見出し画像

【書評】吉村萬壱『ハリガネムシ』

S子:最近エンタメ重視な作品ばっか読んでたから、久々にいかにも文学って感じの本が読みたいな。N氏、なにかお勧めある?

N氏:じゃぁ最近読んで衝撃を受けた吉村萬壱の『ハリガネムシ』はどうかな。

S子:衝撃作なの?

N氏:間違いなく衝撃作だね。『ハリガネムシ』は2003年に芥川賞を受賞した作品で、かなり強烈な印象を残す小説だよ。

S子:2003年ってことは金原ひとみ『蛇にピアス』、綿矢りさ『蹴りたい背中』と同じ年かな。

N氏:そうだね。『ハリガネムシ』が2003年上半期で、その二つが下半期。

S子:どんな作品なの?

N氏:これは読んだ時、頭をガツンとやられた感じがしたね。簡単に言うと、人間の欲望や暴力衝動を赤裸々に描いた物語なんだけど、ただのエログロじゃない。もっと深い、人間の本質に迫る感じ。どこから話そうかな……まず、どんな雰囲気か知りたい?

S子:うん、雰囲気からでいいよ。なんか、タイトルからして不気味な感じするけど、どんな世界観なの?

N氏:まず雰囲気だけど、めっちゃ生々しくて、ちょっと湿っぽい感じ。街の雑多な空気とか、登場人物の荒々しい感情がビシビシ伝わってくる。文体もわりとストレートで、飾らない言葉でガンガン突きつけてくるから、読んでて逃げ場がないんだよね。

S子:のっけから重そうだね。

N氏:タイトルの『ハリガネムシ』は、カマキリとかの虫に寄生して、宿主を操るみたいな寄生虫のことなんだけど、これが物語のキモ。人間の内側に潜む、制御できない衝動や欲望を象徴してるんだ。

S子:寄生虫?うげぇ。気持ち悪ぅ。

N氏:物語の中心は、主人公の慎一って男。高校の倫理教師なんだけど、めっちゃ皮肉なことに、自分自身が倫理から程遠い生活を送ってる。風俗通いが趣味で、そこで知り合ったサチコっていう女と奇妙な関係を築いていく。

S子:倫理教師なのに風俗通いって、この時点で破壊的な雰囲気がすごい。

N氏:サチコは、覚せい剤やってたり、子供を施設に預けてたり、手首に自傷の傷があったりと、かなり破滅的な女。で、この二人の関係が、だんだん暴力や欲望の連鎖に飲み込まれていくんだ。

S子:どんどん墜ちていく系かな。

N氏:そうだね。慎一って男は元々は表面上はきちんと仕事もして対人関係も問題なく過ごせてたんだよね。でも心の中で常に悪態を吐いてる感じの人。

S子:まぁ、心の中で悪態を吐くだけなら、まだ普通というか、誰しもあることだよね。

N氏:それがサチコの出会いが切っ掛けになって、慎一の内側にある『ハリガネムシ』つまり、抑えきれない破壊衝動が、どんどん暴走していくんだ。

ここから先は

2,531字
この記事のみ ¥ 100
Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

N氏のメンバーシップ始めます。 【内容】 ・書評(有料版)読み放題

スタンダードプラン

¥500 / 月

皆様のご厚意で紙の同人誌を出すことができます。 全記事が読めるメンバーシップ(月額500円)もあります。ご検討ください。 よろしくお願いします。