「10a(1000㎡)で手取り10万円を目指す」その基準とは? -農業をはじめて驚いたお金の話- 【2】
「10a(1000㎡)で手取り10万円を目指す」
これは、北海道に来て農業に携わるようになってから、農家の方や卸の方との会話の中で、何度も耳にしたフレーズです。
ちなみにですが、10aとは1,000㎡。およそ300坪です。この1,000㎡(約300坪)の畑から10万円を手元に残せれば、経営が維持できる一つの目安になるということなのでしょう。
農業を始めたばかりの私は、「なるほど、10aで10万円か」と、ひとまずその数字を頭に入れていましたが、実際に農場の数字を見るようになると、ある疑問が生まれてきました。
そもそも、「手取り10万円」の“手取り”とは
売上が10万円なのか。
経費を引いた後の粗利が10万円なのか。
それとも、最終的な農業所得や営業利益が10万円なのか。
同じ「10万円」でも、どの段階の利益を指しているかによって、その意味は全く違います。今回は「10aで手取り10万円」という一つの基準を皮切りに、農業で稼ぐための考え方について、深掘りしていきたいと思います。
●「手取り」とは売上なのか、粗利なのか、それとも営業利益なのか
まず、「手取り」は会計上の正式な利益区分ではありません。そのため、農家によって「手取り」の意味が違っていても不思議なことではありません。ただし、少なくとも「10aで手取り10万円」の10万円を、そのまま「売上」と考えるのは少し無理がありそうです。
また、農産物は作物によって収量も単価も大きく違います。10aから数十万円を売り上げる作物もあれば、100万円を超えるような作物もあります。さらに、その売上を得るために必要な種苗、肥料、農薬、資材、機械、人件費も異なります。そのため、重要なのは「いくら売ったか」ではなく、「売上から、その農産物を生産するために必要なお金を引いて、いくら残ったのか」という考え方でしょう。
ここでは分かりやすく、この「残ったお金」を粗利として考えてみます。
●キャベツ10aを作ったら、いくら残る?
前回の記事でも取り上げたキャベツを例に考えてみます。仮に10aに3,600株のキャベツを作付けし、すべて1玉50円で販売できたとします。
【売上】
50円 × 3,600玉 = 18万円
18万円も売れれば、それなりに利益が出そうな気もします。ところが、生産には当然お金がかかります。
【10aあたりの製造原価】
主な製造原価……11万円
その他製造原価……1.5万円
人件費……4.5万円
(30時間 × 1,500円)
荷造運賃……今回は考慮しない
合計すると、10aあたりの製造原価は17万円になりました。したがって、粗利は以下のようになります。
(売上)18万円 −(製造原価)17万円 =(粗利)1万円
え!?18万円売っても、粗利はたったの1万円!?
この数字だけを見ると、「10aで手取り10万円」という目標には遠く及びませんが、この例の場合、人件費の考え方によっては粗利が変わります。
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●自分の人件費をどう考えるかで数字が変わる
ここからが、農業のお金を考えるうえで面白く、そして難しいところかもしれません。先ほどは30時間分の人件費4.5万円を製造原価として計算しました。では、この30時間を農家自身や家族が働いた場合で考えてみましょう。
本来、従業員を雇えば、1,500円×30時間=4.5万円を給与として支払うことになります。一方、個人農家が自ら同じ30時間働いた場合、自分自身への給与は必要経費として計上されません。そのため、この4.5万円を生産コストとして差し引かなければ、帳簿上残る金額は1万円ではなく5.5万円になります。
ただし、これは「4.5万円分の利益が新たに生まれた」という意味ではありません。実際には30時間の労働を投入しているため、その労働を時給1,500円と評価すれば、4.5万円相当の労働コストが存在しているという捉え方もあります。
●個人農家と法人では「利益」の見え方が違う!?
農業のお金を考えるうえで、もう一つ押さえておきたいのが、個人経営と法人経営の違いです。個人農家では、農業によって生み出された「農業所得」の中に、経営者自身の労働に対する対価と、経営そのものが生み出した利益が混在しやすくなります。
一方、法人では、従業員の給与はもちろん、社長などの役員報酬も経費として支払います。そのうえで残った営業利益が、会社として事業から生み出した利益になります。

売上 ・・・いくら売ったか
粗利 ・・・農産物そのものがどれだけ付加価値を生んだか
農業所得・・・個人農家として農業からどれだけ所得を生み出したか
営業利益・・・法人として本業からどれだけ利益を残したか
故に、「10aで手取り10万円」という話を聞いたときには、その10万円は、何を差し引いた後の10万円なのかまで考える必要があるのです。それは、個人と法人で利益の考え方が違うからです。
●「労働=支出」になる怖さ
新規参入で農業を始めた場合には、この人件費の問題はよりシビアになってきます。代々続く農家であれば、夫婦や両親、祖父母や親族など、家族が一致団結して農作業に関わるケースが多々あります。もちろん、家族労働にも本来は対価が発生します。しかし、経営上の現金支出という意味では、必ずしも「1時間働くたびに決まった時給が口座から出ていく」とは限らないでしょう。
一方で、新規参入で従業員(第三者)を雇用する場合は違います。1時間働いてもらえば、1時間分の給与が必ず発生します。さらに法人であれば、給与だけではなく、一定の場合には社会保険料などの事業主負担も発生します。
そして人だけではありません。農機がなければ買い、倉庫がなければ借りる。農地が離れていれば移動コストもかかるでしょう。このように、同じ10aのキャベツを作っていても、その10aを動かすために必要なお金は、経営体によってまったく違うのです。
当然ながら、従業員に対して「今日は簡単な作業だから、ボランティアでお願いします」とは言えません。だからといって、すべてを機械化するだけの資金があるとも限らないでしょう。結果として、経営者自身が時給を度外視して働き、何とか帳尻を合わせる。そんな場面も珍しくないのではないかもしれません。
●「粗利10万円」を残すにはいくら売ればいい?
