曲がったきゅうり
夏の昼下がり。
蝉の声が、
どこからともなく聞こえていた。
少し歩いた先に、
小さな農家の直売所がある。
屋根の下に、
採れたばかりの野菜が並んでいた。
トマト。
なす。
きゅうり。
どれも、
スーパーで見るものより、
少しだけ形が違う。
その中に、
ひときわ曲がったきゅうりがあった。
くるん、と弧を描いている。
思わず、
足を止めた。
横には、
「100円」と書かれた小さな札。
その隣には、
料金を入れる箱が置かれていた。
誰もいない。
蝉の声だけが、
暑い空気の中に響いている。
私は、
その曲がったきゅうりを手に取った。
思っていたより、
ずっしりしていた。
日当たりも。
土も。
水も。
風も。
ここで育つまでに、
いろいろなものに触れてきたのだろう。
そんなことを考えながら、
しばらく眺めていた。
曲がっている。
ただ、
それだけだった。
失敗したようにも、
困っているようにも見えない。
ただ、
くるんと曲がったまま、
そこにあった。
ふと、
自分のことを思った。
思い通りにならなかったこと。
遠回りしたこと。
人と同じようにできなかったこと。
ただ、
あのときの自分も、
そのときなりに、
そこにいた。
そう思うと、
少しだけ、
目の前のきゅうりが近く感じた。
まっすぐではない。
それでも、
ここまで育っていた。
私は、
そのきゅうりを、
かごに入れた。
「100円」の箱に、
小銭を入れる。
帰り道。
買ったきゅうりを、
袋の中でそっと揺らしながら歩いた。
日差しは、
まだ強かった。
蝉の声が、
ずっと聞こえている。
袋の中を見る。
曲がったきゅうりが、
ほかの野菜の間で、
少しだけ顔を出していた。
何も言わない。
ただ、
その形のまま、
そこにいた。
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