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上司に嫌われる勇気は、本当に必要か

「上司には、嫌われる勇気が必要だ」


マネジメントの世界で、本当によく聞く言葉です。


書籍でも、研修でも、経営者の講演でも、この言葉は、繰り返し語られています。


でも、私は、この言葉に、ずっと、違和感を持ってきました。


人事コンサルタントとして、5,000人を超える面接、数十社の組織支援、4名から100名超への垂直立ち上げを経験してきました。
管理職時代には、60名の部下を持ち、執行役員として組織を率いた経験もあります。


その経験から、正直にお伝えします。


上司に本当に必要なのは、「嫌われる勇気」ではありません。


「その人のことを、本気で思う勇気」です。


今日は、この話をさせてください。



「嫌われる勇気」が、一人歩きしている

まず、現場で起きていることを、正直にお話しします。


「嫌われる勇気」という言葉は、多くの管理職に、こう解釈されています。


「部下に厳しいことを言わなきゃいけない」
「嫌われてもいいから、指摘すべきことは指摘する」
「優しくしていたら、なめられる」


この解釈が、現場で、一人歩きしているんです。


結果として、何が起きているか。


「嫌われる勇気を持とう」と自分に言い聞かせて、部下に厳しいフィードバックを叩きつける上司が、増えています。


でも、その厳しさは、部下のための厳しさではなく、"自分の正しさを証明するための厳しさ"になっていることが、本当に多いんです。


自分の基準に照らして、「ここがダメだ」と伝える。
自分の経験に照らして、「こうすべきだ」と断じる。


これは、フィードバックではありません。
これは、自分本位の"ダメ出し"です。



私自身の、フィードバックの失敗

ここで、正直に告白させてください。


私自身、管理職時代に、フィードバックで失敗した経験が、あります。


ある部下に、厳しいフィードバックをしたことがありました。
「このままでは成長できない」「もっと本気でやらないと」


私は、正しいことを言っていると、思っていました。
部下のために、厳しいことを言っていると。


でも、その部下は、泣きました。


その瞬間、私は、ハッと気づいたんです。


私が伝えていたのは、"部下のためのフィードバック"ではなかった。
"自分の基準を、押しつけていた"だけだった。


部下が、何に悩んでいるのか。
部下が、今、どんな状態にいるのか。
部下にとって、どんな言葉が、本当に届くのか。


そこを、まったく考えずに、自分の正しさだけで、言葉を投げつけていた。


これは、「嫌われる勇気」ではありません。
これは、ただの"配慮のなさ"です。



聞き手が誰なのかで、フィードバックは変わる

この経験から、私は、一つの確信を得ました。


フィードバックは、聞き手が誰なのかによって、まったく変えなければならない。


同じ内容を伝えるとしても、相手が違えば、言葉の選び方、タイミング、声のトーン、すべてが変わるべきなんです。


厳しい言葉で真っ直ぐ伝えた方が響く人もいる。
柔らかい言葉で包んだ方が届く人もいる。
言葉よりも、態度で示した方が伝わる人もいる。
まず聴くことから始めた方が、心が開く人もいる。


