日本に帰ってきたのに、「これください」が通じない。
日本に帰ってきて、浦島太郎みたいな気分になることがある。
海外に3年ほど住んで、日本に帰ってきた。
もちろん日本語は普通に話せる。
でも、なんだか知らないものが増えている。
そのひとつが、スマホのアプリや操作。
海外にいたときも、カフェやレストランでは、QRコードを読み込んでスマホでメニューを見ることが多かった。
正直、ちょっと面倒だなと思うこともあった。
でも、
「これが時代の流れなんだろうな」
くらいに思っていた。
そもそも私は英語がペラペラ話せるわけではない。
だから、スマホでメニューを見て、そのまま注文できるのは助かることも多かった。
店員さんとたくさん話さなくてもいい。
わからないものがあっても、写真を見ながらゆっくり選べる。
これはこれで便利だった。
ところが、日本に帰ってきてみると。
「スマホを出す」
「Wi-Fiにつなぐ」
「QRコードを読み込む」
「メニューを見る」
「そこから注文する」
紙のメニューをパラパラめくって、
「これくださ〜い」
で終わるほうが、楽だし早い!
しかも、目の前には店員さんがいる。
いるのに、スマホに向かってもくもくと注文している。
なんだか不思議だ。
そして、コンビニでも。
いつものくせで、レジでお金をカウンターに置こうとすると、
「あ、こちらの機械でお支払いお願いします」
と言われる。
「あ、はい……」
と、ちょっと恥ずかしくなる。
先日なんて、コピーをするのに小銭が必要だったので、
「すみません、両替お願いします」
と1000円札を渡したら、
「あ、こちらの機械でお願いします」
……両替もかい!😂
と、心の中でツッコんだ。
もちろん、機械が悪いわけではない。
効率的だし、店員さんの負担も減る。
でも、なんだろう。
店員さん、目の前にいるのに。
なんとなく壁があると感じるのは、私だけだろうか。
それと海外にいたとき。
我が家は日本食を扱っているスーパーによく行っていた。
日本食が手に入るので、私たちにとってはかなりありがたい存在。
いわゆる高級スーパーのようなところで、成城石井みたいな感じだった。
レジは2人体制で、袋詰めまでしてくれる。
そして、とにかくスタッフの人が多い。
東南アジアあるあるなのかもしれない。
子どもを連れてレジに並んでいると、カタコトの日本語で
「名前は〜?」
「何歳?」
「かわいいね〜」
なんて、毎回のように話しかけてくれる。
最初はそんなやりとりも、海外生活のひとコマくらいに思っていた。
でも、今思うと、あれが結構好きだった。
レストランでもそうだった。
スタッフの人数が多いから、子どもに話しかけてくれたり、
子どもが食べ物のことや、コーヒーのことを質問しても、丁寧に答えてくれる。
ときには、スタッフのお姉さんとどこか行ったなぁ、と思ったらおやつをもらって帰ってきたり。
ベビーをあやしてくれるスタッフの人までいた。
たぶん、忙しくない時間に、好きでやってくれていたのだと思う。
それが、私たちにとっては日常だった。
いつも、暖かく迎え入れてもらっていた。
日本に帰ってきてから、そのことに気づいた。
だから今、
機械で注文して、
機械で会計して、
店員さんとはほとんど話さない。
そんな場面に出会うと、
「便利になったな」
と思う一方で、
ちょっと寂しいな、とも思う。
これは、日本のほうが良いとか、海外のほうが良いとか、そういう話ではなく。
海外にいたときは、QRコードで注文することも便利だった。
日本に帰ってきたら、紙のメニューで「これください」と言いたくなった。
同じ仕組みなのに、使う人の立場が変わると、便利にも不便にもなる。
便利って、絶対的なものじゃないのかもしれない。
誰にとって便利なのか。
どんな状況で使うのか。
それによって、感じ方は全然違う。
日本に来ている外国人観光客にとっては、今の日本のデジタル化は、きっとすごく便利なんだと思う。
日本語が話せないお客さんと、外国語が話せない店員さん。
その間を、機械がつないでくれる。
そう考えると、機械が増えたこと自体が悪いわけじゃない。
ただ私は、
人が目の前にいるなら、
ちょっとくらい人と話したい。
「かわいいね」と声をかけてもらったら、こちらも笑って返したい。
そんなことが、思っていた以上に好きだったんだな。
あの笑顔に救われていたんだな。
日本に帰ってきて、浦島太郎になった私。
どうやら私は、日本の進化に戸惑っているというより、
3年間ですっかり、あの「人の近さ」に慣れてしまったらしい。
