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良いアイデアに辿り着くために、"正しい"人に会いにいこう

以前、「インスピレーションは降りてこないので、探しにいくしかない」というnoteを書きました。

そこで、人に話を聞くことは、新しいアイデアや視点を得るための有効な方法のひとつだ、という話を書いたのですが、その中でさらっと、

① 誰に話を聞くべきか?をよく考える
② 相手から良い話を引き出せるようにする

という2つが大事だと書きました。

今回は、このうちの「誰に話を聞くべきか?」について、もう少し掘り下げて書いてみたいと思います。

お仕事で、新規事業やサービス開発のプロジェクトで生活者インタビューをすることが多いのですが、プロジェクトで一緒に働く同僚やお客さんとの話は、だいたい自分たちの想定顧客となりうる人たちを対象に決めて、

「その人たちが何に悩んでいるのか」
「その悩みをどうやって引き出すか」

と考えることから始まります。すると次は、インタビューの質問リストを作ることになります。

「普段どんなことに困っていますか?」
「そのとき、どうしていますか?」
「こういうサービスがあったら使いますか?」

みたいに質問を考えていきます。よくあるシーンです。もちろん、質問の設計はとても大事です。ただ、これまでいろいろなインタビューをやってきて思うのは、質問内容と同じくらい、場合によってはそれ以上に、

「そもそも、誰に会うのか?」

について考えることが大事だということです。なぜなら、会う人が変わると、同じ質問をしていても、見えてくる世界がまったく変わるからです。

ここでいう“正しい人”というのは、特別に優れた人という意味ではありません。

自分たちが今ほしい「視点」を持っている人

という意味です。

ニーズを探すのに、「想定顧客」にだけ会えばいいとは限らない

例えば、あなたが「健康習慣を続けられる新しいサービス」を考えているとします。

ターゲットが30〜40代の会社員だとすると、まずは30〜40代の会社員を5人くらい集めて、普段している健康習慣や、その継続に関する悩みについてインタビューしてみよう、と考えると思います。

これは当然、間違いではありません。

ただ、それだけだと、意外と似たような話ばかり出てくることがあります。

「仕事が忙しくて時間がない」
「ジムには入ったけど行かなくなった」
「健康のために運動したほうがいいとは思っている」

みたいな話です。

もちろん、これらも重要な情報です。ただ、この話を5人、10人から聞いたとして、そこから今までにないサービスのアイデアを考えようとすると、案外難しかったりします。

特に、質問項目に沿って順番に話を聞くだけのインタビューだと、なかなか新しい気づきに辿り着けないことがあります。

というのも、まだ解決されていない新しい課題やニーズは、往々にして本人も明確には言語化できていないからです。

「何か困っていることはありますか?」

と聞かれて、

「実は私は、○○という潜在ニーズを抱えています」

と答えてくれる人は、当然ながらほとんどいません。だから、平均的なユーザーからニーズを見つけられない、という話ではありません。

実際には、その人の行動や発言を深掘りしたり、矛盾を拾ったり、生活の文脈を丁寧に見たりすることで、多くの気づきを得ることができます。

ただ、平均的なユーザー“だけ”から、まだ自分たちが見えていない新しい課題やアイデアに辿り着くのは、意外と難しい。

そんなことはあると思っています。「インタビューを何人もしたのに、何も新しいヒントが得られなかったんです」

という話を聞くことがあります。そんなときは、質問の仕方だけではなく、そもそも誰に話を聞いていたのか?を見直してみてもいいのではないかと思います。

じゃあ、誰に会えばいいのか?

私がどうしているかというと、インタビュー対象者を考えるときに、いわゆる「ターゲットユーザー」だけではなく、少し違う人たちを混ぜることがあります。

例えば、

Extreme User(エクストリームユーザー)
Lead User(リードユーザー)
Expert(専門家)

のような人たちです。呼び方や定義はプロジェクトによって多少変わりますが、要するに、

「平均的な人だけに話を聞かない」

ということです。普通の人からは見えづらいものを、別の角度から覗いてみる。そうすると、思わぬヒントに出会えることがあります。

Extreme User:課題や行動が極端に表れている人に会う

Extreme Userは、その名の通り、ある行動や課題が極端に表れている人です。

先ほどの健康習慣の例なら、毎日の睡眠・食事・体重・運動を何年も記録している人かもしれないし、反対に、健康についてほとんど何も気にしてこなかった人かもしれません。

あるいは、忙しくてジムに行く時間がないので、通勤や仕事中の移動そのものを運動に変えている人も面白いです。

こういう人たちに話を聞くと、平均的なユーザーでは見えにくかったものが、かなり大げさな形で見えることがあります。

例えば、毎朝走っている人に話を聞いたら、

「運動するかどうかを毎朝考えると面倒なので、起きたら何も考えずにウェアに着替えるようにしている」

とか、

「もうランニングウェアで寝ています」

みたいな話が出てくるかもしれません。すると、ここから、

「どうしたら運動するモチベーションを上げられるか」

ではなく、

「運動するかどうかを悩む機会そのものをなくす」

という、少し違う方向のアイデアが出てくるかもしれません。

これは架空の例ですが、Extreme Userに話を聞く面白さはこういうところにあります。極端な行動をしているからこそ、普通の人の中にも存在しているけれど普段は見えにくい欲求や障壁が見える。

