小説版ネオ・セラフィス 第23話「交差」
崩壊都市に、紫電が走る。
轟音。
爆炎。
崩れ落ちる高層建築。
その中心で、四機の機体が空を裂いていた。
『左方熱源反応! 来ます!』
ミレアの声。
直後。
スペクターが瓦礫の陰から飛び出す。
紫色の残光。
人間みたいに滑らかな軌道。
「っ……!」
柊弥のセラフィスが咄嗟に回避する。
だが。
避けた先に、もう一機。
「は——!?」
読まれている。
完全に。
スペクターは、逃げ道へ先回りするように動いていた。
紫の刃が迫る。
その瞬間。
蒼い閃光。
狙撃。
スペクターの腕部が吹き飛ぶ。
『違う。上じゃない』
アルトの声。
冷静すぎる声だった。
『“逃げる方向”を読まれてる』
「……っ!」
柊弥は歯を食いしばる。
まただ。
また、助けられた。
『右へ飛べ』
「え?」
『早く』
反射的にセラフィスが加速する。
直後。
さっきまでいた空間を、紫の砲撃が貫いた。
冷や汗が背中を伝う。
「お前……どうして分かるんだよ」
沈黙。
ほんの一瞬。
その後で。
『経験則だ』
短い返答。
それだけだった。
だが。
柊弥には分かった。
アルトは、“スペクターを知っている”。
その時だった。
『きゃっ——!?』
通信に、リサの悲鳴が混ざる。
柊弥が振り向く。
遠方。
リーベラが大きく姿勢を崩していた。
「リサ!?」
リーベラの動きがおかしい。
速い。
だが乱れている。
回避軌道が不安定だった。
スペクターが追う。
まるで獲物を追い詰めるみたいに。
『リサ、落ち着け!』
レオンのネメシスが割り込む。
黒金の巨体。
獅子のような加速。
大剣が唸りを上げる。
だが。
スペクターはネメシスの死角を滑るように抜けた。
「チッ……!」
レオンが舌打ちする。
その瞬間。
リサの視界が揺れた。
紫色の光。
ノイズ。
警報音。
そして。
——白い爆炎。
『え——』
脳裏に焼き付いた光景。
墜落。
焼ける匂い。
熱。
痛み。
怖い。
怖い。
また誰かが死ぬ。
また自分のせいで。
操縦桿を握る手が震える。
呼吸が浅い。
リーベラの動きが止まる。
スペクターの砲口が向いた。
『リサ!!』
アルトの声。
だが。
リサは動けない。
次の瞬間。
蒼い残光が割り込んだ。
セレスタス。
アルトが半ば強引に機体を滑り込ませる。
紫の閃光。
衝撃。
セレスタスの装甲が焼ける。
警報音。
火花。
それでもアルトは退かない。
『何してんだ、リサ!!』
珍しく感情を滲ませた声。
リサが息を呑む。
『ご、ごめ……』
「アルト!?」
柊弥が驚く。
『お前、被害を最小限にするために切り捨てるとか言ってなかったか?』
一瞬の沈黙。
スペクターを撃ち抜きながら、アルトは不機嫌そうに吐き捨てた。
『……うるさい』
さらに一射。
紫の装甲が砕け散る。
『それとこれとは別だ』
「はぁ!?」
『集中しろ、朝霧』
「お前なぁ——!」
そのやり取りの最中にも、アルトはリーベラの前から一歩も退かなかった。
柊弥は思わず言葉を失う。
こいつは。
本当は。
誰より感情で動いているんじゃないのか。
『……リサ』
アルトの通信。
今度は静かな声だった。
『大丈夫だ』
『絶対に守る』
リサの瞳が揺れる。
その声を。
知っている。
焼けるような戦場で。
自分を庇いながら、傷だらけになっていた少年。
無理矢理笑おうとしていた自分。
そして。
“守れなかった”みたいな顔をしていたアルト。
『……っ』
震えていた指が止まる。
呼吸を整える。
深呼吸。
リサはゆっくりと前を向いた。
『……そうだ』
小さく呟く。
『こんなの、私らしくない』
次の瞬間。
リーベラの翼が大きく展開した。
虹色の粒子が夜空へ広がる。
『行くよ、リーベラ』
高速加速。
スペクターの横を一瞬で抜ける。
『朝霧!』
『おう!』
セラフィスが突撃。
スペクターが迎撃へ動く。
その死角。
蒼い閃光。
セレスタスの狙撃がコアを穿つ。
『今だ、レオン!!』
「任せろォ!!」
ネメシスが咆哮みたいな推進音を響かせる。
黒金の巨体。
獣のような突進。
大剣が紫の装甲を叩き割った。
轟音。
爆炎。
スペクターの一機が崩れ落ちる。
だが。
残る一機は逃げない。
空中で静止したまま。
こちらを見ていた。
観察するみたいに。
『……何だ、あれ』
柊弥が呟く。
その瞬間。
空間が歪んだ。
紫のノイズ。
黒い粒子。
そして。
ふわりと。
人影が現れる。
青年だった。
黒い外套。
金色の瞳。
薄緑の長髪。
まるで散歩でもしているみたいな足取り。
なのに。
空気が冷たい。
本能が警鐘を鳴らす。
「あれあれ?」
青年が笑う。
楽しそうに。
無邪気に。
「この子たち、結構性能良かったはずなのに」
壊れたスペクターを見下ろし、首を傾げた。
「君たちが壊しちゃったんだね」
その笑顔を見た瞬間。
リサの表情が凍った。
「……え」
小さな声。
呼吸が止まる。
金色の瞳。
薄緑の髪。
柔らかな笑い方。
頭の奥で、
忘れていた記憶が軋む。
幼い頃。
薄暗い礼拝堂。
聞こえていた声。
“終焉は救済である”
“選ばれし魂だけが次の世界へ至る”
“ノクス様は導き手”
「……嘘」
リサの声が震える。
アルトが振り向く。
『リサ?』
だがリサは、
青年から目を離せない。
「なんで……
なんでここにいるの……」
ノクスが首を傾げた。
そして。
ふわりと笑う。
「覚えめでたいようで光栄だね」
金色の瞳が、
真っ直ぐリサを見つめる。
値踏みするみたいに。
懐かしむみたいに。
あるいは——
壊れた玩具を見つけたみたいに。
続きはこちら↓↓↓
