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水無月のころ

お届けものがあり伺う。
日頃の御礼を兼ねた挨拶。
たいした事は出来ないけど、
心ばかりの手作りを少し…。

玄関前で息をひと呑み…。
大きく吐いて
インターホンを長押し。
ここのピンポンは
押してすぐ戻すと跳ねた音になる。
それが とても急かして呼ぶように聞こえるから
長押しで ボタンをゆっくり戻さなければならない。

奥から「は~い…」と細い声が聞こえる。

まだ引戸には手を掛けない。

磨りガラス越しに姿が透ける。
「どうぞ…」の いざないと同時に、
正座する動きが知れる。

「失礼します…」引戸を右へ…。

「遠いところ御丁寧に…………」
手をつくかつかない位の礼節…
言葉では重く、身のこなしは楽に。

相変わらず柔らかな表情。
人を一瞬でリラックスさせる術は
先代譲りかも知れない…。

軽く頭を下げ敷居を越す。

左足から…。

昔、この主からそうするようにと
教わった。

ちなみに出るときは右足から…。

「左進右退」…という作法とのこと。

よくよく思えば この座敷の宇宙で
多くの事を学んだ。

框あがってから靴を揃える。

廊下に並ぶ一枚ガラスから
庭の緑が射し込む。

一部は昭和の波板ガラス……

いつかの地震を越えての光……。

通される部屋は八畳。
簡略な一間床を備えた広間は
普段の稽古場。

畳は それなりに……
情深い詰まった目をしている。

京間の一畳は広い。
軽く香焚かれた静けさが嬉しい。

風呂敷を下座に置き、
無言で床前を外して座る。

奥浅い床の間に
涼しげな淡彩が見える。

水辺に蛙……睡蓮の葉に乗ろうかと
思案しておられる。
どことなく笑ふような尊顔。
寺の印影があるから
拈華の意味でもこめられているのか。

桐の丸火鉢に鉄瓶が掛かる。
湯が沸き始めると
早速盆点ての一服。

床をたずねる……。
「お寺さんの絵、摩訶迦葉尊者ですか……」

「わたしもそう見てるんですけど
 箱にはアンジン…としてあります」

安身立命……蛙が飛ぼうか飛ぶまいか迷う訳とは……
自分の事として考えてみよ……
そんな戒めだろうか……。

「安心…と書いてアンジンと読みます…って和尚様が仰ってました……お菓子をどうぞ…」

透き通る葛饅頭は淡青。
器は吉野の杉板…
濡れた木目から爽やかな芳香が漂う…

自然な流れの中
お点前が始まる。

床柱に小振りな籠花入が傾く。

長い葉と色花に紛れて
揺れる藤の実……。

ふじ……
なるほど…掛軸の「アンジン」と
「無事」が何気にかけられている。

振られる茶筅の清音…………。

白いやわらか手の平茶碗に
茶の碧が夏を越えようとしている。

今日は夏至。

日が長いから
少し位居座っても許されそう…。

とりあえず

床の花の説明を
待つことにしようか…。
















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阿毘羅亭日乗 お心お寄せいただきありがとうございます。お考えいただきましたこと厚く御礼申し上げます。