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豪州ラグビー「黄金の10年」と「再編」の現実

2027年、2003年大会以来24年ぶりラグビーワールドカップが、オーストラリアの地へ戻ってきます。

4年に一度世界中のラグビーファンが注目する一大イベントですが、オーストラリアラグビー協会は、この大会を単なる一度きりのビッグイベントとは見ていません。2025年のブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ来訪、2027年男子ワールドカップ、2029年女子ワールドカップ、そして2032年ブリスベン五輪へと続く期間を、豪州ラグビーにとっての「Golden Decade(黄金の10年)」と位置づけています。

豪州ラグビーは今再浮上の物語を描こうとしています。

実際にライオンズツアーは4万人を超える遠征ファンの来豪もあり、事前の収益予測を約40%上回る結果となり、2024年の3,680万豪ドルの赤字から一転し、2025年度は過去最高となる7060万豪ドル(約70億円前後)の営業黒字を計上したことを発表しました。

そして、ライオンズツアーやワールドカップのような不定期の大型イベント頼みの財政からの脱却を狙っており、この莫大な商業的成功によって得た資金をベースに、オーストラリアは今後開催される2027年の男子ワールドカップ、2029年の女子ワールドカップに向けた将来投資ファンドを設立し、ラグビー界の長期的な安定を目指す戦略へと舵を切っています。

しかし、全てが順調に進んでいるわけではありません。

2026年のスーパーラグビー・パシフィックでも、豪州勢はニュージーランド勢との差を埋めきれませんでした。決勝トーナメントに進んだブランビーズは、準々決勝でハリケーンズに12-66と大敗しました。これは豪州チームによるスーパーラグビー決勝トーナメント史上最大の敗戦と報じられ、レッズもチーフスに24-46で敗れました。公式サイトはこの結果により、豪州勢のニュージーランドでのプレーオフ連敗が0勝22敗に伸びています。

今年、オーストラリア国内で行われた全試合の平均観客数は1万1140人に落ち込んだとされており、豪州ラグビーは2027年W杯へ向けて「再建」を語れる位置にいる一方で、国内プロチームの競技力、財務基盤、組織構造にはなお深い問題を抱えています。

その中で最も深く課題を露呈したのが、2024年に姿を消した「メルボルン・レベルズ」の消滅劇です。

そして、これは単なる一クラブの経営破綻では終わりませんでした。旧レベルズ側はラグビー・オーストラリア協会(以下RA)を相手取り、約30億円(3000万豪ドル)超の損害賠償などを求めて連邦裁判所に提訴しました。

さらに2026年5月に始まった審理では、RAが2023年に「Winning Rugby」と呼ばれる再編構想を進め、ワラターズ、レッズ、ブランビーズといった豪州ラグビーの伝統的中心地を優先したのではないか、という主張も表に出てきました。

2027年W杯を前に、RAは何を守り、何を諦めようとしているのか。

レベルズ消滅訴訟が浮かび上がらせているのは、豪州ラグビー再建という明るい看板の裏側で進んでいた、クラブ再編と資源配分の現実でした。

・レベルズ消滅の出発点にあった財務問題

レベルズには、確かに深刻な財務問題がありました。

Rugby Australiaは2024年1月、レベルズが任意管理に入った後も、2024年シーズンについては男子・女子チームの出場を支援すると発表しました。

任意管理とは、資金繰りに行き詰まった会社に外部の専門家が入り、再建できるのか、売却するのか、清算するのかを判断する手続きです。つまり、この時点でレベルズは通常の経営状態ではありませんでした。

それでもRAは、クラブをその場で競技から排除するのではなく、任意管理人と協力して2024年シーズンを最後まで成立させる方針を取りました。ただし、それは2025年以降の存続を保証するものではなく、RAはメルボルンで持続可能なプロラグビーの形を検討すると述べるにとどめていました。

そして、同年5月、RAはレベルズに対しスーパーラグビー・パシフィックの2025年以降の参加申請を却下しました。理由は、申請が十分な財務的持続可能性を示していない、というものでした。

RAの公式説明によれば、レベルズを運営していたMelbourne Rebels Rugby Unionは、任意管理入り前に約2300万豪ドル(約23億円)の債務を抱えていました。さらに管理人は、同社が2018年12月31日以降、支払不能状態で取引していた可能性も指摘しています。

レベルズは2011年の創設以来、RAからの通常のクラブ助成に加え、相当な追加投資を受けてもなお、独立した財務持続性を示せていなかったとされています。任意管理者が挙げた財務問題の理由も、長年の営業損失、代替資金源の不足、収益規模に比べて過大なコスト構造、会員収入・スポンサー収入・試合日収入などRA以外からの収益不足でした。

