本は読めるのに国語ができない中学生─読解力がつかない原因と、家庭でできる四つのこと
音読はすらすらなのに、点が取れない
保護者の方から、とても多くいただくご相談です。
音読ができない場合はまずは音読からです。
家では本を読んでいる。音読の宿題もつかえずに読む。漢字も書ける。それなのに、読解問題になると点が取れない。
解いているところを横で見ていると、本文に戻らずに選択肢だけを見比べている子が、かなりの割合でいます。
これは、やる気の問題でも、読書量の問題でもないことが多いのです。
私が国語を教えていて、まず確かめるようにしている前提があります。
「文字は、何かの代わりに置かれている」ということです。
文字は、書いた人の代わりにそこにいる
最初にあるのは、文字ではありません。現実のほうが先です。
雨が降った。誰かが泣いていた。
それを伝えたいとき、目の前の相手になら声で足ります。でも遠くの人には届きません。声は、その場で消えてしまうからです。
だから人は、書きつけることを覚えました。
書きつけた瞬間、それは距離だけでなく時間も超えます。千年前の人の文章を私たちが読めるのは、そのためです。
書いた人にとってはタイムカプセル、読む人にとってはタイムマシン。
同じ一枚の紙が、立つ位置で役割を変えます。
大げさに聞こえるかもしれませんが、これはご家庭の冷蔵庫にも貼ってあります。
「カレー温めて食べてね」
この10文字の向こうには、鍋を火にかけて、間に合わないと分かってペンを取った誰かがいます。
文字は、その人の代わりにそこにいるのです。
届くのは、書いた人が選んだ分だけ
ただし、「雨が降った」という五文字に、その日の気温も、濡れた土の匂いも入っていません。
文字は現実の写真ではなく、書き手が選んで、残りを削った、その残りです。
カメラは写したくないものまで写しますが、文字は選ばないと書けません。
だから文字には、必ず選んだ跡が残ります。
読むというのは、その跡をたどって、書き手が見ていたものを自分の頭に立ち上げ直す作業です。
目で追うだけでは、その半分にもなりません。
Tシャツの英語は、何も指していないかもしれない
街を歩いていると、意味の通らない英文がプリントされたTシャツを見かけます。
あれは何かを指すための文字ではなく、かっこよさを伝えるために形が選ばれた、見せるための文字です。
テストで点が取れない子がやっているのは、これに近いことです。
本文の文字を、意味のない模様として眺めている。字は読めている。声にも出せる。でも向こう側に、何も置いていません。
国語で読む文字は、模様ではありません。必ず何かを指しています。
指す先は、目に見えるものだけとも限りません。「しかし」に対応する景色はありませんが、書き手の頭の中には「前と後ろは向きが逆だ」という判断がありました。その判断の代わりに、あの三文字が置かれています。
国語の設問は、この一点を聞いています
では、テストの点数とどうつながるのか。
「太郎は黙って窓の外を見た」という一文があるとします。
読めていない子は、ここで「太郎は悲しかったんだな」と、自分の想像を置いてしまいます。
読めている子は、悲しいとはまだ書かれていない、では書いた人はなぜ「黙って」と書いたのだろう、と考えます。
似ているようで、正反対です。
前者は自分の中にあるものを置き、後者は書いた人が置いたものを探しに本文へ戻っています。
立ち上げるのは、書いた人が見ていたものです。自分の気持ちで埋めることではありません。
ここが分かれていない子は、どれだけ読んでも「なんとなく」から抜け出せません。
家庭でできること、四つ
一つめは、音読の直後の質問です。
今のところ、いつの話だった。どこにいた。それを言ったのは誰。三つ聞くだけで、一分もかかりません。
すらすら読めた子でも答えられないことがよくありますが、叱る必要はありません。字を音に変える作業と、意味を立ち上げる作業は別のものです。前者ができていること自体が力です。「もう一回読んで、頭の中に絵を描いてみて」と言えば足ります。
二つめは、テストが返ってきたときです。
点数の話をする前に、間違えた問題を一つ選んで「これ、本文のどこに書いてあった」と聞いてください。指で示せない子は、本文に戻らずに選択肢だけで答えています。正解を教えなくても、探させるだけで本文に戻る習慣がつきます。
三つめは、文字どおりに動いてみる経験です。
レシピを渡してそのとおりに作らせる。組み立て家具の説明書を任せる。読み違えれば、玉ねぎが大きすぎたり、ねじが余ったりします。文字の向こうに現実があることを、頭ではなく手で分かる場面です。
四つめは、書く側に回らせることです。
留守番の伝言でも、祖父母への数行の手紙でもかまいません。書こうとすると、全部は書けないことに気づきます。何を書いて何を捨てるかを選んだ経験が、読むときに「書いた人はなぜこれを選んだのだろう」と考える力になります。
読解力は、才能ではなく習慣です
点数を上げるために、いきなり問題集を増やす必要はありません。
誰が、どこで、何を考えて、この言葉を書いたのか。そこを考えるようになると、子どもの読み方は少しずつ変わります。
本文に戻るようになり、根拠を探すようになり、「なんとなく」で答える問題が減っていきます。
音読がすらすらできるという力は、そのまま残ります。その上に、向こう側を見る習慣をのせていきましょう。
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