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アイゼナッハのルターハウス

アイゼナハの旧市街を歩くと、木組みの家々が並ぶ街並みの中に、ひときわ落ち着いた佇まいを見せる建物がある。ルター・ハウス(Lutherhaus)である。ヴァルトブルク城と並び、この町を象徴する歴史的建造物として知られ、テューリンゲン州に現存する最古級の木組み住宅の一つでもある。質実な外観は豪壮な城郭とは対照的だが、その静かな佇まいの中には、ヨーロッパの歴史を大きく変えた宗教改革の原点ともいうべき記憶が息づいている。

マルティン・ルターは、一四九八年から一五〇一年までアイゼナハのラテン語学校に学び、この家の所有者であった裕福なコッタ家に身を寄せて暮らしたと伝えられる。学問に励み、人々の信仰や社会の在り方について思索を深めた少年時代は、後に宗教改革という歴史的運動を担う精神の基礎を育んだ時期であった。世界史に名を刻む偉人もまた、一人の学生としてこの町の日常を生きていたのである。

現在の建物は十四世紀半ばに建てられたもので、「ルターの部屋」と呼ばれる一三五六年頃の部屋が今なお残されている。館内では「ルターと聖書」と題する常設展示を中心に、宗教改革の歩みや、ヴァルトブルク城で成し遂げられた新約聖書のドイツ語訳、その翻訳が今日の標準ドイツ語の形成に果たした役割などが、映像や豊富な資料によって分かりやすく紹介されている。また、ルーカス・クラナッハ工房の宗教画、中世の工芸品、さらにはヨハン・セバスティアン・バッハの洗礼記録なども展示され、宗教史と芸術史が一体となった充実した内容を誇っている。

しかし、この博物館の価値は宗教改革の栄光だけを語ることに留まらない。ナチ時代にアイゼナハで活動した「教会の脱ユダヤ化研究所」の歴史をも正面から取り上げ、キリスト教からユダヤ的要素を排除しようとした過去を厳しく検証しているのである。信仰が時に権力と結びつき、人間性を見失う危険を示す展示は、歴史を美化することなく未来への教訓として伝えようとする博物館の良心を感じさせる。

中庭には現代美術家アイ・ウェイウェイの彫刻《Man in a Cube》が置かれ、自由や良心、権力への抵抗というルターの精神を現代へと結びつけている。そして、ルター・ハウスを訪れた後にヴァルトブルク城へ足を延ばせば、少年時代の学びから聖書翻訳へと至る一人の人間の軌跡が鮮やかにつながる。アイゼナハは、宗教改革者ルターの誕生を物語る「青春の町」なのである。

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