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『13番目の、白石』深掘り解説




1.この小説、本当に「何も起きていない」

まず、物語の出来事だけを並べてみます。

  1. 授業中、井上が眠りそうになる

  2. 白石が話しかけてくる

  3. エヴァの話をする

  4. 中学時代の出席番号の話をする

  5. 白石の出席番号が13番だと判明する

  6. 13番になるまでの名字を読み上げる

  7. 大橋が変なことを言ってくる

  8. 白石がエヴァのセリフを言う

  9. 川端康成の話になる

  10. 最後は生徒指導室にいる

これだけです。

普通なら、

「で、何が起きたの?」

となります。

主人公が敵と戦うわけでもない。

恋が大きく進展するわけでもない。

誰かが秘密を告白するわけでもない。

それなのに読んでいると、妙に楽しい。

ここが、この作品の一番重要なところです。


2.「事件」ではなく「会話」が物語になっている

普通の小説では、

事件 → 登場人物が行動する → 問題が解決する

という流れがあります。

この作品は違います。

会話 → 変なことを言う → ツッコむ → さらに変な方向へ行く → またツッコむ

という流れです。

つまり、この小説のエンジンはストーリーではなく会話です。

たとえば、

「白石は三番?」

と聞いたら、

「いいえ、僕は……十三番です。」

となる。

「え? なんで?」

と読者も思います。

そこで名字を一つずつ確認していく。

これはミステリーみたいに見えますが、実際には大した謎ではありません。

どうでもいい謎を、ミステリーのように扱っている。

このズレが笑いになります。


3.白石というキャラクターが異常に重要

この作品では、白石が単なる「面白い友達」ではありません。

白石には、かなり特徴があります。

白石の特徴

  • 人の話を細かく覚えている

  • 言葉に敏感

  • 妙なことを真剣に考える

  • 話題を突然変える

  • 文学とアニメを同じレベルで扱う

  • 基本的に落ち着いている

  • 相手が困っていてもあまり気にしない

つまり白石は、

「普通の人なら流してしまうものを、いちいち拾う人」

なんです。

井上が、

「そんなことどうでもいいだろ」

と思うことを、白石は、

「いや、面白いじゃないですか」

と拾っていく。

これが物語を動かします。


4.井上は「普通の人」だから面白い

白石だけだったら、ただの変人小説になります。

そこで重要なのが井上です。

井上は読者と同じように、

「はあ?」

「何でだよ。」

「どういうこと?」

「お前……何?」

と反応します。

つまり井上は、読者の代わりにツッコミを入れる役割をしています。

たとえば白石が、

「十三番です。」

と言った瞬間、

井上は、

「はあ?」

となる。

読者も、

「はあ?」

です。

この一致があるから、読者は井上と一緒になって白石を見られる。

これを物語の構造として見ると、

白石=世界を変な方向へ曲げる人物

井上=その世界を読者に説明する人物

になっています。


5.実は「名前」がものすごく重要

この小説では、名字が何度も出てきます。

佐伯
三枝

笹原
真田
志賀
志田
斯波
嶋田
下野
白石

一見すると、ただの出席番号確認です。

でも、声に出して読んでみると面白い。

特に、

志賀・志田・斯波

と続くところ。

漢字は違いますが、音としては、

「シガ・シダ・シバ」

と似ています。

作者はここで、名字の意味より「音」を楽しんでいる

だから井上が、

「シガ、シダ、シバ」

という響きにやられてしまう。

これは言葉遊びです。


6.「名字→アニメ→文学」という飛び方が面白い

この作品の会話は、普通ならつながらないものをつなげます。

たとえば、

出席番号

名字

アスカのセリフ

川端康成

という具合です。

普通の会話なら、

「なんで川端康成が出てくるんだよ!」

となります。

もちろん井上もそう思っています。

しかし白石の頭の中では、

言葉の響きが似ている

というだけで、次の話題につながってしまう。

ここが白石の「思考回路」の面白さです。


7.「あんた、バカァ?」には二重の意味がある

ここは少し深掘りできます。

白石が、

「あんた、バカァ?」

と言います。

これは井上にとっては、

「アスカのセリフじゃん」

です。

ところが、その直前まで白石は、名字の音や文学作品について妙なことを言っています。

だからこのセリフは、

アスカの物まね

であると同時に、

「お前のほうがバカじゃない?」というツッコミ

にも見えます。

つまり白石は、アスカのセリフを借りて井上を攻撃している。

ところが井上も、

「なんで俺がバカなんだよ!」

となる。

ここでも会話が一段ずれています。


8.エヴァは単なる元ネタではない

エヴァの話も、ただ「作者がエヴァ好きだから入れた」というだけではありません。

エヴァには、

  • アスカ

  • ゲンドウ

  • 惣流

  • 式波

など、特徴的な人物名や言葉があります。

白石はそこを利用して、

「惣流さんなら構いませんが、式波さんだと困ります」

などと言う。

これも普通なら、

「何の話だよ」

です。

しかし井上はエヴァを知っている。

だから白石の変な話についていけてしまう。

つまり共通の知識があるから、二人の会話が成立しているんです。


9.この作品は「オタク的な知識の使い方」も面白い

ここでいう「オタク」は悪い意味ではありません。

白石は、

アニメ、文学、名字、言葉の響き

を全部同じように楽しんでいます。

普通の人なら、

「これは文学」

「これはアニメ」

「これは学校の話」

とジャンルを分けます。

でも白石は分けない。

だから、

エヴァ → 川端康成

という、とんでもないジャンプが起きる。

この「知識を横断する思考」が、白石という人物を特徴づけています。


10.そして「大橋」が入ってくる