Lead User:未来を少し先に生きている人に会う

もうひとつ、私が新規事業のリサーチで面白いと思っているのがLead Userです。

簡単にいえば、「将来、多くの人が直面しそうな課題やニーズに、ほかの人より少し早く直面している人」です。

そういう人たちは、市場にまだ十分な解決策が存在していないために、自分なりの工夫や解決方法をつくっていることがあります。

個人的には、こういう人を見つけるとかなりテンションが上がります。

なぜなら、我々のようなサービスをつくる側がまだ考えていないものを、ユーザーがすでに勝手につくっているからです。

例えば、市販されているサービスでは満足できないので、Excelを自作して管理していたり、複数のアプリを無理やり組み合わせて使っていたり、自分なりのルールをつくっていたりする。こういう「工夫」は、新しいサービスのヒントになることがあります。

彼ら彼女らにインタビューをしていると、「別にそんなに困っていませんよ」と言われることもあります。でもよく聞いてみると、その人はものすごく面倒な方法で問題を回避していたりする。

なぜ「困っていない」のかというと、すでに自分で何とかしているからだったりします。

そして、その人が編み出した解決策が、数年後にはほかの多くの人にとっても役立つものになるかもしれません。

ユーザーが「困っている」と言うかどうかと、そこに事業機会があるかどうかは、必ずしも同じではありません。だから私は、困りごとを聞くだけではなく、「その人が自分で編み出した工夫」を見るようにしています。

「困っていますか?」より、「今はどうやって対処しているんですか?」のほうに、面白いヒントが眠っていることがあります。

Expert:一人の経験を、構造として見る

もうひとつがExpert、専門家です。

そのテーマについて長く仕事をしている人や、多くのユーザーを見てきた人、研究者などです。

Expertに話を聞く意味は、ユーザーとは少し違います。一人のユーザーが教えてくれるのは、基本的にはその人自身の経験です。一方でExpertは、何十人、何百人という人を見てきた経験から、

「こういう人は大体ここで困る」
「昔はこうだったけど、最近はこういう人が増えている」
「実は業界ではここがボトルネックになっている」

といった、もう一段上の視点を持っていることがあります。

つまり、Userが「点」を見せてくれる存在だとすると、Expertは「地図」を見せてくれる存在とも言えるかもしれません。

つまり、

Expertから、構造を見る。
Extreme Userから、課題を拡大して見る。
Lead Userから、少し先の未来を見る。
想定顧客から、現在のリアルな生活を見る。

こういうふうに、異なる視点を組み合わせることで、ただ無邪気に話を聞くだけでは得られない、新しいアイデアや切り口に辿り着けるかもしれません。

インタビュー対象者は「属性」ではなく「視点」で組み合わせる

ユーザーインタビューについて相談されると、「何人くらいインタビューすればいいですか?」と聞かれることがあります。

これ、もちろんプロジェクトの目的によるので一概には言えないのですが、個人的には人数を考えることと同じくらい、「どんな視点を持った人を組み合わせるか」を考えることが大事だと思っています。

例えば10人全員に似た属性・似た経験の人を集めるのもいいですが、

一般的なユーザー 4人
Extreme User 2人
Lead User 2人
Expert 2人

のようにしてみると、同じ10人でも、得られる情報の幅はかなり変わります。これは、単純に「属性をばらけさせる」という話でもありません。

どちらかというと、インタビュー対象者を「視点のポートフォリオ」として設計するという感覚に近いです。

今回のリサーチでは、現在のリアルを見たいのか。新たな課題を見つけたいのか。少し先の未来を見たいのか。何を知りたいかによって、会うべき人は変わります。

その意味では、インタビュー対象者を選ぶこと自体が、ある種のアイデア発想なのかもしれません。

ただし、「探索」と「検証」は別の話

ひとつだけ補足しておくと、ここまで書いてきたのは、主に新しい課題やアイデアを探す「探索」のフェーズでの話です。

新しい視点を得たい。
まだ知らないニーズを見つけたい。
今まで考えていなかった事業の切り口を探したい。

そんなときには、Extreme UserやLead User、Expertのような少し変わった人たちに会うことが大きなヒントになります。

一方で、

「このコンセプトは、本当に想定顧客に受け入れられるのか?」
「実際にお金を払って使ってくれるのか?」

を確かめたいのであれば、当然ながら想定する顧客にきちんと会う必要があります。面白いアイデアを見つけることと、そのアイデアが市場で成立することを確かめることは、少し違います。

どちらが正しい、間違ってるの話ではなく、当たり前ですが目的によって使い分けましょうというだけの話です。


良いアイデアの前に、良い人に会う

新しいアイデアを考えなければいけないとき、

つい会議室に集まって、付箋を貼ったり、ブレストをしたり、AIにアイデアを100個出してもらったりしたくなります。

ただ、それでも何も出てこないときは、「まだ会うべき人に会っていないだけかもしれない」と考えてみてもいいのではないかと思います。

自分たちと同じ前提を持っている人同士で、どれだけ考えても、出てくるアイデアにはどうしても限界があります。

でも、自分たちとはまったく違う方法で生活している人や、その問題を何年も考え続けている人、あるいは自分で勝手に解決策をつくってしまっている人に会うと、

「そんな見方があったのか」

という瞬間があります。すると、その瞬間に、自分たちが考えていた問題の捉え方そのものが変わる。そして、問題の見え方が変わると、考えられるアイデアも変わります。

良いアイデアの前に、良い視点がある。
そして、良い視点の前に、良い人との出会いがある。

のだと思います。

良い質問を考えることも大事ですが、その前に、「今回、自分たちは誰に会うべきなんだろう?」さらに、もう一歩踏み込んで、「今回、自分たちはどんな視点を手に入れたいんだろう?」

と考えてみる。そこから逆算して、会う人を決めてみる。

新しいアイデアを探しているときには、そんなところからリサーチを始めてみてもいいのではないでしょうか。

ということで、今回はそんな感じです。ではまたどこかで。

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