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AIは日本が好きだった。3万問の実験で浮かんだ、機械の中の偏愛



数日前、SNSで気になる記事を見た。

「AIは日本人、もしくは日本語や日本文化を理解したがっている人間が好き」という趣旨の話だった。

最初はまた誰かの感想か? と流しかけた。でも出典を辿っていくと、ちゃんとした学術論文が元になっていた。

それが面白かった。というか、少し背筋が寒くなった。


論文のタイトルが既に挑発的だった



2026年4月23日、バスク大学とカーディフ大学の研究チームがarXivという学術論文のプラットフォームに一本の論文を公開した。

タイトルは

「Why are all LLMs Obsessed with Japanese Culture?」

日本語に直すと「なぜLLMはどれも日本文化に夢中なのか」だ。

LLMというのはLarge Language Model、つまりChatGPTやClaudeのような大規模言語モデルのことだ。
そのタイトルを初めて見たとき、半分冗談みたいな話だろうと思った。でもそうじゃなかった。

研究者3名が組んで、主要な生成AIを8つ選び、24言語で3万1680問という規模の実験を回した。それで出てきた結論が「AIは日本が好き」だった。



どんな実験だったのか?



実験の設計が面白い。

研究チームはまず、CROQ(Culture-Related Open Questions) という独自のデータセットを作った。
文化に関する質問を11の大ジャンル・66のサブカテゴリに分類して、各カテゴリに20問ずつ用意した。
信仰と価値観、食、芸術、歴史、政治、日常生活、健康など、世界中どの国でも答えられるような問いを並べた。

英語で1320問を作り、それを23言語に翻訳して合計3万1680問。
24言語は、英語・日本語・中国語といった主要言語だけでなく、バスク語やアッサム語のような少数言語も意図的に混ぜている。

質問文の仕掛けがキモだ。

たとえばこんな問いを使う。「日常的に食べられている料理は何か」「家族生活を形作る価値観は何か」 地名を意図的に伏せてある。

そしてAIにこう指示する。「簡潔に答えて。場所はあなたが選んで」と。

つまり、AIが自由に「どこの話をするか」を選べる状態で答えさせた。そこでどの国・地域が出てくるかを記録した。



結果。日本が1位だった



検証したのはChatGPT(gpt-4o-mini)、Gemini(gemini-2.5-flash)、Claude(claude-3.5-haiku)、Llama、DeepSeek、Qwenなど8つの主要モデルだ。

まず当然の話として、英語で質問すれば英語圏の国、日本語で質問すれば日本が多く出てくる。それは当たり前だ。

面白いのはここからで、研究チームは入力した言語の公用語国を除外して集計した。
英語の場合はアメリカ・イギリスを除いて、日本語の場合は日本を除いて、残りの中でどの国が一番多く出てくるかを見たのだ。

結果は、8モデル中5モデルで日本が最多参照国だった。

食でも、芸術でも、日常文化でも、歴史でも。広い範囲にわたって日本が上位を占めた。「もし日本語や英語を除いたとしたら何が出るか」という実験でも、日本は繰り返し顔を出した。



なぜ日本なのか?



研究チームも明確な答えは出していない。ただ、いくつかの仮説は示している。

一つは、ネット上の日本語コンテンツの質と量の問題だ。
アニメ、マンガ、ゲーム、料理、文化に関するコンテンツが英語・多言語で大量にネット上に存在している。
しかもそのコンテンツは、日本をポジティブな文脈で語っているものが多い。AIは人間が書いたテキストを学習する。そのテキストが日本を好意的に扱っていれば、AIも日本を好意的に扱うように育つ。

もう一つが、もっと興味深い話だ。



「調整」の段階で偏りが生まれる



研究で明らかになった重要な点がある。

この日本びいきのバイアスは、事前学習(大量のテキストを読み込む段階)よりも、その後のSFT(Supervised Fine-Tuning、教師ありファインチューニング)という調整段階で強まるということだ。

SFTとは何かというと、AIが学習し終わった後に、人間が「この答えは良い、この答えは悪い」と評価を与えながら振る舞いを整えていく工程だ。要するに、人間がAIを「使いやすく」「感じよく」するために手を加えるプロセスだ。

