キャリアは「足し算」ではなく「書き換え」。認知心理学(ABC理論)で解き明かす、AIに負けないミドルの強み【後編】
前編では、次男の国語のプリントをきっかけに、AIと「正解の先を考える力」について考えたことを書きました。
ちなみに、後日、次男のもらってきた模範解答は、ChatGPTと同じ答えでした。
小学生の解答としては、それで十分ということでしょう。
これは、子どもの教育だけの話ではなく、私たち大人のキャリアにも、そのまま当てはまるのではないでしょうか?
■AI時代、大人のキャリアで大切になる視点
AIの進化によって、仕事のやり方は激変しています。
資料作成、情報の要約・整理、アイデア出し……こうした作業の多くは、AIが手伝ってくれるようになりました。
だからこそ、これからのキャリアで問われるのは「私は何ができますか?」というスキルの提示だけではありません。
「自分は何に気づける人間なのか?」
「何を面白いと感じるのか?」
「どんな『問い』を持っているのか?」
こうした「自分独自の視点」を持てるかどうかが、特に40代・50代からのセカンドキャリアで重要になってくると思います。
■「キャリアは経験の足し算」という思い込みを、アルバート・エリス流に疑う
40代、50代になると、「今さら新しいことを始めても……」と躊躇してしまうことがありませんか?
それは、これまでの経験を単なる「過去の記録」と捉え、それをただ積み上げるだけのキャリア設計しか描けていないからです。
ここで、認知心理学の先駆者であるアルバート・エリスのアプローチ(ABC理論)の考え方を紹介します。
彼の理論では、次のように考えます。
A(Activating event:出来事): 過去の経験や事実(例:1つの現場を守ってきた)
⬇️
B(Belief:信念・解釈): その出来事に対する自分の「解釈」(例:だから私は専門外のことはできない)
⬇️
C(Consequence:結果): 感情や行動(例:再挑戦への諦め、現状維持)
多くの大人は、過去の「A(出来事)」が自動的に「C(結果)」を導いていると考えがちです。しかしエリスは、その結果を左右するのは、出来事に対する自分自身の「B(解釈)」であると説きました。
セカンドキャリアにおいて重要なのは、「A(出来事=経験)」そのものではなく、その経験に対する自分自身の「B(解釈=信念)」を疑い、柔軟に書き換えていく(B→『D(Dispute:議論・書き換え)』)力ではないでしょうか?
一見、関係のない経験同士を組み合わせたり、全く異なる視点から自分の仕事を見直してみたりする。
それは、まさにこの「解釈(B)」を修正するプロセスです。
この「思考の転換」こそが、「自分にとっては当たり前だったこと」を、誰かにとっての大きな価値に創造していく第一歩になります。
■あなたの「経験」を職歴から「資源」に変える
エリス流の視点で見直せば、あなたの経験は変わります。
子育てをしてきた → (ただの年数) → 「異なる世代へのコーチングや、マルチタスク管理の達人」
管理職として人を育ててきた → (過去の役職) → 「多様な個性を共通目標に導くファシリテーター」
長年、一つの現場を守ってきた → (専門外への不安) → 「現場の細部まで見通す観察眼と持続力」
これらは、ただ並べるだけなら単なる「職歴」です。
しかし、「解釈」を変え、「そこで何を感じ、何を学び、どんな視点を身につけたのか」まで掘り下げて組み合わせることで、次のキャリアにつながる自分だけの貴重な「資源」に生まれ変わります。
私たちは、起きた「出来事そのもの」を自由に選べないことがあります。
でも「どう意味づけるか」というBの部分には、自分で考える余地があります。
もちろん、なんでも前向きに考えればいいという単純な話ではありません。
現実的な不安や課題は、きちんと考える必要があります。
ただ、「出来事=未来が決まる」わけではない。
この視点が、セカンドキャリアを考えるうえで大きなヒントになると思います。
AIに勝つのではなく、「相棒」にして思考を広げる
今回、ChatGPTと答え合わせをして思ったのは 「AIに勝とうとしなくてよい」ということです。
AIに考えてもらった答えを「材料」にして、一つの出来事を別の角度から見直すこと。
そうすれば、AIは思考を奪う敵ではなく、使い方次第で私たちの発想を広げてくれる「最高の相棒」になるのではないでしょうか?
「AIならどう考える?」と聞いてみる。 その答えに対して、「じゃあ、自分はどう考える?」と問い返す。
この心地よい往復こそが、AI時代の新しい学びであり、大人のキャリア開発のヒントだと感じます。
■「すでにあるもの」を、新しい角度から再定義する力
論理的に考え、事実を整理する。
その先に、「で、自分はどう考える?」という視点を置いてみる。
そして、その「視点」を生み出す元となる「過去の経験に対する解釈(B)」を、自ら柔軟に書き換えていく。
AI時代に人間が最も大切にしたい「創造力」とは、完全なゼロから何かを生み出すことではありません。
「すでにある経験(A)に対する『解釈(B)』を修正し、全く新しい角度から価値として再定義(Re-definition)する力」なのです。
夏休みの終わり。 次男の一枚のプリントから始まった、親子とAIの小さな実験。
「答えのない問い」を面白がり、自らの「解釈」を疑いながら、その先を考えていくワクワク感を、子どもと一緒に、そして自分のこれからのキャリアでも楽しんでいけるといいですね。
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