上司に嫌われる勇気は、本当に必要か
「上司には、嫌われる勇気が必要だ」
マネジメントの世界で、本当によく聞く言葉です。
書籍でも、研修でも、経営者の講演でも、この言葉は、繰り返し語られています。
でも、私は、この言葉に、ずっと、違和感を持ってきました。
人事コンサルタントとして、5,000人を超える面接、数十社の組織支援、4名から100名超への垂直立ち上げを経験してきました。
管理職時代には、60名の部下を持ち、執行役員として組織を率いた経験もあります。
その経験から、正直にお伝えします。
上司に本当に必要なのは、「嫌われる勇気」ではありません。
「その人のことを、本気で思う勇気」です。
今日は、この話をさせてください。
◆「嫌われる勇気」が、一人歩きしている
まず、現場で起きていることを、正直にお話しします。
「嫌われる勇気」という言葉は、多くの管理職に、こう解釈されています。
「部下に厳しいことを言わなきゃいけない」
「嫌われてもいいから、指摘すべきことは指摘する」
「優しくしていたら、なめられる」
この解釈が、現場で、一人歩きしているんです。
結果として、何が起きているか。
「嫌われる勇気を持とう」と自分に言い聞かせて、部下に厳しいフィードバックを叩きつける上司が、増えています。
でも、その厳しさは、部下のための厳しさではなく、"自分の正しさを証明するための厳しさ"になっていることが、本当に多いんです。
自分の基準に照らして、「ここがダメだ」と伝える。
自分の経験に照らして、「こうすべきだ」と断じる。
これは、フィードバックではありません。
これは、自分本位の"ダメ出し"です。
◆私自身の、フィードバックの失敗
ここで、正直に告白させてください。
私自身、管理職時代に、フィードバックで失敗した経験が、あります。
ある部下に、厳しいフィードバックをしたことがありました。
「このままでは成長できない」「もっと本気でやらないと」
私は、正しいことを言っていると、思っていました。
部下のために、厳しいことを言っていると。
でも、その部下は、泣きました。
その瞬間、私は、ハッと気づいたんです。
私が伝えていたのは、"部下のためのフィードバック"ではなかった。
"自分の基準を、押しつけていた"だけだった。
部下が、何に悩んでいるのか。
部下が、今、どんな状態にいるのか。
部下にとって、どんな言葉が、本当に届くのか。
そこを、まったく考えずに、自分の正しさだけで、言葉を投げつけていた。
これは、「嫌われる勇気」ではありません。
これは、ただの"配慮のなさ"です。

◆聞き手が誰なのかで、フィードバックは変わる
この経験から、私は、一つの確信を得ました。
フィードバックは、聞き手が誰なのかによって、まったく変えなければならない。
同じ内容を伝えるとしても、相手が違えば、言葉の選び方、タイミング、声のトーン、すべてが変わるべきなんです。
厳しい言葉で真っ直ぐ伝えた方が響く人もいる。
柔らかい言葉で包んだ方が届く人もいる。
言葉よりも、態度で示した方が伝わる人もいる。
まず聴くことから始めた方が、心が開く人もいる。
人によって、コミュニケーションを変える必要がある。
これは、当たり前のことに聞こえるかもしれません。
でも、「嫌われる勇気」という言葉に引きずられている上司は、この当たり前を、忘れてしまうんです。
「嫌われてもいいから、言うべきことを言う」
この姿勢は、一見、力強く見えます。
でも、相手のことを見ていないフィードバックは、どんなに正しい内容でも、絶対に届きません。
◆逆に、フィードバックで関係が深まった経験
一方で、私には、フィードバックをしたことで、部下との関係が深まった経験も、あります。
ある部下に、キャリアについて、率直な話をしたことがありました。
「あなたの強みは、ここだと思う」
「でも、今のやり方だと、この先、伸び悩むかもしれない」
「こういう方向に、挑戦してみないか」
これは、厳しい話でした。
今の自分を否定されたように、感じたかもしれません。
でも、私は、この時、はっきりと、自分の中に、ある感覚がありました。
「この人に、もっと良い景色を見てほしい」
嫌われてもいいと思って、言ったのではありません。
この人のことを、本気で思っているから、言った。
その気持ちは、言葉の端々に、滲み出るものです。
部下は、最初は黙っていました。
でも、少し経ってから、こう言ってくれました。
「そこまで考えてくれていたんですね」
あの瞬間から、その部下との関係は、一段、深くなりました。
厳しいことを言ったから、関係が深まったのではありません。
その人のことを本気で思っていたから、関係が深まったんです。
◆「嫌われる勇気」ではなく、「本気で思う勇気」
ここで、今日の核心をお伝えします。
上司に本当に必要なのは、「嫌われる勇気」ではありません。
「その人のことを、本気で思う勇気」です。
自分本位のフィードバックでは、メンバーは育ちません。
「自分の正しさ」を証明するための厳しさでは、人は動きません。
