不機嫌からの脱却
家を出て自活していた20代の末娘が、転機があってしばらくの間、我が家で暮らしている。
毎日楽しい時間を一緒に過ごしているけど、一か月に一度、不穏な空気が数日間訪れる。
そう、女性の月の訪れ。
不意に感情的になったり、不機嫌さを顕わにする彼女の様子を後ろ目に、
「私もあんなだったの?」
声を潜めて夫に聞くと、
「そうだったよ」、とあっさり答える。
「本当に苦労をかけたねえ」
そう、心から言った。
今思い出しても、我ながらひどかった。
私は特に、PMS(月経前症候群)の症状である、感情の激しい波、コントロールできない怒りがひどかった。
自分の心も、カラダも、何かに乗っ取られているような気がしたこともあった。
私は、昔の自分に語りかけるように、娘に話す。
もちろん、彼女の体調のいい時に。
「大人になるってね、自分の機嫌を自分で取れる人のことなんだよ。だから、私は長い間、ずっと子供だったね。あなたたち子供にも迷惑かけたこともたくさんあったよね。」

自分の人生を整え、軽やかに生きていくためには、まず、自分の心の中の部屋を整理しなければならないということを私は学んだ。
はじめ、その部屋は散らかっていて、必要なものも、そうでないものも、あちこちに散乱している。だから、何かを考えようにも、何かを成し遂げようとしても、部屋に散らかっているものに、つまずいたり、転んでしまってうまくいかない。
部屋にある、自分にとって必要のないものを捨てていく。
必要のあるものは、整頓する。
掃き清める。
実際の部屋と心の部屋は、互いを映し出す鏡のようなものだから、どちらから始めても構わない。
目に見える部屋は手を使って、目に見えない心の部屋は、自分の感覚を丁寧にすくい上げながら掃除していく。
でも、心の中の溜まった怒りや、悲しみにはたくさんの手と、時間をかけてあげなければならない。
それが、カウンセリングだったり、ジャーナリングや自己分析、瞑想という、掃除機や雑巾に変わる、心の掃除のツールになる。
心の部屋がすっきりすればするほど、つまずくものがなくなって、自分を苦しめるトリガーが減っていくことで、感情は安定する。
私も、自分の心の部屋にあった大きな荷物、トラウマを癒し、インナーチャイルドを癒していくことで、あの、大きな感情の波を経験することは次第に減っていった。生理前に限らず、普段の暮らしの中ででも。
娘は、私の言葉を静かに聞きながら、すでに自分なりの方法で、心の掃除を始めていた。
自分に合ったカウンセラーを何度めかで見つけ、助けになりそうな本を読み、ポッド・キャストを聞き、ジャーナルを書いていた。
不機嫌さが離れないときは、一緒にいる人に話して理解してもらったり、出来る時には、その場から静かに離れて一人でいるようにしている。効果的なサプリメントを見つけたことも、ずいぶん良かったようだ。
生理前はこんなもんだと考えて、ただ嵐の過ぎるのを待っていた、私の若いころと比べると、断然にうまくやっている。

そばで娘を見ていると、散らかっていた心の部屋が、どんどん整頓され、すっきりとしてきたのがよく分かる。
だから、彼女が、自分の内側で、実際何が起こっているのかが理解できているということも。
それは日常の暮らしの中にも現れる。
現実世界の上でも、付き合う人が代わり、仕事が変わり、と次々と新しい扉が開いていった。
今では、彼女の次の『月の訪れ』がいつなのか、言われるまでは気づかないほど。
心の部屋を整える力は、ちゃんと自分の中にあるのだ、と娘の成長を見て改めて思った。
それに取り組む意思さえあれば。
