可能性がある。
ただし、製薬で得たKnowledgeをそのままEnergyへ移せるわけではない。
Domain Knowledgeは異なる。
共通化できるのは、
高信頼AIを構築するための方法
である。
⸻
案件をKnowledgeへ変える
研究を社会へ移す会社が長期的に成長するためには、もう一段階必要になる。
Projectを完了するだけでは足りない。
一つの案件で得たExperienceを次へ残す必要がある。
どのModelが有効だったのか。
どのEvaluationが必要だったのか。
どのArchitectureが再利用できるのか。
どこでFailureしたのか。
CustomerとのRequirement Definitionで何が重要だったのか。
これらをKnowledgeへ変える。
構造は、
Project → Experience → Knowledge
である。
そしてKnowledgeを、
Library。
Component。
Model。
Dataset。
Benchmark。
Product。
Development Process。
へ固定する。
そうすることで、一回限りの受託経験が企業資産へ変わる。
⸻
受託とProductを対立させない
Startup論では、受託開発とProduct Businessが対立的に語られることがある。
受託はScaleしにくい。
SaaSはScaleしやすい。
この違い自体は重要である。
しかし研究開発型企業では、受託ProjectがDomain Knowledgeを獲得する入口になる場合がある。
顧客と一緒にProblemを解く。
共通Problemを発見する。
繰り返し利用できる部分を抽出する。
Productへ変える。
つまり、
Project → Knowledge → Product
という経路である。
この循環を形成できるなら、伴走型技術開発とProductは必ずしも対立しない。
問題は、Project Experienceが再利用可能なKnowledgeへ変換されるかどうかである。
⸻
社会実装はHuman Implementationでもある
Technologyが完成しても、人間が使わなければ社会実装にはならない。
現場の担当者がAIを理解できない。
Outputを信用できない。
操作が複雑である。
既存Workflowに合わない。
責任範囲が分からない。
こうした状態では導入は止まる。
そこで必要になるのが、
Training。
Documentation。
Support。
Human Approval。
Organizational Change。
である。
EQUESが教育やAI×DX寺子屋を展開していることも、後の第5章ではこの視点から分析する。
社会実装とは、
Technology Implementation
だけではなく、
Human & Organizational Implementation
でもある。
⸻
社会から研究へ戻す
そして最後の工程がある。
研究を社会へ移した後、そこで得られたKnowledgeを研究へ戻すことである。
ProductionでFailureが起きる。
新しいEdge Caseが見つかる。
HumanがModelとは異なる判断をする。
RobotがSimulationと違う挙動を示す。
そこから新しいResearch Questionが生まれる。
つまり、
Research → Society
で終わらない。
Society → Research
が続く。
この往復によって、研究は現場から新しいProblemを得る。
企業は研究から新しいSolutionを得る。
両者が循環する。
⸻
EQUESの企業モデルを仮説化する
第1章を通して見えてきたEQUESの初期構造を、本書では次のような分析仮説として置く。
Research
↓
People
↓
Company
↓
Industry Problem
↓
Implementation
↓
Operation
↓
Feedback
↓
Next Research
これはEQUES自身が公式に提示している経営方程式ではない。
本書が企業活動を検証するためのAnalysis Modelである。
今後の章では、この仮説が実際のBusiness Developmentにどこまで対応しているのかを確認していく。
⸻
OriginからBusinessへ
第Ⅰ部で確認してきたのは、まだEQUESのBusinessそのものではない。
そのBusinessを可能にした初期条件である。
松尾研というResearch Environment。
岸尚希と創業Team。
企業との共同研究経験。
システム情報学やハプティクスを含むEngineering Background。
若い技術者Organization。
そして2022年2月1日に成立したCompany。
これらが接続され、
Research Capabilityを社会実装へ変える主体
が形成された。
しかし、会社は理念だけでは存続できない。
顧客を見つけなければならない。
Problemを定義しなければならない。
Projectを成立させなければならない。
Revenueを生み出さなければならない。
Researchと社会を接続するという思想は、Business Modelへ変換されて初めて企業活動になる。
そこで次に見るのが、EQUESの伴走型技術開発である。
研究者やEngineerが企業の現場へ入り、
課題設定 → 要件定義 → PoC → 開発 → 運用 → 改善
までをどのように接続するのか。
第Ⅰ部で追ってきた、
Research → People → Company
は、ここから、
Company → Customer → Problem → Implementation
へ進む。
研究から会社が生まれた。
次に問われるのは、その会社がどのようにBusinessをつくるのかである。
研究を社会へ移す会社は、ここから社会のProblemそのものへ入っていく。
愛と敬意を込めてmandala