ここも重要です。

白石だけでも変なのに、そこへ大橋が入ってきます。

大橋は白石とは違います。

白石は、

知的で、静かで、変。

大橋は、

雑で、うるさくて、変。

つまり二種類の「変な人」がいます。

井上はその間に挟まれている。

だから井上にとっては、

右から白石、左から大橋

という地獄のような状態になります。

この三人の配置だけで笑えるんです。


11.文章そのものにもギャグが仕込まれている

この作品はセリフだけではありません。

地の文にもツッコミがあります。

たとえば、

「カステラか……?
カステラなのか……?」

という部分。

「遠藤一番、齋藤二番」という話から、なぜかカステラを連想しています。

読者からすると、

「なんでカステラ?」

です。

でも、その理由を完全には説明しません。

ここがポイントです。

作者は読者に、

「意味を理解しろ」

ではなく、

「この変な連想そのものを楽しんで」

と言っている。


12.「説明しすぎない」ことも面白さになっている

この作品には、

「これはこういう意味です」

という説明があまりありません。

たとえば、

「根川貝殻坂橋を超えると、そこは異世界なのか……?」

という表現。

読者は、

「何それ?」

となります。

でも、そこで詳しい設定説明をしない。

そのため、

井上の頭の中で勝手に変な世界が広がっている

感じがします。

全部を説明すると、逆に面白くなくなります。

「意味がわからないけど、なんか面白い」

という余白が残っているんです。


13.最後の生徒指導室は「オチ」だけではない

最後、

「俺は今、生徒指導室にいる。」

となります。

ここまで読んできた読者は、

「そりゃそうなるだろ!」

と思います。

授業中にこんな会話をしていれば、怒られて当然です。

でも、面白いのはその後です。

それまでの教室には、

朝の光

がありました。

最後の生徒指導室には、

陽が差し込まない。

つまり舞台の雰囲気が、

明るい教室 → 暗い生徒指導室

へ変わります。

ギャグ小説なのに、最後だけ少し文学的になる。

この落差が効いています。


14.実は「夏」が作品全体を包んでいる

冒頭には、

夏の教室

があります。

エアコンからは、

湿気た黴臭い風

が吹く。

そして最後も、

暑苦しい蛍光灯

や、

黴臭い風

が出てきます。

つまり、この作品はずっと、

暑い・湿っている・眠い・だるい

という感覚に包まれています。

その中で高校生たちが、どうでもいい話をしている。

だからこそ、ものすごく「夏休み前の学校」っぽい。


15.タイトルの「、」も面白い

タイトルは、

「13番目の、白石」

です。

「13番目の白石」でも意味は通ります。

なのに、

「13番目の、白石」

と読点が入っている。

この「、」によって、

「13番目」

「白石」

が少し切り離されます。

まるで、

「13番目」という謎の存在があって、その正体が白石だった

ような感じがする。

内容を知ってからタイトルを見ると、

「なるほど、白石は13番だったのか」

となる。

でも同時に、

「なぜわざわざ13番目をタイトルにするほどのことなんだ?」

とも思う。

その大げささ自体が、この作品のギャグになっています。


16.では、この作品の「本当のテーマ」は何なのか?

ここは少し難しいところです。

作者が明確なテーマを設定しているとは限りません。

むしろ習作として、

「朝、突然降ってきた会話を勢いで書いた」

という作品です。

だから、

「この作品のテーマは○○です」

と決めつける必要はありません。

ただ、読めば感じられるものがあります。

それは、

「高校生の日常は、本人たちにとってはくだらなくて、くだらないからこそ面白い」

ということです。

大人になったら、

「出席番号が何番だった」

なんて、人生を左右する問題ではありません。

でも高校生のその瞬間には、

「俺、ずっと二番だったんだよ」

という話だけで盛り上がれる。

そこへ友達が、

「僕は13番です」

と入ってくる。

さらに別の友達が、

「今日のおかずは何だ?」

と乱入する。

こういう意味のない時間こそ、青春の一部なんです。


17.知りたがりが読むなら、ここを見てほしい

この小説を「何が面白いのかわからない」で終わらせないためには、次の5点を見るといいです。

① 「何が起きたか」ではなく「会話がどうズレたか」を見る

話題が、

エヴァ → 出席番号 → 名字 → 音 → アニメ → 文学

と変化します。

このズレが笑いです。

② 白石の頭の中を想像する

「なんで今それを思いついたんだ?」

と考えると、白石というキャラクターが見えてきます。

③ 井上のツッコミに注目する

井上は読者の代わりです。

井上が「はあ?」と言ったら、

「自分も同じことを思った」

と考えていい。

④ 言葉の音を楽しむ

「志賀・志田・斯波」のように、意味だけでなくを聞いてみる。

この作品は、声に出すとさらに面白くなるタイプです。

⑤ 最後の雰囲気の変化を見る

前半はくだらない青春コメディ。

最後は少し寂しくて、湿っぽい。

この変化を見ると、単なるギャグではなく、「ある夏の学校生活の一場面」として読めます。


最後に、一番簡単に言うと

この小説は、

「普通なら忘れてしまうような、授業中のくだらない会話を、一つの青春物語にしている小説」

です。

白石は、普通の人なら見逃すような、

名前・音・言葉・アニメ・文学

を拾っていく。

井上は、

「いや、それ何の話だよ」

とツッコむ。

その二人の間に大橋まで入ってきて、話がどんどん脱線する。

だから事件は起きていないのに、読者は退屈しない。

そして最後に生徒指導室へ行くことで、

「ああ、こいつら、本当に授業中に何やってたんだ」

というオチになる。

この作品の魅力は、壮大なストーリーではなく、「どうでもいいことを、ものすごく真剣に面白がる青春」にあります。

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