「何が問題なんですか?」——優秀な部下に言い放たれ、私が気づいたフィードバックの本質
フィードバックを避けたがる自分に、気づいていますか?
「管理職は、嫌われて、感謝されるのです」
中原淳著『フィードバック入門』にあるこの言葉を読んだとき、ある日の記憶がじわりと甦ってきました。部下との評価面談で、予想外の言葉を浴びた日のことです。
誰しも、ネガティブなことを面と向かって伝えるのは気が重いものです。できれば避けて通りたい。けれど組織で人を育てていると、どうしても向き合わなければならない場面が来ます。特に難しいのが、優秀な部下へのフィードバックです。能力は疑いようがない。でも何かが噛み合っていない——そういう時ほど、伝え方を一つ間違えると大きなトラブルになる可能性があります。私はかつて、まさにその痛い目を見ました。
その部下は、なぜ上司には愛され、仲間には疎まれたのか?
私のチームに、東大卒・外資コンサル出身の20代の女性部下がいました。入社後、めきめきと成果を挙げ、チームの他のメンバーを引っ張る存在になっていきました。私自身も彼女との議論から多くの刺激をもらっていて、採用して本当によかったと思っていました。
ところが、入社1年が経つ頃に実施された360度評価を開いて、私は少し戸惑いました。同僚からの評価には「協調性が足りない」「上から目線だ」という言葉が並んでいたのです。一方、他のチームの部長など上位レイヤーのコメントは、軒並みポジティブでした。特に分析力や提案力を高く評価する内容が多かったのです。
なぜこんなギャップが生まれたのか。少し考えれば分かることでした。物怖じしない彼女の態度は、目上の人間には「度胸がある、はきはきしている」とポジティブに映りやすい。しかし同僚にとっては、それが「上から目線」に感じられることもある。また、彼女はとても合理的な思考の持ち主だったので、「同僚に相談するより上司に相談した方が物事がスムーズに進む」と考えていました。チーム内での根回しを省いて仕事を進める彼女の姿は、「協調性が足りない」と見られても仕方のないことでした。
勇気を出して伝えたら、「何が問題なんですか?」
どう伝えようか、随分悩みました。でも、ありのまま伝えるしかないと腹を決めました。
評価面談の前半では、チームへの貢献を心から評価していること、今後も大きな期待をしていることを丁寧に伝えました。そして後半、意を決して言いました。「一方で、一人で成果を出すには限界があります。もっとチームワークを大事にして欲しい」と。
その瞬間、彼女の表情がすっと曇りました。
「何が問題なんですか?もっと具体的に言ってもらえないと、改善できません!」
明らかに不満をあらわにしながら、彼女はそう言い放ちました。面談はその後も平行線をたどり、彼女の怒りが収まらないまま終わりました。
私は、彼女の「立場」を完全に無視していた
今なら、分かります。彼女はチームの中で最年少でありながら、実力は一番上というアンバランスな状況にいました。そんな状況で「周囲ともっと上手くやって欲しい」と言われたら、「先輩たちにもっと頑張れと言うべきでは」と感じても不思議ではありません。
私は彼女の置かれている立場を無視して、将来のマネージャー候補としての振る舞いを期待していました。しかしその期待を、一度も彼女に伝えていませんでした。面談の後で「実はマネージャー候補として考えていた」と伝えましたが、彼女にはそもそもマネージャー志向がなく、挑戦的なプロジェクトに携わりたいという思いの方がずっと強かったのです。
私はチームの和を最優先に考えてフィードバックしました。でも彼女には、自分のキャリアより「チームの都合」を押しつけられたように映ったのだと思います。本来は「何を伝えるか」より先に「この人は何を大切にしているのか」を聴くことが必要でした。
フィードバックは「届ける」より「聴く」から始まる
『フィードバック入門』に出会い、気づかされたことがあります。フィードバックとは、評価の結果を届けることではありません。まず相手の話を聴き、本人の成長を支援するスタンスで関わることが、フィードバックの本質だということです。
同じ内容を伝えるにしても、「チームの問題として指摘する」のか「あなたの成長のために伝える」のかでは、受け取り方がまったく違います。あの面談でもし私が先に「最近、仕事でどんなことが楽しくて、何に手応えを感じていますか?」と聴いていたら、彼女の反応はずいぶん違っていたかもしれません。
それ以降、私は変わりました。一方的に評価の良し悪しを伝えるのではなく、まず相手の話を聴いて、その流れの中で「あなたの成長のために伝えたいことがある」というスタンスでフィードバックする。たったそれだけのことで、同じことを伝えても部下の受け取り方が大きく変わることを、その後の経験で実感しました。
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