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「そっか、あの時も」第1話 英会話講師(前編)

大学に入ったのは、1995年。
英文科だった。

高校時代にアメリカへ留学。
大学入学後に受けたTOEICは、ほぼ満点。

当時通っていた英会話スクールで、
スタッフに声をかけられた。

  「講師になってみない?」

大学2年になってすぐ、採用試験を受けた。

合格した。
英会話講師になった。

1990年代半ば。

生徒は、大学生。
仕事帰りの社会人。

そして、女性が圧倒的に多かった。

英語学習の目的トップ3。
「海外旅行で英語を使いたい」
「外国人の友達が欲しい」
「字幕なしで映画を見たい」

英語が話せること自体。
今より少し特別に見える時代だった。

授業では、テキストを使って会話を練習する。
新しい表現を教える。

「Repeat after the tape.」

当時、授業ではカセットテープを使用。
聞き取れなかったところを、もう一度聞かせる。

巻き戻しボタンを押す。

キュ。
一単語くらい戻る。

キュル。
三単語くらい。

キュルキュル。
一文くらい。

あっ、戻しすぎた。
そんなときは、今度は早送り。

キュル。
少しだけ前へ進める。

狙いを定めて再生ボタンを押す。
狙ったところから音声が始まる。

ちょっとした職人芸だった。

英会話は、相手の顔を見て話す。
それが基本だった。

ホワイトボードに文字を書くとき。
カセットテープを操作するとき。

手は別のことをしていても、
目線は生徒へ向ける。

そして、耳は教室全体。

10人が同時に英文を読む。
発音が違う。語順が違う。
一人だけ止まった。

そんな小さな違いを拾う。

目は生徒。
手はホワイトボードとカセット。
耳は教室全体。

それを全部、同時にやる。

そして。
英会話講師、笑顔は絶やさない。

私は、この仕事が好きだった。

大学では英語を学ぶ。
英会話スクールへ行けば、今度は自分が教える。
授業が終われば、ほかの講師たちと英語の話をする。

生活の中に、ずっと英語があった。

そして、生徒から言われることもあった。

  「先生、英語が喋れてかっこいいですね」

うれしかった。

アメリカに住んでいた。
英文科に通っている。
TOEICもほぼ満点。
大学生で、英会話講師。
外国人と話せる。
字幕なしで映画も見られる。

英語ができるだけで、かっこいいと言われる。
そりゃあ、調子にも乗る。

当時の私に、自分の長所を聞いたら、迷わず答えただろう。

「英語。」

英語ができる。
それだけで、十分。


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