「そっか、あの時も」第5話 個別指導塾の講師(後編)
次に目を開けたとき、
カレンダーの数字は2025年7月。
あの子が中学3年生の夏を迎えた頃にいた。
まだ、私の担当ではない。
塾で会っても、挨拶をする程度の関係。
「あの子、私が担当します」
塾長に、自分から名乗り出た。
「よろしくお願いします。」
理由。
聞かれもしなかった。
最初の授業。
この子のことは誰よりもわかっている。
理解があやしいところ。
完全に抜けているところ。
一つずつ。
そして、授業が終わったあと。
その子のためのプリントを作り始めた。
一枚ずつ。
そして。
それを繰り返す。
その子専用だったプリントは、
単元ごとにまとまり始めた。
解説。
難しい言葉は使いたくない。
練習問題。
ここで自信を付けて欲しい。
今は時間がある。
瞬間英作文。
『わかる』を『書ける』に変えたい。
夏が終わるころ。
プリントはかなりの量になっていた。
2025年10月。
積み上がったプリント。
これ、テキストとして、一冊にできる。
私は、順番を並べ直した。
足りないところを足した。
重複しているところを削った。
表紙を付けた。
そして、一冊のテキストができた。
誰かに売るため、ではない。
出版社に持っていくため、でもない。
目の前の一人。
その子を助けるため。
そして、その勢いのまま、
中学英文法の最後、仮定法までが完成した。
この三冊があれば、今度は大丈夫。
しんどい思いはもうさせない。
また、意識が遠くなる。
きっと、これが。