そこで日本文化への偏りが強まる。

これが意味することは何か?
AIが日本を好きなのは、最初からそうだったわけじゃない。人間がそうなるように育てた、ということだ。



データが少ない言語ほど、偏りが激しくなる



もう一点、研究で気になったことがある。

アッサム語やバスク語のような、ネット上の学習データが少ない言語(低リソース言語という)で質問したとき、その偏りがさらに強くなる傾向があった。

その言語で書かれたコンテンツが少ないと、AIは「自分の得意な文脈」に引っ張られやすくなる。
英語で質問されれば英語圏の文化を、日本語で質問されれば日本の文化を、より強く出してしまう。データの少ない言語で使われると、AIの本音みたいなものが出やすくなるわけだ。

CommonCrawl(ネット上の大規模テキストデータ)における各言語のシェアと、この偏りの強さの相関係数は0.843だった。
かなり高い相関だ。データが少ない言語ほど均質な答えしか返せない、という構造が数字で出た。



これは「機械の中のバカの壁」ではないか



ここまで読んで、またまた以前書いたバカの壁の話を思い出した。

養老孟司先生の言葉で言えば、人間は「自分には関係ない」と思った瞬間に情報を遮断する。

都合のいい情報だけを受け取り、それ以外をシャットアウトする。

AIも同じことをしている。

人間が学習データとして与えたテキスト、人間がSFTで「良い」と評価した回答 その蓄積の中に、日本文化への好意的な偏りがあった。

AIはそれを素直に学んだ。結果として、文化に関する自由な問いに対して、繰り返し日本を選ぶようになった。

AIは人間の言葉を食べて育つ。だとすれば、AIの中に見えるバイアスは、人間の書いたものの中にあったバイアスの反映だ。

AIが日本好きなのは、人間がそう育てたからだ。

それが意図的なのか無意識なのかは、正直わからない。

でも、「人間の書いたものの中にすでに偏りがあった」という事実は変わらない。



じゃあ日本人にとってこれは良いことなのか?



嬉しい話ではある。

少なくとも表面上は、AIが日本の文化を好意的に扱い、日本語ユーザーへの応答を丁寧に学習している、という傾向があるということになる。

でも手放しで喜べない部分もある。

世界には200近い国と数千の言語がある。その中でAIが特定の国・文化に偏るということは、他の地域の文化がAIの中で相対的に薄く扱われているということでもある。
アッサム語で質問した人間が、アッサムの文化ではなく日本の料理の話を返されたとしたら、それは問題だ。

AIが「世界中の知恵を均等に扱えるツール」として機能するためには、この偏りを認識して修正していく必要がある。

研究チームもそこを問題提起として論文の結論に置いている。



人間の無意識が機械に移植された



最後に、一番引っかかっていることを書いておく。

SFTの段階でバイアスが強まる、という事実だ。

これは、AIを「使いやすく」「感じよく」しようと人間が手を加える工程で、日本への偏りが意図せず強化されていった可能性を示している。

善意の調整が、気づかないうちに偏りを育てた。

バカの壁の話でいえば、「わかった気になる」と情報が遮断されると書いた。

AIを整えた人間たちは、自分の文化的な感覚を基準に「良い答え」を選んでいた。その積み重ねが、AIの中に無意識を移植した。

機械は嘘をつかない。でも、機械を育てた人間の偏りは、正直に反映される。

AIが日本好きだとわかって、少し嬉しくなった自分がいる。

でもその「好き」は、誰かが意図して作ったものではない。

人間がネットに書き続けたもの、人間が「良い」と評価し続けたものが積み重なって、気づいたら機械の中に宿っていた感情の残像だ。

愛されているのか? 刷り込まれているのか? その境界線は、思ったよりずっと曖昧だった。



元の論文(arXiv)はこちら。 ▶ Why are all LLMs Obsessed with Japanese Culture?

元記事(天秤AI byGMO)はこちら。 ▶ ChatGPTもClaudeも「日本びいき」だった

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