夏の花火〜消えてしまうから、心に残る〜
夏の夜。
昼間の熱気が少しだけやわらいで、
どこからか虫の声が聞こえはじめる頃。
遠くで、
ドン……
と、低い音が響く。
「あ、花火だ」
そう気づいた瞬間、
なぜだか少しだけ足を止めてしまう。
花火って、不思議ですよね。
毎年のように見ているはずなのに、
夜空に大きな花が咲くたび、
「おぉ……」
なんて声が出てしまう。
そしてその横で、
誰かが笑っている。
子どもの頃は、
花火そのものが楽しみだった。
まだ明るいうちから落ち着かなくて、
夕飯を急いで食べて。
少しずつ暗くなっていく空を見ながら、
「まだ?」
「もう始まる?」
そんなことを何度も聞いていた。
花火が始まれば、
大きな音に驚きながらも夢中で空を見上げた。
赤。
青。
緑。
金色。
夜空いっぱいに広がって、
ほんの数秒で消えていく。
次から次へと打ち上がるから、
消えてしまった一発のことなんて、
子どもの頃は気にも留めなかった。
でも、大人になってから見る花火は、
少し違う。
花火そのものよりも、
その周りにあるものまで見えるようになった。
隣で空を見上げている家族。
楽しそうにはしゃぐ子どもの声。
少し離れたところから聞こえる笑い声。
夜店から漂ってくる甘い匂い。
汗ばんだ肌を撫でていく、
ほんの少しだけ涼しい夏の風。
そして、
「今年も夏が来たんだな」
と思う。
同時に、
「今年の夏も、いつか終わるんだな」
とも思う。
子どもの頃、
夏は永遠に続くような気がしていた。
長い長い夏休み。
朝から聞こえる蝉の声。
冷たい麦茶。
夕立。
蚊取り線香の匂い。
川遊び。
夕焼け。
そして、花火。
けれど大人になると、
夏は驚くほど早く過ぎていく。
気づけば八月になり、
気づけばお盆が過ぎ、
「あれ?」
と思った頃には、
夕方の風に秋の気配が混じっている。
だからでしょうか。
大人になってからの花火には、
どこか寂しさがある。
ドン……
夜空いっぱいに咲いた大輪の花。
誰もが空を見上げる。
そして数秒後には、
跡形もなく消えてしまう。
あんなに大きく、
あんなに美しく咲いたのに。
残るのは、
薄い煙だけ。
でも。
本当に何も残っていないのでしょうか。
子どもの頃に家族と見た花火。
友達と自転車を走らせて見に行った花火。
好きな人の隣で、
少し緊張しながら見上げた花火。
そしていつか、
自分の子どもと見る花火。
同じ花火なんて、
ひとつもありません。
同じ夏だって、
二度とやってこない。
きっと人生も、
そんなものなのかもしれません。
楽しかった一日も。
大切な人と過ごした時間も。
何でもない夕飯も。
くだらないことで笑った夜も。
その瞬間には、
それがどれほど大切な時間なのか、
なかなか気づけない。
永遠に続きそうな気がしてしまう。
けれど時間は、
花火よりずっと静かに消えていく。
だからこそ。
今日、隣にいる人と笑えること。
「きれいだね」と言えること。
同じ夜空を見上げられること。
それだけで、
本当はものすごく幸せなことなのかもしれません。
花火大会が終わる頃。
さっきまで賑やかだった夜空が、
急に静かになる。
最後の一発の煙だけが、
ゆっくりと風に流れていく。
「終わっちゃったね」
子どもの頃、
その言葉が嫌いでした。
楽しい時間が終わってしまうのが、
ただただ寂しかったから。
でも今なら、
「終わっちゃったね」
と言えることも、
幸せなのだと思います。
一緒に始まりを待った人がいて。
一緒に空を見上げた人がいて。
一緒に終わりを惜しめる人がいる。
それはきっと、
当たり前なんかじゃない。
今年の夏も、
いつか思い出になります。
今日見た花火も、
いつか記憶の奥へしまわれていくでしょう。
それでも何年か経った夏の夜。
遠くから、
ドン……
という音が聞こえたとき。
ふいに、
今日のことを思い出すかもしれません。
あのとき隣にいた人の顔。
笑い声。
夏の匂い。
夜風の温度。
そして、
「楽しかったな」
と。
それでいいのだと思います。
花火は、
消えるから美しいのではなく、
消えたあとにも、心の中で咲き続けるから美しい。
今年の夏も、
もう少ししたら過ぎていきます。
急がなくてもいい。
特別なことをしなくてもいい。
ただ、大切な人と同じ空を見上げてみてください。
そこに花火がなくても、
きっといつか思い出す夜になります。
そしてもし、
夜空に大きな花火が咲いたなら。
スマホを少しだけ下ろして、
自分の目で見てみるのもいいかもしれません。
その数秒は、
写真には残らなくても、
きっと心のどこかに、
ずっと残ります。
ドン……
今年もまた、
夏の夜空に花が咲く。
消えてしまうその光を見ながら、
私たちはきっと、
過ぎていく夏と、
今ここにある幸せを、
そっと心に焼きつけているのです。
🌻 読んでくださったあなたへ
あなたの心に残っている「夏の花火」はありますか?
家族と見た花火。
友達と見た花火。
大切な人と見た花火。
あるいは、
ひとり静かに見上げた花火。
よかったらコメントで、
あなたの夏の思い出を聞かせてください。
誰かの思い出を読むことで、
忘れていた自分の夏が、
ふっと蘇ることもありますから。
今年の夏も、
あなたの心に小さな花火が残りますように。🎆
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