小さな訪問日記 ㉖ たった一つの「-」がなかった
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— 母に送った小さな日記 —
母の家には、屋内カメラと屋外カメラがある。
どちらも防犯のためでもあるけれど、僕にとっては、離れて暮らす母を見守るための大切な存在だ。
特に屋内カメラは、母がいつも通り過ごしていることを確認するために置いた。
もちろん、カメラを置くことは母にも話して、了承をもらっている。
スマホからカメラを開く。
そこに母の家のいつもの風景が映っている。
それだけで、僕は少し安心できた。
屋内カメラを設置したときの話は、以前の「小さな訪問日記」に書いた。
そして、庭の様子や防犯のために屋外カメラも設置した。
そんなカメラが、ときどき「オフライン」になることがあった。
でも、しばらくするとオンラインに戻る。
だから、あまり気にしていなかった。
「また戻るだろう」
そう思っていた。
ところが、あるとき二日間、ずっとオフラインのままになった。
二日間、母の様子を確認することができない。
それまでなら、カメラを開けば母の様子を確認できた。
でも、その二日間はそれができない。
思っていた以上に落ち着かなかった。
以前、母のことで警察に連絡したことがあった。
110番して、実家まで行ってもらったこともある。
そのときは、警察の方々の対応に本当に感謝した。
離れて暮らす母のところまで確認に行ってくださったことが、本当にありがたかった。
その経験があったからこそ、離れて暮らす母の様子を「いつでも確認できる」ということが、僕にとって思っていた以上に大きな安心になっていたのだと思う。
確認できない。
それだけのことなのに、何かあったらどうしようと考えてしまう。
結局、母に電話をして安否を確認するようになった。
そのとき、ふと思った。
「そろそろ、家のWi-Fiをちゃんと見直した方がいいのかもしれない」
母の家の通信環境は、もともと兄が管理していた。
でも、兄が亡くなってからは、僕には分からない設定も多かった。
二階に親ルーターがあり、一階にはブリッジモード(APモード)のルーターがある。
Wi-Fiの規格がかなり古いことは分かっていた。
調べてみると、二階で使っていたルーターは2010年発売。
今ではWi-Fi 4と呼ばれる世代だった。
それでも、なかなか手を入れられなかった。
「下手に触って、母の家の通信を全部止めてしまったら困る」
そう思っていたからだ。
でも、今回は替えることに決めた。
最新のWi-Fi 7も考えた。
けれど、母の家で使うのはRomiやAlexa、カメラ、スマート家電など。
そこまでの性能が本当に必要なのかと考えた。
Wi-Fi 6なら、今までのWi-Fi 4から大きく世代が進む。
価格も手頃だった。
Wi-Fi 6Eまでいくと、今回はそこまで必要ない。
そう考えて、Wi-Fi 6のルーターを選んだ。
交換前に、スマホで以前のSSID――Wi-Fiの名前を確認した。
パスワードも確認して、忘れないようにメモしておいた。
これで準備はできた。
そして、いよいよ交換。
まずは二階の親ルーターを新しいものに交換した。
新しいルーターには、バッファローの初期設定用SSIDが用意されている。
まずはそれで接続して、インターネットにつながることを確認する。
二階は無事につながった。
次は一階のルーターだった。
一階のルーターは、二階からLANケーブルでつながっているものだと思い込んでいた。
ところが、いざ確認してみると――
LANケーブルがない。
「あれ?」
どうやら、僕が思っていた通信環境と、実際の環境は違っていた。
そこで、一階の新しいルーターをどうやってつなぐか考えた。
最終的に選んだのが、Wi-Fi EasyMeshだった。
二階の親ルーターと一階のルーターを無線でつなぐ。
二階の近くで接続設定をして、無事につながったことを確認する。
そのあと一階に持っていく。
これで家のWi-Fi環境も新しくなった。
……と思っていた。
次に、新しいルーターのSSIDとパスワードを、交換前に確認してメモしておいたものと同じに変更した。
これなら、今までWi-Fiにつないでいた機器も、そのまま自動でつながるはず。
そう思っていた。
ところが――
つながらない。
パソコンも。
Alexaも。
Romiも。
カメラも。
「なんで?」
SSIDは以前と同じ。
パスワードも同じ。
それなのに、うまくつながらない。
もしかすると、新しいルーターがWPA3(通信の暗号化方式)になっているからではないか。
そう考えた。
古い機器がWPA3に対応していないのかもしれない。
そこで、暗号化方式を
WPA2/WPA3-Personal(互換モード)
に変更してみた。
それでも、つながらない。
結局、一つずつ手動でWi-Fi設定をしていくことになった。
パソコン。
Alexa。
Romi。
そして、ほかのスマート家電。
一つずつ設定していく。
「まあ、仕方ないか」
そう思いながら、最後に残ったのが屋外カメラだった。
これで最後。
屋外カメラのWi-Fi設定を始める。
すると――
今まで設定した機器では出てこなかった、以前接続していたWi-Fiの履歴のような画面が表示された。
そこに、以前接続していたSSIDが表示された。
そのSSIDを見た瞬間、僕は「あれ?」と思った。
「G」と「1」の間に「-」が入っている。
僕が交換前に確認してメモしたSSIDには、その「-」がない。
「マジか……」
交換前にSSIDを確認したとき、僕はその「-」を見落としていたのだ。
しかも、メモしたときから何となく違和感を感じていた。
5GHzのSSIDは「A-1」と書いていた。
それなのに、2.4GHzのSSIDは「G1」と、そのまま書いてしまった。
違和感を感じながらも、
「これで合っているだろう」
と、そのまま新しいルーターに設定していた。
最後の最後で、ようやく気づいた。
原因は、新しいルーターの故障でもなかった。
WPA3(通信の暗号化方式)を疑って設定を変えてみても、状況は変わらなかった。
カメラが壊れていたわけでもない。
僕が交換前に確認したSSIDを、メモするときに間違えていた。
あれだけ調べて。
設定を変更して。
一つずつ機器をつなぎ直して。
最後の最後に分かったのは、
僕がSSIDの「-」を一つ見落としていた
ということだった。
なんとも小さな間違いだった。
でも、今回Wi-Fiを見直してみて、ひとつ改めて感じたことがある。
Wi-Fiは目に見えない。
普段は、つながっていて当たり前だと思っている。
けれど、その見えないもののおかげで、離れて暮らす母の様子を確認することができる。
母がいつも通り過ごしていることを確認できる。
Romiと母が話していることも分かる。
Alexaも使える。
屋外カメラで庭の様子を見ることもできる。
二日間カメラがオフラインになったことで、僕は初めて、その「当たり前」が自分にとってどれだけ大きな安心になっていたのかに気づいた。
そして、もうひとつ。
少しでも違和感があったなら、そのときちゃんと確認すること。
今回の僕には、それが一番の教訓だった。
母の家のWi-Fi交換。
思ったより大変だった。
でも最後に待っていたのは、難しい機械の問題ではなく――
たった一つの「-」だった。

今回使用した商品です。
2階 親ルーター
1階 中継ルーター