ここで、先ほどのキャベツに戻ってみましょう。人件費を除いた製造原価を12.5万円とします。このキャベツから10aあたり10万円の粗利を確保したいのであれば、
(製造原価)12.5万円 +(目標粗利)10万円 = 22.5万円
の売上が必要になります。
3,600玉出荷できるとすると、
(売上)225,000円 ÷(出荷量)3,600玉 = 62.5円/玉
となります。
つまり、「10aで粗利を10万円残したい」という漠然とした目標を、「3,600玉出荷して、平均62.5円以上で販売する」という具体的な目標に変換できます。こうなると、ようやく日々の経営に使える数字になってきます。
●利益を増やす方法は、高く売るだけではない
もちろん、50円だったキャベツを62.5円で売ればすべて解決、という単純な話ではありません。市場価格は自分だけでは決められないからです。では、何ができるでしょうか。
例えば・・・
・商品化率を上げて出荷数量を3,600玉から4,000玉にする。
・生産工程を見直して原価を12.5万円から11万円にする。
・作業方法を改善して30時間かかっていた仕事を25時間にする。
・直接販売などを組み合わせて平均販売単価を上げる。
・資材の量を減らす or 別の資材に変える
一つひとつは小さな改善でも、積み重なれば10aから生み出される利益は変わります。農業では「反収(10aあたりの収穫量)」が非常に重要な指標として使われることがありますが、経営という視点で考えれば、「10aからどのくらい穫れたか」だけではなく、「10aからいくら利益を生み出せたか」も同じくらい重要なのだと思います。
●「10aで10万円」が適切かどうかは、経営体によって違う
結論として「10aで手取り10万円」という基準は適切なのでしょうか。私は、一概に正解とは言えないと思います。なぜなら、経営によって必要なお金が違うからです。
例えば、年間2,000万円の粗利が必要な農場が20haを経営しているとします。20haの区画が全て10aだとしましょう。すると全部で200区画耕作していることになり、10aあたりの粗利は以下のようになります。
2,000万円 ÷ 200 = 10万円/10a
この農場であれば、「10aで10万円」という数値目標はある程度適切だともいます。しかし、年間2,500万円の粗利が必要な経営をしているのであれば、以下のようになります。
2,500万円 ÷ 200 = 12.5万円/10a
反対に、固定費が小さな経営であれば、10万円以下でも十分に経営が成立する可能性があります。つまり、本来は、「10aで10万円稼げる作物を作ろう」からスタートするのではなく、「経営を維持し成長させるためには年間いくら必要なのか」という裏付けが必要になるのです。
必要利益 → 必要粗利 → 必要売上 → 必要単価・収量
このように、逆算していくことで初めて「うちの農場では10aあたり○○万円の粗利が必要だ」という数字が出てくるのだと思います。
家族経営なのか、法人で従業員を雇用するのか。どのような機械を使うのか。どのような方法で出荷するのか。借入金や設備投資をどれだけ抱えているのか。そして、最終的に経営としていくら利益を残したいのか。これらが違えば、目指すべき数字も当然ながら変わります。
さらに近年は、肥料、農薬、燃料、資材、人件費など、農業を取り巻くさまざまなコストが変化しています。過去に「10万円」で成立していた経営が、現在も同じ10万円で成立するとは限りません。だからこそ、昔から語られてきた数字をそのまま信じるのではなく、自分たちの経営の数字に置き換え、定期的にアップデートする必要があるのです。
●自分たちの「10万円」を知る
農業には、天候、病害虫、市場価格など、自分たちの努力だけではコントロールできないものがたくさんあります。むしろ、他の産業と比べても、自助努力だけではどうにもならない要素が大きい産業なのかもしれません。
だからこそ、自分たちでコントロールできる数字については、できる限り把握しておく。「10aで10万円」という物差しに、自分たちの農場を無理やり当てはめるのではなく、自分たちの経営から、「10aでいくら必要なのか」を導き出すことで、「10aで○○万円」という数字が、本当の意味で経営に使える指標になるのではないでしょうか。
私たちが目指すべきなのは、誰かから聞いた「10aで10万円」ではなく、自分たちの経営を持続させるための「10aで○○万円」を知ることだと思います。
農業を始めて、数字を見るようになった今、私はそう感じています。
【 次回予告 】
農業は「どんぶり勘定」と言われる理由とは!?
9月14日(月) 公開予定
【筆者】

今村 純(いまむら じゅん)
農タイムズ編集長。
岐阜県出身。愛知県内の大学を卒業後、農業機械メーカー(ヤンマー)に就職。その後、人材広告会社(マイナビ)にて「マイナビ農業」の企画営業を経て、農業法人の立ち上げに参与。
2023年より農場オフィサーとして北海道で農業を始める。
《運営》豊作ねっと
