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西日本新聞「第175回直木賞展望」注目作の予想は?/若林正恭、凪良ゆう、蝉谷めぐ実、朝倉かすみ、原田ひ香

 西日本新聞で西田藍さんと直木賞の予想対談を行っています。今回はオードリーの若林さんの『青天』など、注目作品がノミネートされています。西日本新聞でも人気の記事で、ほぼ毎回、アクセス・ランキングに1位になっていて、ありがたいです。

 西日本新聞の対談用に作成した5作品についてのコメント(本文の内容とは異なるメモ)は下です。簡潔に各作品について評価しています。
 小説の評価は様々ですので、あくまで私の評価ということで、直木賞の候補作を楽しんで読んで頂ければ幸いです。


1 朝倉かすみ『けんぐゎい』(光文社)

・ふゆは6歳の頃に疱瘡ができ、全身にあばたができる「おいもどん」。妹のりよは癇癪もちで「お湯気どん」。
・宗三郎の許嫁のほのは、皮膚に火傷の跡があるという設定。宗三郎に愛憎を抱くふゆとの性的な話を通して、二人の女性の感情の濃淡を描く。ほのとふゆの間の嫉妬が入り混じった感情的なやり取りに迫力が感じられる。
・ふゆは根岸のおこまさまのもとで産婦人科医の修業をして、オランダ語の病院ガストホイスを引き継ぐ。江戸時代の女性視点からの堕胎や出産をめぐる話は珍しい。
・文章が上手く、描写に工夫が感じられるが、山本周五郎の『赤ひげ診療譚』のような人情に迫る描写がもう少しほしい。
・それでも著者の筆力が高いことは、以前の候補作『平場の月』から明らか。本作は時代小説で産婦人科を描いた点が面白く、時代を俯瞰的にとらえる部分があっても良かったが、『よむよむかたる』よりも直木賞の受賞に相応しい。

2 蝉谷めぐ実「見えるか保己一」(KADOKAWA)

・賢い盲目(めしい)の子・たつのすけが、全盲の国学者・塙保己一(検校)として大成する姿を描いた作品。
・狂歌師であり文人の太田南畝などから才能を見出され、盲人の最高位・検校となり、和学講談所を作る大学者となる。
・修験者に目が治ると騙され、金を失った両親、本を集めて読み聞かせてきた村の和尚や寺小屋の子供たちなど周囲の人々の配慮など、幼少期の描写が後半に効いている。
・めしいの弱い立場を利用した政治に、保己一が利用される姿など、当時の江戸を俯瞰しながら、多面的に塙保己一を描くことに成功している。
・差別をめぐる重層的な加害被害関係を描きつつ、妻の浮気など私生活に目配りし、情感のこもった会話文で保己一を叫び怒らせ、幼馴染と劇的な別れをするところまで、しっかりと創作し、書き切れている。
・過去に直木賞を獲得した時代小説・歴史小説と比べても、遜色ない作品で、近年の山本周五郎賞受賞作の質の高さを感じる。時代小説に才能が集まっている印象を受ける。

3 凪良ゆう「多類婚姻譚」(講談社)

・地方出身者がお金のかかる東京で「勝ち組」と競う困難など、前の候補作『汝、星のごとく』より、理想的な婚姻との距離をめぐる文学的な心情描写が面白い。
・離婚や失業、性的志向へのカムアウトに対して、他人から無遠慮に突き付けられる「安物のセーターのようにチクチク痛む悪意」が描けている。
・元同級生の再会と恋愛感情の再燃など、読者の感情を動かす場面の描き方が上手い。
・業績ある著者の短編集による受賞作として、辻村深月の『鍵のない夢を見る』が基準となると私は考えるが、本作については最後の作品はその水準にある。
・著者の出版業界への貢献は大きく、功労賞としての受賞はあり得る。心地よい読みやすさが、多くの読者を獲得している秘訣だと感じた。

4 原田ひ香「#台所のあるところ」(文藝春秋)

・短編の中に「台所があるところ」というドラマが挿入され、各短編の様々な仕事に就く女性が描かれる構成は面白い。
・吉本ばななは「キッチン」と呼び、その差異から平成という新しい時代が感じられた。この作品にもそういうエッセンスはある。
・内藤が鈴木を見下し、互いにほとんど口をきかない話「冷凍庫冷蔵庫合わせて五台」が面白かった。この話を軸にした長編でも良かった。
・6度候補になった柚木麻子の『BUTTER』は木嶋佳苗の事件に、日本の食生活を「バター」をキーワードに描いた点がイギリスでの高い評価につながった。この作品も核となるモチーフがもっと強ければ、数段、良い作品に仕上がった可能性はある。

5 若林正恭「青天」(文藝春秋)

・高校時代に真剣にフットボールをやっていたことが分かる小説。RBはQBと同様にオフェンスの司令塔と言えるポジションで、スキンヘッドのRBは本気度が高い。
・かつて日大フェニックスはカレッジフットボールの頂点に立つチームだった。
・日大二高は強豪とは言えないが、日大三高は強豪校。小説の設定は三高だがオードリーの二人は二高出身という、高校のフットボールに詳しい人しか理解できないユーモアが織り込まれている。作中の強豪校のモデルはおそらく佼成学園。
・オードリーは若林さんがRBで春日さんが関東代表のDE。何れも重要なポジションで、DEで関東代表というのは高い身体能力がないと不可能。作中のダイブツは春日?
・敵のタックルに「交通事故かよ」と突っ込みを入れ、相手の練習量へ経緯を抱く場面がリアル。
・オンサイドキックやハーフバック・パスなど作中のトリックプレーも効果的で、意図的にパスを通させてDBのハードタックルで恐怖心を与えるなど、ディフェンスの戦術にも詳しい。
・荻窪の街への愛情も伝わってくる作品でもある。若い頃に真剣に競技に取り組んだ経験は、困難な人生を乗り切る原動力になり得る。
・話芸の世界と文芸の世界は近く、内面描写も面白いので、執筆経験を重ねれば、より良い小説が書けると思う。運命や自由をめぐるカミュの終盤の引用が深みを出していて良く、序盤からあっても良かった。
・三浦しをん著『風が強く吹いている』が箱根駅伝を描いたように、カレッジフットボールを小説化した作品も書いてほしい。

 以前の直木賞候補作については下のリンクにまとめています。


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酒井信 『松本清張の昭和』講談社現代新書『吉田修一と『国宝』の世界』朝日新聞出版 ありがとうございます! 今後ともよろしくお願いいたします!

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