したがって、レベルズを一方的な被害者として描くことはできません。

しかし問題は、同じ時期にRAが他クラブについては別の対応をしていたということです。

2023年11月、RAはNSW ワラターズとの中央集権化合意を発表しました。この合意により、ワラターズのハイパフォーマンス運営、資産、負債、商業契約などはRAが担う形へ移行しました。NSW Rugby Union側は、豪州プロラグビーの連邦型モデルは持続不能であり、改革は長く必要とされていたと説明しました。

そして、さらに2024年7月、RAはACT ブランビーズについても統合運営モデルを発表しました。ブランビーズのプロラグビー運営と関連事業資産は、RAが所有・管理する新会社へ移されることになりました。RAはこれを、豪州ラグビーの「戦略的リセット」と「財務安定化」の一部と位置づけました。

つまり、RAが2023年後半から2024年にかけて、プロクラブ運営の中央集権化へ進んでいたにも関わらず、レベルズは統合されなかったという事実。

RA側の説明は、一貫して「財務的持続可能性」です。レベルズの2025年参加申請について、RAは将来の収入増加やコスト削減の見通しが楽観的であり、新しい拠点構想、所有構造、過去の債務問題をどう解決するのかについても十分な資料が示されなかったと説明しています。

RAから見れば、ワラターズとブランビーズは、中央集権化によって再建可能な対象であったが、レベルズは、負債規模と収益構造から見てそうではなかったという論理です。

しかし、この線引きに対して、レベルズ側は強く異議を唱えました。それが前述したRAの「Winning Rugby」と呼ばれる内部戦略文書です。

・「Winning Rugby」とは何か

「Winning Rugby」については、今回の訴訟で提出された裁判書類に含まれていますが、正式に公開されたものではありません。

しかし、あくまで報道によれば、この文書は2023年7月にRA理事会へ提出されたもので、目的はワラビーズの強化にあったとされており、レベルズ側の主張では、スーパーラグビーの全チームを同じように扱うのではなく、豪州の有力選手を限られた強いチームへ集中させる考え方が示されていたとされています。

代表強化に必要な場所へ、人材と資源を寄せる。そのために、スーパーラグビー各チームの役割を明確に変える。

つまり、これは運営改善だけに留まらず、豪州プロラグビーの設計思想そのものを変える案だった、ということになります。

ESPNの記事によれば、「Winning Rugby」は正式に実行された計画ではないものの、レベルズ側は、RAがワラターズ、レッズ、ブランビーズという三つの主要市場を優遇し、フォースとレベルズを開発的な位置づけに置こうとしていた証拠だと主張しています。

構想上、ワラターズとレッズは最重要市場として扱われていたとされます。ニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州は、選手供給とファン基盤の両面で豪州ラグビーの中核だからです。

ブランビーズは、すでに強い育成・発掘機能を持つハイパフォーマンスクラブとして位置づけられていたとされます。

一方、フォースには、海外選手を多く獲得できるよう、より高いサラリーキャップを与える案があったとされています。国内人材の中心というより、別の形で競争力を持たせる位置づけです。

そしてレベルズについては、モアナ・パシフィカとの合併案が示されていたとされており、狙いは、メルボルンのパシフィカ系コミュニティを取り込み、ビクトリア州で独自性を出すことだったとされています。

つまり、レベルズ側は単独の中核チームとしては扱われず、不当な扱いを受けたと主張している訳です。

そして、レベルズ側は、RAが2023年5月以降、レベルズの財政危機を把握していたと主張しています。そのうえで、資金支援や今後の財政方針に関する情報をワラターズやブランビーズには共有した一方で、レベルズには十分共有しなかった、とも訴えています。つまり、知らされていなかった。

その象徴として報じられているのが、2023年11月にフィル・ウォーCEOがビクトリア州でのレベルズの役割を称賛し、会長ポール・ドハティ氏を抱きしめた場面です。これは、レベルズが任意管理に入る約2か月前の出来事でした。レベルズ側から見れば、表では支援しているように見せながら、裏ではクラブの役割を縮小する構想を持っていたという事になります。

しかし、RA側はこの見方を強く否定しています。

RA側代理人のトニー・バノン弁護士は、2026年5月に行われた連邦裁判所での冒頭陳述で、「Winning Rugby」はレベルズ取締役たちに秘匿されていた計画ではなかったと主張しました。むしろ、レベルズ側もその内容を把握しており、モアナ・パシフィカとの統合案、すなわち「Melbourne Pasifika Rebels」構想を支持していた、というのがRA側の反論です。

