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【料理歳時記】季節の料理散歩(四月)わらびの酢のもの

もみないなのエッセイ『季節の料理散歩』から毎月1話(毎月第1月曜日)を無料でお届けする企画です。四月は以下の四品から「わらびの酢のもの」を選びました。

四月 トーストの朝食
   わらびの酢のもの
   葉ごぼうのめはりずし風
   スパゲッティ・ナポリタン

🍽️

わらびの酢のもの

わらび(蕨)はシダ植物の一種で、春から初夏にかけてまだ葉の開かない若葉を食べる。シダ植物には日陰を好むものが多いだが、わらびは日当りの良い場所に生える。

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昭和世代なら焼酎「よかいち」のCMに出演していた書家の榊莫山氏を憶えているだろうか。丸顔に白髪頭、飄々とした着物姿の莫山先生はその風貌イメージのとおり伊賀古山村(現在の三重県伊賀市)に育った。伊賀国は芭蕉の生地であり、伊賀忍者で知られる土地でもある。

少年時代の莫山先生は、毎年四月下旬になると竹籠をもってわらび採りに行かされた。「わらび飯」 と「筍とわらびの煮物」が大好きで春のあいだに何度食べさせられても飽きなかったという。

わらび好きとは子どもにしてはなかなか渋好みだが、莫山少年がそれ以上に魅せられたのがその字「蕨」というから、生まれ持った天分は隠れないものだと思う。

 「ワラビが漢字でかくと〈蕨〉であることを知るに及んでからは、
  この蕨という字の姿や語感が、春の山野の風光とダブって、
  豊饒なイメージとなって心に棲みつづけている


わらび好きの莫山先生は食べるだけでなく絵も飾る。

洋画家・香月泰男氏のわらびの絵(三本のわらびがコロンと寝そべる図)の下にトルコの壺を置くと「ワラビは砂の野を想い、壺は砂漠の故郷を想う」まるで恋人が心を寄せ合っているようだ、と莫山先生らしい詩画の世界をつぶやく。

莫山先生もそうだが、なぜかわらびの話をするのは男性が多い。

例えば、英文学者の吉田健一氏には「北国の蕨の粕漬け」というエッセイがあるし、作家の檀一雄氏は「雪の下萌えの山菜の野趣」というエッセイの冒頭にわらびの歌を掲げる。

  石激る 垂水の上の さ蕨の
    萌え出づる春に なりにけるかも
           志貴皇子

      ◇

女性がわらび料理のことを書くと、下処理云々どうも事務的になるようで、ふきのとうや七草に対して見せた楽し気な態度とは様子が違う。

わらびの枯淡な趣は男性好みの侘びさびであるらしい。

さて、わらびの味について。

美食家の北大路魯山人は、酢醤油で食べるわらびの味を「これが実に無味の味で、味覚の器官を最高度にまで働かせねば止まない」と評し、
「海にふぐ、山にわらび」これぞ日本の最高美食の好一対 としている。

美食を突きつめていくと、常人には感じ取ることができないような淡く繊細な味のなかに究極の美味を見出すのだろう。

無味の味に無量の魅力を感じるには老いが必要であるのかもしれない。

🌿

あたらしく 今朝にこにこと わらび餅
をかしな春の 立場たてばなるらん
倭園琴桜

※ 参考文献
 『岩手の山菜百科』(岩手日報社)
 『賢治のイーハトーブ植物園』桜田恒夫(岩手日報社)
 『自家菜園の愉しみ』榊莫山(角川春樹事務所)
 『私の食物誌』吉田健一(中公文庫)
 『わが百味真髄』檀一雄(中公文庫)
 『魯山人味道』北大路魯山人(中公文庫)

全話48話(12ヶ月×4料理)はこちらでお読み頂けます。ぜひお手に取って頂けましたら幸いです。


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