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重田園江『シン・アナキズム 世直し思想家列伝』

☆mediopos4006(2025.11.7.)

■重田園江『シン・アナキズム 世直し思想家列伝』
 (NHK出版 2025/7)

アナキズムは「無政府主義」と訳されることも多く
「無政府」=「無秩序」と誤解されることもあるが
権力による支配のない
より自由で協調的な社会秩序を理想とする思想のこと

その基本となるのは
人々が権力に頼らず対等な関係で協力し合うことであり
見返りを求めず日常的に協力しあう行為のなかに
アナキズムの理想を見出すことができる

代表的な思想家としては
プルードンやクロポトキンなどが知られているが
現代では台湾のオードリー・タンのように
政治家でありながら自身をアナーキストと称する
そんな人物もいたりする

重田園江『シン・アナキズム』は
上記のようなアナキズム理解にもとづき
無秩序や破壊のイメージから離れ
「手持ちの資源で日常生活から少しずつ変える」思想として
アナキズムを再定義

自身の「アナキストとしての自己覚醒」
(2020年9月、コロナ禍での出来事)を振り返りながら
思想家たちの実践を「世直し」の視点から「列伝」として描いている

そしてプルードンのような伝統的なアナキズムを基盤としながら
現代の新たなアナキズムを「シン・アナキズム」と名づけ
農業のグローバル化や資本主義の商品化
そして国家の官僚主義などのような
今日の社会問題に直結するテーマを扱っている

本書は「第I部 都市と農村のアナキズム実践」と
「第II部 シン・アナキズムの思想」の二部構成で構成され

第I部では「実践編」として
主にカナダの都市計画家ジェイン・ジェイコブズと
インドの環境活動家ヴァンダナ・シヴァをとりあげ
アナキズムを「実践」として描き
都市と農村の現場から資本主義の「上からの視線」を批判
伝統アナキストのプルードンを補完的に引用しながら
現代の女性思想家を中心に論じている

そして「補論」として著者の重田園江と社会学者・桑田学による
「エコノミーとエコロジーの思想史」についての対談を挟みながら
『アナキズムとは何か』という著作のある森政稔の
「ねこ」を絡めたエッセイを通じ
日本アナキズムの独自性について論じている

第II部では「理論編」として
ハンガリーの経済人類学者カール・ポランニーと
アメリカの文化人類学者デイヴィッド・グレーバーをとりあげ
資本主義の「架空商品化」を批判し
アナキズムを「シン・アナキズム」としてアップデート

そして「終章」では
映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』をとりあげ
アナキズムの寓話として解釈
荒廃した世界での「資源争い」を資本主義のメタファーとし
女性主導の連帯(フュリオサの反乱)を「世直し」の象徴としてとらえ
そこにポランニーやグレーバーの理論を重ね
「怒りを力に変える」メッセージとしている

本書は副題に「世直し思想家列伝」とあるように
第一章から第五章まで主に一人ずつアナキストたちの肖像を描いている

列伝形式としているのは
「アナキズムは体系的ではない」からだという

「アナキズムは「全体」を標榜したり、
唯一の正しさを主張したりはしない。
そういうことをすると一瞬にしてアナキズムでなくなるのが、
この立場の信頼できるところだ。
それは理論ならざる理論であり、ある種の生の様式」なのである

「「列伝」形式は、こうしたアナキズム思想の繊細さと多様性を保持しながら
その魅力を伝えるのにとても適した方法だと思う」としている

ちなみに「あとがき」には理論編の第II部について
「第II部はなぜこんな社会になってしまったのか、
そこから脱出するための別の社会を構想した人たちから
いかにヒントを得られるかを書いたものだ」といい

「19世紀以降、科学技術と資本主義によって
世界がかつてない規模で浸食されるようになってから生じた
人々の分断に対して、それに対抗する「つながる」力が
負けてしまっている」

「つながりを求めるべきは、民族主義や差別による分断と
資本主義の反連帯と欲望の個人化の呪縛にすっかりやられてしまって、
いまでは何を支えとして再び結びつけばいいのか、
激しい支配の暴力にどのような組織や制度を整えて
対抗すればいいのかすら、分からなくなってしまっている」
というのだが

いうまでもなく著者は
その「答え」を与えるなどということはしていない
「何をすればいいか人に決めてもらおうなんてどうかしてる。
それじゃボリシェビキの追随者と同じだ」と

アナキズムは「ある種の生の様式」であり
「「全体」を標榜したり、唯一の正しさを主張したりはしない」
のである

○重田園江(おもだ・そのえ)
明治大学政治経済学部教授。1968年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程単位取得退学。修士(学術)。専門は政治思想史・社会思想史。著書に『フーコーの穴』(木鐸社)、『ホモ・エコノミクス』『社会契約論』『ミシェル・フーコー』(いずれもちくま新書)、『連帯の哲学 I』(勁草書房、渋沢・クローデル賞)、『統治の抗争史 フーコー講義 1978-79』(勁草書房)、『隔たりと政治』『フーコーの風向き』(ともに青土社)、『真理の語り手:アーレントとウクライナ戦争』(白水社)がある。

□目次

序 私はいかにして心配するのをやめ、アナキストについて書くことにしたか

第I部 都市と農村のアナキズム実践――ジェイン・ジェイコブズとヴァンダナ・シヴァ

第一章 ジェイン・ジェイコブズ
1 上から見るか、ヨコから見るか
2 「生きた都市」の条件
3 東京オリンピックの都市再開発

第二章 ヴァンダナ・シヴァ
1 タネとプーさんと目的論
2 「緑の革命」と農業の工業化
3 生物多様性と商品化の相剋

補論(対談)重田園江・桑田学 エコノミーとエコロジーの思想史

第三章 ねこと森政稔
1 ねことお船とアナキズム
2 社会組織家としてのアナキスト

第II部 シン・アナキズムの思想――カール・ポランニーとデイヴィッド・グレーバー

第四章 カール・ポランニー
1 ポランニー、波乱の生
2 労働・土地・貨幣の商品化をめぐって
3 商品経済という「悪魔のひき臼」
4 オーストロ・マルクス主義と「赤いウィーン」
5 協同組合の思想と運動
6 社会的所有における自由と民主主義
7 ポランニー的未来社会

第五章 デイヴィッド・グレーバー
1 近代科学のヤバさは、桑田学『人新世の経済思想史』に書いてある
2 グレーバーの生涯と著作
3 民主主義の起源は西洋にある?
4 国家に抗する社会の地「ゾミア」
5 『万物の黎明』における「ざっくり人類史」批判
6 価値と記号と構造と
7 欲望は社会関係からくる――疎外と物象化
8 借りたものは返さなくてはいけないの?
9 なぜどんなものにも値段が……
10 雄牛のうんこのお仕事たち
11 21世紀のカフカ的世界
12 民主主義とケアの倫理

終章 マッドマックス 怒りのデス・ロード
あとがき
人名索引

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