RA側は、2023年12月13日のレベルズ取締役会議事録を根拠として示しました。バノン弁護士によれば、その会議でレベルズ取締役会は、モアナ・パシフィカを通じてレベルズを再編するプロセス、つまり「Melbourne Pasifika Rebels」構想を加速するようRAへ求める決議をしていたとされます。

これはRA側から見れば、「レベルズは計画を知らなかった」のではなく、「知っていたうえで受け入れ、むしろ加速を求めていた」ことを示す証拠になります。

さらに法廷では、2025年ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズツアーの試合予定表も示されました。その中には、ライオンズと「Rebels Pasifika」との試合が含まれていたとされ、RA側は、当時のレベルズ会長ポール・ドハティ氏がその予定を把握していたと主張しています。クラブ崩壊後、この試合は日程から消えました。

この反論が認められれば、レベルズ側の「知らされないまま切り捨てられた」という主張は大きく弱まります。

さらにRA側は、この訴訟の本質は「再編構想」ではなく、レベルズ取締役たちの税務債務と経営責任にあると主張しています。

バノン弁護士は、レベルズ側の訴えを「RAが彼ら自身の財務上の失敗から救うべきだった、という主張だ」と位置づけました。特に、選手やスタッフの給与から源泉徴収された税金を税務当局へ納付する義務は、どの雇用主にも課される基本的な義務であり、経験ある実業家で構成されていたレベルズ取締役会が理解していなかったとは言えない、というのがRA側の主張です。

またRA側は、コロナ禍で各クラブへの資金が年間170万豪ドル削減されたことがレベルズ破綻の原因だった、という主張にも反論しています。バノン弁護士は、数百万豪ドル程度の追加資金ではレベルズを救うことはできなかったと述べ、むしろRAがレベルズの全債務を引き受けることこそ、RA取締役としての義務違反になりえたと主張しました。

整理すると、つまりレベルズ側は、RAが「Winning Rugby」によって独断で自分たちを中核構想から外し、ワラターズやブランビーズを優先したと主張し、一方のRA側は、レベルズ側はその再編案を知っており、むしろモアナ・パシフィカとの統合案を受け入れていたと反論し、クラブの破綻はRAの不公平な扱いではなく、レベルズ取締役たち自身の経営責任、特に税務債務を含む財務管理の失敗によるものだと主張しているという事になります。

・法廷で露出したのは、レベルズだけの問題ではなかった

さらに、この訴訟の複雑性を増しているのが、争点がレベルズ単独の破綻にとどまらないことです。

2026年5月の審理では、RAのフィル・ウォーCEOも証言台に立ちました。報道によれば、ウォー氏は反対尋問の中で「記憶にない」という趣旨の答弁を繰り返し、RA内部の意思決定過程が厳しく問われる場面がありました。

特に注目されたのが、当時RAの非常勤理事だったダニエル・ハーバート氏のWhatsAppメッセージです。報道によれば、ハーバート氏はレベルズとそして、ブランビーズの債務についても、RAが引き受けるべきではなく「破綻するなら破綻させればいい」という趣旨のメッセージを送っていたとされます。

ウォーCEOは、その返信として表示された“サムズアップ”が自分のものだったか明確には記憶していないとし、仮に自分の反応だったとしても、それは内容への同意ではなく受信確認の意味だった可能性があると説明しています。

つまり、この訴訟で見えてくるのは、スーパーラグビー・パシフィックという大会そのものが、豪州側にとって重い負担になっている可能性です。

・崩れ去った「全域展開」の夢

この問題の本質は、少なからず、現時点で豪州ラグビーが全域展開を続ける体力を失っている可能性が高いという点にあります。

レベルズはメルボルン(オーストラリア南東部)
フォースは西オーストラリア州パース(オーストラリア西部)
ワラターズはニューサウスウェールズ州シドニー(オーストラリア東部)
レッズはクイーンズランド州ブリスベン(オーストラリア北東部)
ブランビーズはACT(首都特別地域・オーストラリア南東部)

しかし、競技人口、観客動員、放映価値、代表強化、財政の現実を考えると、RAは「全地域を平等に支えるモデル」から「代表強化に直結する中核市場へ集中するモデル」へ傾いているという現実。

2027年W杯は、確かに豪州ラグビー再建へ向けた第2のステップになります。しかし、その舞台の裏側には、すでに消えたクラブがあります。

「黄金の10年」の為の痛みともとれるかも知れません。しかし、本当にそれが上手くいくのか、そしてそれは本当に持続可能なのか。

RAは「再編」という難しい現実の舵取りを迫られています。

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