その人のことを、本気で思った時に、厳しいことを言わなければならない場面が、やってきます。
「このままだと、あなたは伸びない」
「今の働き方を、変えた方がいい」
「この課題に、向き合わないと、次のステージに行けない」
こういう言葉を、本気で相手のことを思って、伝える。
それが、結果として、嫌われるかもしれない。
でも、嫌われることが目的ではない。
嫌われるかもしれないけれど、それでも、この人のために言う。これが、「本気で思う勇気」です。
順番が、逆なんです。
「嫌われる覚悟を持って、厳しく言う」ではない。
「その人を本気で思うから、結果として厳しいことも言える」が、正しい順番です。
◆フィードバックが機能しない組織の共通点
ここから、組織の話に広げます。
私が顧問先で見てきた、フィードバックが機能していない組織には、二つの共通点があります。
一つ目、フィードバック=ダメ出しだと思われている。
社員の中に、「フィードバックされる=怒られる」という認識が、根付いてしまっている。
上司からの面談が、「何を言われるんだろう」という恐怖の時間になっている。
社員は、フィードバックを受けること自体を、避けるようになっている。
これは、フィードバックが、"ダメ出しの道具"として、使われてきた結果です。
二つ目、経営者自身が、フィードバックを受けていない。
これは、最も深刻な問題です。
社員には「フィードバックを受け入れろ」と求めるのに、経営者自身は、誰からもフィードバックをもらっていない。
社員は、それを、見ています。
「社長は人にフィードバックするけど、自分は受けないんだな」
「結局、上から下への一方通行なんだ」
こう感じた瞬間、フィードバック文化は、組織に根付きません。
◆フィードバックは、"相互"で、初めて機能する
ここが、本質です。
フィードバックは、上から下への一方通行では、機能しません。
上司から部下へ。
部下から上司へ。
同僚同士。
そして、社員から経営者へ。
この"相互性"が、組織の中に存在している時、初めて、フィードバックは、文化として機能し始めます。
そして、この相互性を作るために、最初に動くべきは、経営者です。
経営者自身が、「私にもフィードバックをしてほしい」と言えるか。
経営者自身が、社員からの厳しい声を、受け入れる姿勢を見せられるか。
ここが、フィードバック文化が生まれるかどうかの、分水嶺です。
◆「心理的安全性を作れば、声が出る」は、順序が逆
ここで、もう一段、踏み込みます。
多くの組織が、「まず心理的安全性を作ろう」と取り組んでいます。
「安全な場を作れば、社員が本音を言えるようになる」
「心理的安全性の研修をやれば、フィードバック文化が生まれる」
私は、これは、順序が逆だと考えています。
心理的安全性は、"作るもの"ではなく、"結果として生まれるもの"です。
私が数十社を支援してきて、確信していることがあります。
まず、フィードバックを、実際にし合う仕組みを作る。
声が届く仕組みを作り、届いた声に、経営が応える。
社員同士が、率直に伝え合い、互いを高め合う。
この積み重ねの先に、初めて、安全な場が、自然と生まれてくる。
「フィードバックしやすい雰囲気を作ろう」ではなく、
「まずフィードバックを、実際にし合う仕組みを作る」が先。
雰囲気は、実践の積み重ねの先に、生まれてきます。
これを、多くの経営者の方は、逆にしてしまっているんです。
◆経営者・管理職の方への、最後の三つの問い
最後に、三つだけ、問いを残します。
あなたは、部下にフィードバックする時、「嫌われる勇気」で武装していませんか?それとも、「その人を本気で思う勇気」で、向き合えていますか?
あなたの組織で、フィードバックは、"ダメ出し"の代名詞になっていませんか?
あなた自身は、社員から、率直なフィードバックを、受けていますか?
この三つに、自信を持って答えられないなら、御社のフィードバック文化は、まだ"一方通行"の段階にあります。

◆「嫌われる勇気」を、手放してください
最後に、もう一度。
「嫌われる勇気を持て」。
この言葉は、一見、力強く聞こえます。
でも、嫌われることが目的のフィードバックは、誰も幸せにしません。
上司に必要なのは、「嫌われる勇気」ではなく、
「その人のことを、本気で思う勇気」です。
その人の成長を、心から願う。
その人の未来を、一緒に見ようとする。
その上で、今、言うべきことを、言う。
それが結果として、嫌われるかもしれない。
でも、嫌われることは、目的ではない。
目的は、その人が、もっと良い景色を見られるようになること。
この順番を、忘れないでください。
「嫌われる勇気」を、手放してください。
代わりに、「本気で思う勇気」を、握ってください。
そこから、あなたのフィードバックは、静かに、しかし確実に、変わり始めます。
そして、あなたの組織も、変わり始めます。
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