小説版ネオ・セラフィス 第2話「桜乃の夢」
桜乃はしばらく窓の外を見ていた。
夜の街の灯りが、遠くで静かに滲んでいる。
「ねえ」
ぽつりと呟く。
「退院したらさ」
柊弥は本を閉じた。
「今度はちゃんと学校に行ってみたいんだ」
「学校?」
「うん」
桜乃は少しだけ笑う。
「ずっと病室ばっかりだったから」
胸元のコードを指先でなぞる。
「普通のこと、あんまり知らないんだよね」
その言い方は冗談っぽかったけれど、
どこか少しだけ寂しそうだった。
「だからかな」
桜乃は続ける。
「先生になりたいなって思うの」
柊弥は少し驚いた顔をした。
「先生?」
「うん」
桜乃は窓の向こうを見上げる。
「私みたいに、ずっと入院してる子とか居るでしょ?」
「そういう子って、世界の広さとか、知らないままかもしれないじゃん」
夜空を見つめながら、
静かに言葉を続ける。
「だからね」
「世界って、ちゃんと面白いんだよって」
「優しいものも、綺麗な景色も、いっぱいあるんだよって」
「教えてあげられる人になりたいの」
病室の白い光の中で、
桜乃の横顔だけが、
不思議なくらいまっすぐに見えた。
柊弥は少しだけ視線を落とす。
それから、小さく笑う。
「そんなこと言ってるのに」
桜乃が首を傾げる。
「先生になったら意外と厳しそうだな」
「えぇ?」
桜乃は少しむっとした顔をしたあと、
ふっと吹き出した。
「柊弥くんには特に厳しいかも」
「なんでだよ」
「だって、ちゃんと宿題やらなさそうだし」
「偏見だろ、それ」
ふたりで小さく笑う。
その笑い声は、
夜の病室の静けさに溶けていった。
少ししてから、
桜乃がまた静かに言った。
「でもね」
「世界って、ちゃんと広いんだなって思えたの」
柊弥は目を向ける。
桜乃は、少し照れたみたいに笑った。
「柊弥くんと会えたから」
一瞬だけ、
言葉が止まる。
「それからね」
桜乃は楽しそうに続ける。
「柊弥くんみたいに面白い人も居るんだよってことも、教えてあげたいな」
柊弥は少しだけ目を丸くする。
「俺ってそんなに面白いのか?」
「うん、すごく面白いよ」
当たり前のように即答をして、続ける。
「柊弥くん、たまに変なこと言うし」
言いながら、桜乃はくすくすと笑う。
柊弥はその様子を見て、桜乃の夢が本当に叶ったらいいのに、と思った。
桜乃につられて、柊弥は静かに微笑む。
それから、小さく言った。
「……先生に、なれるといいな」
桜乃は目を瞬かせたあと、
ふわっと笑った。
「うん」
その笑顔は、
夜の灯りよりずっと柔らかかった。
続きはこちら↓↓↓