人によって、コミュニケーションを変える必要がある。


これは、当たり前のことに聞こえるかもしれません。
でも、「嫌われる勇気」という言葉に引きずられている上司は、この当たり前を、忘れてしまうんです。


「嫌われてもいいから、言うべきことを言う」


この姿勢は、一見、力強く見えます。
でも、相手のことを見ていないフィードバックは、どんなに正しい内容でも、絶対に届きません。



逆に、フィードバックで関係が深まった経験

一方で、私には、フィードバックをしたことで、部下との関係が深まった経験も、あります。


ある部下に、キャリアについて、率直な話をしたことがありました。


「あなたの強みは、ここだと思う」
「でも、今のやり方だと、この先、伸び悩むかもしれない」
「こういう方向に、挑戦してみないか」


これは、厳しい話でした。
今の自分を否定されたように、感じたかもしれません。


でも、私は、この時、はっきりと、自分の中に、ある感覚がありました。


「この人に、もっと良い景色を見てほしい」


嫌われてもいいと思って、言ったのではありません。
この人のことを、本気で思っているから、言った。


その気持ちは、言葉の端々に、滲み出るものです。


部下は、最初は黙っていました。
でも、少し経ってから、こう言ってくれました。


「そこまで考えてくれていたんですね」


あの瞬間から、その部下との関係は、一段、深くなりました。


厳しいことを言ったから、関係が深まったのではありません。
その人のことを本気で思っていたから、関係が深まったんです。



「嫌われる勇気」ではなく、「本気で思う勇気」

ここで、今日の核心をお伝えします。


上司に本当に必要なのは、「嫌われる勇気」ではありません。


「その人のことを、本気で思う勇気」です。


自分本位のフィードバックでは、メンバーは育ちません。
「自分の正しさ」を証明するための厳しさでは、人は動きません。


その人のことを、本気で思った時に、厳しいことを言わなければならない場面が、やってきます。


「このままだと、あなたは伸びない」
「今の働き方を、変えた方がいい」
「この課題に、向き合わないと、次のステージに行けない」


こういう言葉を、本気で相手のことを思って、伝える。


それが、結果として、嫌われるかもしれない。
でも、嫌われることが目的ではない。


嫌われるかもしれないけれど、それでも、この人のために言う。これが、「本気で思う勇気」です。


順番が、逆なんです。


「嫌われる覚悟を持って、厳しく言う」ではない。
「その人を本気で思うから、結果として厳しいことも言える」が、正しい順番です。



フィードバックが機能しない組織の共通点

ここから、組織の話に広げます。


私が顧問先で見てきた、フィードバックが機能していない組織には、二つの共通点があります。


一つ目、フィードバック=ダメ出しだと思われている。


社員の中に、「フィードバックされる=怒られる」という認識が、根付いてしまっている。


上司からの面談が、「何を言われるんだろう」という恐怖の時間になっている。
社員は、フィードバックを受けること自体を、避けるようになっている。


これは、フィードバックが、"ダメ出しの道具"として、使われてきた結果です。


二つ目、経営者自身が、フィードバックを受けていない。

これは、最も深刻な問題です。


社員には「フィードバックを受け入れろ」と求めるのに、経営者自身は、誰からもフィードバックをもらっていない。


社員は、それを、見ています。


「社長は人にフィードバックするけど、自分は受けないんだな」
「結局、上から下への一方通行なんだ」


こう感じた瞬間、フィードバック文化は、組織に根付きません。



フィードバックは、"相互"で、初めて機能する

ここが、本質です。


フィードバックは、上から下への一方通行では、機能しません。


上司から部下へ。
部下から上司へ。
同僚同士。
そして、社員から経営者へ。


この"相互性"が、組織の中に存在している時、初めて、フィードバックは、文化として機能し始めます。


そして、この相互性を作るために、最初に動くべきは、経営者です。


経営者自身が、「私にもフィードバックをしてほしい」と言えるか。
経営者自身が、社員からの厳しい声を、受け入れる姿勢を見せられるか。


ここが、フィードバック文化が生まれるかどうかの、分水嶺です。



「心理的安全性を作れば、声が出る」は、順序が逆

ここで、もう一段、踏み込みます。


多くの組織が、「まず心理的安全性を作ろう」と取り組んでいます。


「安全な場を作れば、社員が本音を言えるようになる」
「心理的安全性の研修をやれば、フィードバック文化が生まれる」


私は、これは、順序が逆だと考えています。


心理的安全性は、"作るもの"ではなく、"結果として生まれるもの"です。


私が数十社を支援してきて、確信していることがあります。


まず、フィードバックを、実際にし合う仕組みを作る。
声が届く仕組みを作り、届いた声に、経営が応える。
社員同士が、率直に伝え合い、互いを高め合う。


この積み重ねの先に、初めて、安全な場が、自然と生まれてくる。


「フィードバックしやすい雰囲気を作ろう」ではなく、
「まずフィードバックを、実際にし合う仕組みを作る」が先。


雰囲気は、実践の積み重ねの先に、生まれてきます。


これを、多くの経営者の方は、逆にしてしまっているんです。



経営者・管理職の方への、最後の三つの問い

最後に、三つだけ、問いを残します。


あなたは、部下にフィードバックする時、「嫌われる勇気」で武装していませんか?それとも、「その人を本気で思う勇気」で、向き合えていますか?


あなたの組織で、フィードバックは、"ダメ出し"の代名詞になっていませんか?


あなた自身は、社員から、率直なフィードバックを、受けていますか?


この三つに、自信を持って答えられないなら、御社のフィードバック文化は、まだ"一方通行"の段階にあります。




「嫌われる勇気」を、手放してください

最後に、もう一度。


「嫌われる勇気を持て」。
この言葉は、一見、力強く聞こえます。


でも、嫌われることが目的のフィードバックは、誰も幸せにしません。


上司に必要なのは、「嫌われる勇気」ではなく、
「その人のことを、本気で思う勇気」です。


その人の成長を、心から願う。
その人の未来を、一緒に見ようとする。
その上で、今、言うべきことを、言う。


それが結果として、嫌われるかもしれない。
でも、嫌われることは、目的ではない。


目的は、その人が、もっと良い景色を見られるようになること。


この順番を、忘れないでください。


「嫌われる勇気」を、手放してください。
代わりに、「本気で思う勇気」を、握ってください。


そこから、あなたのフィードバックは、静かに、しかし確実に、変わり始めます。
そして、あなたの組織も、変わり始めます。


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