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東野圭吾「容疑者Xの献身」

  東野圭吾さんが六十八歳で亡くなられた。大腸がんだったという。まだ多くの作品を書き続けられる年齢だけに、早すぎる訃報に驚いた。
 
 私は以前から、人生で最も充実した時間は七十代ではないかと思っている。その年代を迎えることなく旅立たれたことを思うと、なおさら惜しまれる。
 
 新潟にいた頃、直木賞を受賞した『容疑者Xの献身』を読んで、深く心を揺さぶられたことを今でもよく覚えている。巧みに張り巡らされた伏線、そして最後に明かされる献身の真実には、しばらく本を閉じることができなかった。それまで東野さんの作品は読んだことがなかったが、この一冊をきっかけに、ほかの作品も手に取るようになった。
 
 その後、東京へ戻ってから読んだ『新参者』の舞台は日本橋人形町だった。ちょうど自分が暮らし始めた街でもあり、作中に登場する店や町並みに見覚えがあって親しみを覚えた。続く『麒麟の翼』の舞台もすぐ近くで、推理小説としてだけでなく、地元を歩くような楽しさも味わうことができた。
 
 若い頃の私は、本を読むことが生活の一部だった。ジャンルを問わず、気になった本は次々と読んだものである。今は読む速度も落ちたが、それでも気になる本は机の脇に積み重ね、毎日少しずつ読み進めている。先日、遠藤周作さんの短編集を読み終え、今はベルンハルト・シュリンクの『朗読者』を読んでいる。
 
 今回の訃報に接し、もう一度『容疑者Xの献身』を読み返してみたくなった。昨日、物置部屋の本棚から引っ張り出し、『朗読者』を読み終えたら再読するつもりである。
 
 あのとき味わった読後の衝撃を、今の自分はどのように受け止めるのだろうか。そんなことを思いながら、久しぶりに東野ワールドに浸ってみたい。
 

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