重箱読みと湯桶読みを見分けられて、何の役に立つのか
「台所」は「ダイどころ」と読みます。上が音読み、下が訓読み。
これを重箱読みといいます。重箱(ジュウばこ)が同じ読み方だからです。
「場所」は「ばショ」。上が訓読み、下が音読み。
こちらは湯桶読み。湯桶(ゆトウ)が訓+音だからです。
学校では、この二つを見分ける問題が出ます。
小学校でも中学校でも問われます。
ここで、一度立ち止まってみます。
これができるようになって、何の役に立つのでしょうか。
「台所」を読めることには意味があります。
でも、それが重箱読みだと分類できることに、日常の役立ちがあるとは思えません。分類できなくても読めるし、書けるし、意味も分かります。
塾で国語を教えている立場で言うのもなんですが、この分類そのものが日常で直接役立つ場面は、ほとんど思い当たりません。
テストで問われるのは、答えが一つに定まって採点しやすいからだろう、と私は見ています。
実用があるから出題されているというより、出題に向いているから残っている。そういう面があるように思います。
だから、お子さんが「こんなの覚えて何になるの」と言ったとしたら、その感覚はかなり正しい。
ただ、その奥には一つ、知っておくと役に立つことがあります。
前回の音読み訓読みの熟語編になります。
名前がついているのは、二つだけ
まず、事実の確認から。熟語の読み方は四つに分けられます。
音読み+音読み……学校(ガッコウ)、祝福(シュクフク)
訓読み+訓読み……出口(でぐち)、山道(やまみち)
音読み+訓読み……台所(ダイどころ)、荷物(ニもつ)
訓読み+音読み……場所(ばショ)、夕食(ゆうショク)
三番目が重箱読み、四番目が湯桶読み。
重箱(ジュウばこ)が音+訓、湯桶(ゆトウ)が訓+音で、その語自体が見本になっています。
重箱はおせちを入れるあの箱、湯桶はそば屋でそば湯が出てくる注ぎ口のついた器のことです。呼び名がついた頃には、どちらも身近な道具でした。
ここで、気づくことがあります。
名前がついているのは、音と訓が混ざった二つだけです。
音読み同士、訓読み同士には、特別な呼び名がありません。漢語には音読み同士のものが多く、和語を漢字で表した言葉には訓読み同士のものが多い。そうした組み合わせに比べて、音と訓が混ざった読み方は目立ったのでしょう。だから、そこにだけ呼び名がついたと考えられます。
なぜ混ざるのか
では、混ざった語はどうやって生まれたのか。二つの種類があります。
一つは、はじめからそういう語として作られたもの。
台所も本屋も荷物も、区別のために混ぜたわけではありません。日本語と漢語をつなぎ合わせて、必要な言葉を作った。それだけです。
もう一つが、後から読み方を変えたもの。
こちらには、はっきりした目的があります。
「いちりつ」と読む理由
「シリツ」と言われたとき、それが市立なのか私立なのか、耳では分かりません。
だから現場では、こう読みます。
市立……いちりつ
私立……わたくしりつ
「市」を訓読みの「いち」に、「私」を訓読みの「わたくし」に変えている。これで耳で区別がつきます。
同じことは「化学」でも起きていて、「科学」と紛らわしいので「ばけがく」と読み分けられます。
どちらも本来は音読み同士です。それを訓に変えて読んでいる。
文字ではなく音で伝えたいからです。
音読みは、中国語の音を日本語の発音に写し取ったものなので、同じ音の言葉が異常に多くなりました。だから耳で聞くとわからなくなります。
この読み替えが必要になるのは、書くときではありません。
「市立」と書けばわかります。「シリツ」と口に出すからどちらかわからなくなる。
ただし、テストでは不正解になります
ここで注意が必要です。
国語のテストで「化学」の読みを問われたら、答えは「カガク」です。
「ばけがく」と書けばバツになります。「市立」も「シリツ」が正解です。
矛盾しているように見えますが、そうではありません。口で伝えるときは、相手に伝わることがいちばん大事です。
読みを問われたときは、辞書に載っている読みが求められます。
場面が違えば、正解も違うということです。
大人が仕事で「いちりつ」と言っているのを聞いて、子どもがテストにそう書いてしまう。これは実際に起きることなので、家庭で一言添えておくと安心ですね。
言葉が先で、分類が後
もう一方の、はじめから混ざっていた語も見ておきます。
台所、本屋、番組、身分、場所、見本、荷物、夕刊、豚肉、雨具。
どれも生活の言葉です。
一方、音読み同士の語は、学校、祝福、政治、機械、技術、文法。
書き言葉や学問の言葉が並びます。
音読み同士の熟語には、漢語として使われてきた言葉が多くあります。
暮らしの中で必要になった言葉は、そうはいきません。日本語と漢語をつなぎ合わせて、その場その場で作られてきました。
試しに音読み同士で読んでみてください。
台所はダイショ、場所はジョウショ。どちらも存在しません。
「所」という字は、役所、住所、事務所と、音読みでいくらでも語を作ります。それなのに「場所」だけは「ば」と訓で読む。
規則があるなら、こうはなりません。
順番を確かめてみます。
先にあるのは、言葉です。必要になって作られ、使われ、定着する。
台所も本屋も場所も、先に言葉として使われてきました。
型の名前は、そのあとに来ます。すでに使われている言葉を集めて、音と訓の組み合わせで分類し、名前をつけた。
言葉が先で、分類は後です。
結局、何を持ち帰ればいいのか
重箱読みと湯桶読みを見分けられることに、実用はほとんどありません。
テストに出るから答えられるようにしておく、それだけの知識です。
ただ、音読みと訓読みを区別する力そのものは、話が別です。
ここには、はっきりした実用があります。
漢字を見たときに、音と訓の両方が浮かぶこと。
これが読解で効きます。
「防災」という言葉が出てきたとき、「災いを防ぐ」と訓で読み直せば、意味がはっきりします。
「着席」なら「席に着く」、「退場」なら「場から退く」、「増減」なら「増える・減る」。
音読みのままでは輪郭がぼやける言葉が、訓に開いた瞬間に見えてきます。
前回書いたとおり、訓読みは日本語を当てた読みです。知らない熟語に出会ったとき、その字を訓に開けるかどうかで、意味を推測できる範囲が変わります。
重箱読みか湯桶読みかを当てられることより、「この漢字、訓読みでは何と言う?」と考えられることのほうが、国語ではずっと役に立ちます。
お子さんが「重箱読みって何の役に立つの」と言ったら、そのとおりだと言ってあげてください。そのうえで、「じゃあ、防災の『防』は訓読みでどう読む?」と聞いてみる。答えのほうに、意味があります。
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