見出し画像

【スト6環境論】音を奪われた格ゲーマーの話。

はじめに

かつて私が通い詰めたゲーセンには、独特の音楽があった。

両替機のジャラジャラという重低音、他の筐体から入り混じるゲームのBGM、そして何より、プレイヤーたちが弾くアケコンの「カチャカチャ、ターン!」というリズミカルな打鍵音だ。

ネカフェにアケコンを持ち込んでMR1800(アルマス)に到達したあの頃まで、テリーの操作は常に「音」と共にあった。

しかし現在、私の主戦場は家族団欒の場「リビング」である。
「家でのゲーム禁止」という絶対の掟から、奇跡の交渉の末に勝ち取った「1回30分」のプレイ権。

その代償として、騒音対策の「パッド」への強制転向を余儀なくされた。
手元から音が消えた瞬間、アケコン時代に体に染みついていた「操作リズム」は完全に崩壊した。

格ゲーマーにとって「音」を奪われるとはどういうことか。そして、無音の中で、プレイヤーの感覚はどうやって研ぎ澄まされていくのか。

今回は、アケコンからパッドへ移行して起きた「身体のバグ」と、その先の進化について語りたい。

1. アケコンの「打鍵音」という最強の補助輪

格闘ゲームにおいて、コンボの繋ぎや打撃の当て感は「目(視覚)」だけでやっているわけではない。むしろ、古参のアーケードゲーマーほど「音(聴覚)と手元の打鍵音(触覚・聴覚)」に深く依存していると考える。

例えば、テリーの立ち弱Pから始まるコンボ。
アケコン時代、私は画面のモーションを凝視していなかった。「タ・タ・ターン」という、自分の指がボタンを弾くリズムと音で、目押しのタイミングを無意識に計っていたのだ。

アケコンのボタンが底に当たる「カチャッ」という明確なフィードバック。それは、プレイヤーの脳とゲーム内のキャラクターを繋ぐ、最強の「補助輪」であり「メトロノーム」だった。

ネカフェ時代

2. 無音のパッドが狂わせた「脳内リンク」

リビングでの修行が始まり、パッドを握った初日。私は絶望した。

音が、ないのだ。

静音性に優れたパッドのボタンは、押しても「スッ…」と沈み込むだけで、明確なクリック音を返してこない。

手元が静まり返った瞬間、これまで高精度で出せていたはずのテリーのコンボが、面白いようにこぼれ落ちた。波動コマンドすら、入力されたのか感覚が掴めず暴発した。

「自分の手が、テリーと繋がっていない」
強烈な違和感だった。手元の「音」というフィードバックが失われたことで、脳が「今、ボタンを押した」と認識するタイミングにわずかなラグが生じたように感じた。

上位帯のMR争いにおいて、この数フレームの感覚のズレは致命傷になる。「やっぱり、無音のパッドじゃアケコン時代のMR1800には戻れないのか」。

myパッド(と猫)

3. 音を失い、「視覚」を意識する

だが、私に与えられた時間は「1回30分」。落ち込んでいる暇はない。
「音がないなら、目で補うしかない」

手元のリズムに頼る「音押し」を捨て、画面だけを凝視する「純粋な目押し」へ。プレイスタイルを根本から書き換える作業に入った。

すると、奇妙なことが起きた。
今まで「音」で処理していた脳のリソースが、すべて「視覚」に極振りされたのだ。

相手の技の出掛かり。
カウンターヒットの鮮やかなエフェクト。
ドライブゲージの点滅。

打鍵音というメトロノームを失ったことで、スト6の画面が「いかに雄弁に情報を語っているか」に気づかされた。

プロのようにすべては見切れない。だが、相手の僅かなモーションの違いやエフェクトに対して、確実に以前よりも早く反応できるようになった。

音がないなら、目で補うしかない。その地道な意識づけのおかげで、「見て」から次のボタンを押すという新しい感覚が、少しずつパッドの操作でも形になってきているのだ。

画面をよく見る

4. 結び:無音の部屋で見つけた新しい強さ

現在、私のMRは1700台(ACT10終了時点)。
かつてのMR1800にはまだ届いていないが、パッドでここまで這い上がってきたという事実は、確かな自信に繋がっている。

喧騒のゲーセンやネカフェで、アケコンを激しく叩いていたあの頃の熱狂は、今でも私の原点であり、宝物だ。

だが、静まり返ったリビングで、家族に迷惑をかけずに、十字キーを「スッ」と押し込む今のプレイスタイルも、悪くないと思い始めている。

音を奪われたことで、私はスト6というゲームの「視覚情報」の深さを知り、より研ぎ澄まされた集中力を手に入れた。

パッドで勝つ

環境のせいにはしない。アケコンの音をなくしても、テリーの魂(バーンナックル)は確実に相手に届いている。

リビングの暗闇の中、無音のパッドと共に、MR1800への道は続いている。

(次回は、1回30分プレイ時のメンタルについて書こうと思います。)

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集