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#005|第1部:力と運動|路面がクルマを押している——作用・反作用の法則(ニュートンの第三法則)


#001の2枚目の図を覚えていますか。「あれれ、逆じゃない? タイヤは後ろに蹴ってるよね」と思った方、いるかもしれません。今日はその矢印の正体を、ジムカーナのスタートを舞台に解いていきます。


静かすぎるスタート

ジムカーナのスタートは、停止した状態から始まります。実際にタイムが計測されるのは数m先の計測ラインからですが、そこに至るまでの0km/hからの数mが、実は勝敗に大きく影響します。

現場でよく言われる理想のスタートは、「駆動輪がザッザッザッと3回くらいスティックスリップする」というものです。逆に「ザザザザーーーッ」と盛大にホイールスピンさせるスタートは、体感的には威勢がいいのに、タイムは出ません。これは感覚論ではなく、実際にテストで検証済みの結果です。

YouTubeなどで全日本ジムカーナのスタートをご覧ください。傍から見ると驚くほど地味です。ドライバーはアクセルワーク、クラッチワーク、エンジン回転を、その日の路面温度や勾配、タイヤ温度まで含めて微調整します。以前、この感覚を弓道に例えたことがあります(動画は記事の最後に貼っておきます)。的を狙うより先に、姿勢と呼吸を整える。あの静けさに近いものが、スタートラインにもあります。


クルマが地面を蹴っている、地球がクルマを押している

ここで、#001の図を見てみよう。タイヤは地面を後ろに蹴っている。なのに、なぜクルマは前に進むのか。

答えは、ニュートンの第三法則、作用・反作用の法則にある。

ニュートンの第三法則(作用・反作用の法則):
物体Aが物体Bに力を及ぼすとき、
物体Bも物体Aに、大きさが等しく向きが逆の力を及ぼす。

・タイヤが地面を後ろに押す力(作用)
・地面がタイヤを前に押し返す力(反作用)

作用と反作用は、常に同時に、同じ大きさで発生する。

タイヤが地面を後ろに押す力(作用)を出すと、地面はまったく同じ大きさの力を、逆向きにタイヤへ返す(反作用)。この反作用こそが、クルマを前へ押す力の正体だ。

「エンジンがクルマを前に進める」という言葉を聞くことがある。しかし、クルマを押しているのはエンジンではない。エンジンが生み出しているのは、タイヤを回転させるトルクにすぎない。実際に車体を押しているのは、路面なのである。


その力は無限じゃない

ただし、この反作用には上限がある。タイヤと路面の間で発生できる力は、F_f=μN という関係で決まっている。

F_f = μN

F_f:摩擦力 [N]
μ:摩擦係数(無次元)
N:垂直抗力 [N]

μは摩擦係数、Nはタイヤにかかる垂直方向の荷重だ。Nが小さければ、いくらエンジンが強くても、路面から受け取れる力は頭打ちになる。これが盛大なホイールスピンの状態である。


Nを稼げ、話はそれからだ

この限界をつくづく思い知ったのが、フェアレディZでした。Z34 nismoのV6エンジンは355ps、374Nmを発生します。数字だけ見れば、スタートダッシュの強烈な武器になります。しかし当時のマシンは、軽量化のためにリアトランクからウーハースピーカーや工具を下ろしていて、前後重量配分が本来の53:47から56:44(前830kg・後654kg)となっていました。

駆動輪であるリア軸の荷重、つまりNが減っているということは、そのままグリップの上限が下がるということ。せっかくのV6エンジンが、宝の持ち腐れになりかねない状態でした。

このトルクを武器にするには、とにかくNを増やさなければなりません。そのためにリアに荷重が乗りやすいサスペンションセッティングや車両姿勢を探り、また、ドライバーはそれを使い切る発進操作を駆使しました。すべては、エンジンパワーを路面にきちんと伝えるために。

「ザッザッザッ」という3回のスティックスリップは、限られたNの中で、タイヤが出せる最大の反作用を無駄なく引き出している状態だと言えます。盛大なホイールスピンは、逆にNの上限を超えて空転させているだけで、地面からの反作用を受け取り損ねているのです。


参考:ロケットスタートの極意は、射法八節にあり! モータースポーツと弓道の意外な関係


今回の物理:作用・反作用の法則(ニュートンの第三法則)/F_f = μN
次回:#006|第1部:力と運動|運動量という「勢い」——タイムに直結する力積

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ちゃり@全日本ジムカーナドライバー 物理法則にはタダ乗りできても、 連載はそうもいきません(笑) とはいえ無理は禁物。 気持ちだけでも、十分すぎるほど励みになっています。 気が向いた時、財布に余裕がある時だけで大丈夫です。