作品に見つめられた日
以前、ニューヨークの道でバナナの皮で滑って転んだ話をした。十七年くらい前の話。ブライアントパークの、紀伊國屋書店のそばだった。
おしゃれなニューヨークについては、他の人が書いてるから私は書かない。いや、どういうわけかおしゃれなネタがないので書けない。
おしゃれなネタというと……なんだろ、マンハッタンにあるデパートのメーシーズの古いエスカレーターが好きだった、とか? あそこのエスカレーター、もはや文化財。いつもどっかしら壊れてて、修理中なのよね。あと、ブルックリンにある服屋さんのエレベーターは手回し式で、乗りたい時は店員さんを捕まえてレバーみたいの回してもらう必要があった、とか。ブルックリンといえば、地下鉄遺構ツアーに参加したこともあったな。道路の真ん中から梯子で降りるの。あのツアー、もうなくなっちゃったけど。
ね? 見事におしゃれ感ないでしょ?
ニューヨークで見た、裸の話をする。たしか、2010年にMOMAで開催された、マリーナアブラモヴィッチ回顧展だと思われるのだけど、ヌードパフォーマーがたくさん出る、裸の展覧会だったのよね。全裸の男性や女性が展示されてた。
目玉展示は、微動だにしない裸の男女の間を観客が通り抜けるというやつ。あんまり、記憶にないけどかなり距離が近いのよね。スレスレで気まずかったわ。
詳細はよく覚えていないけど、横たわる裸の男性の展示があったの。
男性は目を瞑ってたし、あまり人がいないところだったのでまじまじと、見てた。美術館というのは見る場所だし、作品というのは見るものだよな、って思ってた。
それでしばらく見てたら、その男性がカッと目を開けて、こちらを見たのよね。無表情だったけど、しっかり私を見てた。
腰を抜かすかと思った。
じろじろ見てごめんね。
美術館で作品から見られるって体験は、とても新鮮だったわ。
随分後になって、ヌードパフォーマーさんの一人が、MOMA側を訴えたとしった。どうしたって触ったりする人がいて、辛かったんだろうね。
ダンスとか演劇や芸を披露するのではなくて、芸術作品とはいえ、モノとして展示される経験は、心に傷を残すのかな。
※やはりおしゃれには程遠かったニューヨークの昔話
