【実録小説エキストラの流儀】~トラと呼ばれた男~完全版
~プロローグ~
背景たちの主張
「エキストラ」。通称、トラ。
皆さんはこの言葉を聞いてどのような存在を想像するだろうか。
道を行き交う通行人? レストランで談笑する客? 事件現場に群がる野次馬?
……なるほど、よくお分かりで。大正解だ。
では、もうこの記事を閉じていただいて構わない。他の有益なビジネス記事やライフハック記事へ飛んでくれ。
ーーというのは冗談だ。やっぱり寂しいのでどうかもう少し付き合ってほしい。
彼らは、エンドロールに大きく名前が載る「キャスト」とは違う。ドラマや映画という虚構の世界において空気のように、あるいは風景の一部として存在する人々。それがエキストラだ。
だが、密室劇でもない限り世の中の映像作品の99パーセントは彼らを必要としている。彼らがいなければ世界はあまりに静寂で不自然なものになってしまうからだ。
「エキストラこそが作品の血肉である」
そう言えば聞こえはいいが現実は甘くない。
役者としての修業、純粋な好奇心、あるいは憧れの俳優を一目見たいというファン心理。様々な思惑が交錯する現場で彼らは早朝から深夜まで拘束される。
報酬? それを時給換算するのは野暮だ。計算機を叩いた瞬間、心が折れてしまうからやめておこう。
我々が得るのは金ではない。
信用、経験、そして一瞬の優越感。
いつか「背景」ではなく「主役」になるための切符を手に入れるために今日も現場の隅に立つ。
これは、そんなエキストラ(トラ)として現場を渡り歩き、数々の「異常」と「日常」を目撃してきた一人の役者の生存記録である。
ドラマの裏側に潜む笑いと涙、そして少しの狂気。
どうか優しい目でこの「背景たち」の生き様を覗いてみてほしい。
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