建築家の休憩室-10|韓国の屋上と日本の屋根——家のいちばん上に現れる、暮らしの違い
韓国の人気ドラマや演劇を見ていると、ときどき「옥탑방(オクタッパン)」と呼ばれる部屋が登場する。
日本語に直訳すれば「屋上部屋」。建物の屋上に設けられた小さな部屋で、住居として使われている。
一般的な部屋より家賃が安いことが多く、若者が最初に暮らす場所として描かれることも多い。決して広くはない。屋根と壁が外気に直接さらされるため、夏は暑く、冬は寒い。建物によっては断熱や防水の問題もある。
ドラマの中では、そんな옥탑방で若者が夢を語り、恋をし、ときには失敗しながら生きている。
狭くて不便な部屋なのに、扉を開ければ、そこには広い屋上がある。
洗濯物を干したり、植木鉢を並べたり、唐辛子を乾かしたり。小さな椅子を置いて、夜の街を眺めることもできる。部屋は狭くても、空だけは広い。
この옥탑방のある風景は、日本ではあまり見かけない。
もちろん、日本にも陸屋根の建物や屋上のある住宅はある。しかし、一般的な戸建住宅の屋根は、雨や雪を流すための勾配屋根が多く、日常的に人が上がる場所ではない。
日本では、屋根は暮らしを上から守るもの。
韓国では、屋根の上にも暮らしが続いている。
韓国の低層住宅街を眺めていると、屋上は建物の終わりではなく、もうひとつの外部空間として使われていることに気づく。室内に置けないものが運ばれ、季節の食べ物が干され、植物が育てられ、ときには人が休んでいる。
屋上は、空に近い「暮らしの余白」なのかもしれない。
そして、韓国の屋上でよく見かけるものに「평상(ピョンサン)」がある。
평상とは、靴を脱いで座ったり、食事をしたり、ときには横になったりできる、大きな木の台である。옥탑방の前に置かれた평상は、狭い室内を補う屋外の居間のような場所になる。
小さな옥탑방と、空に開かれた평상。
この二つは、どこか切っても切れない関係に見える。평상が一つ置かれるだけで、屋上は建物の余った場所ではなく、人が集まり、休み、時間を過ごす場所へと変わる。
평상については、以前の記事でもう少し詳しく書いている。韓国の屋外に生まれた「もうひとつの床」に興味があれば、こちらもあわせて読んでいただきたい。
▶︎【以前の記事へのリンク】
一方、日本の住宅では、その役割を庭や縁側、ベランダ、物干し場などが受け持ってきた。暮らしの外側をどこにつくるか。その違いが、屋根の形にも現れているように思う。
もちろん、その背景には気候、構造、法規、住宅の成り立ちなど、さまざまな理由がある。
なぜ日本では「屋根」になり、韓国では「屋上」が暮らしの場所になったのか。そこをたどっていけば、もう少し深い話ができそうである。
けれど、ここは建築家の休憩室。今回は家のいちばん上に現れる風景を、少しだけ眺めるところまでにしておこう。
韓国の屋上には、暮らしが少しだけはみ出している。
日本の屋根は、その暮らしを静かに包んでいる。
人が上がる場所と、人が見上げるもの。
同じ建物のいちばん上にありながら、そこには少し違った住文化が広がっている。
次に韓国ドラマで옥탑방が登場したら、物語の背景にも少し目を向けてみてほしい。
主人公たちの後ろには、部屋の中だけには収まりきらなかった、もうひとつの暮らしが広がっている。
そして、屋根と屋上を分けてきた日韓それぞれの建築的な背景については、また次の機会に、ゆっくり考えてみたい。
屋根や屋上だけでなく、床、玄関、窓、部屋の使い方にも、その国ならではの暮らし方が現れる。日本と韓国の住まいの違いについて、もう少し知りたい方はこちらの記事もどうぞ。
▶︎【日本と韓国の住文化についての記事】
韓国の住まいを特徴づけているのは、屋上だけではない。人が集まり、座り、横になる場所を考えるうえで、床を暖める「オンドル」の存在も欠かせない。
▶︎【韓国のオンドルについての記事】
何気ない屋上の風景も、そこで過ごした人にとっては、やがて大切な暮らしの記憶になる。建築と時間、そして記憶の関係について考えている「時間建築論」も、あわせて読んでいただければうれしい。
▶︎【「時間建築論」マガジンはこちら】
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