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異形コレクション IX(9) グランドホテル

◾️全体 ★★★☆☆
 『とあるグランドホテルにおける、バレンタインデーの一夜を舞台にした短編』という、文字通りの『グランドホテル』形式の一冊。ラーメンズが『CLASSIC』で同じ形式の公演をしてたけど、本作がヒントになってたらいいなと思ったり。ホラーアンソロであるため総合的には超治安が悪いホテルということになり、宿泊客自ら怪異に飛び込んだり自業自得の死を迎えたりに混ざって無辜の客が入館から1時間持たず斬首みたいな即死級の怪異(『一目惚れ』)なんかもおり、絶対泊まりたくない。そうした各作品の繋がりを想起できるのは面白い反面、それぞれのパンチはやや薄かった印象。そんな中、『新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け』という異形コレクション史でも屈指の名作に出会えたのは僥倖。


◾️ぶつかった女 / 新津きよみ ★★☆☆☆

 とある訳アリの女、予約したグランドホテルへと向かう途中で誰かとぶつかり、倒れた拍子に記憶を失い……。過去の殺人から逃げ回る主人公が直近の殺人犯とぶつかり人格が入れ替わる、という超自然ギミック入りのミステリなのだが、一時的な記憶喪失+偽名も複数登場する展開で掌編なのに頭の整理に悩まされるという、読んでて少々疲れるエピソード。

◾️探偵と怪人のいるホテル / 芦辺拓 ★★★☆☆

 遺産目当ての殺人計画のため兄夫婦にグランドホテルへと誘われた元作家志望の男は、部屋で『探偵・花筐城太郎と怪人・殺人喜劇王の闘い』の端書を目にし、心を惹かれ……。探偵世界がホテルに侵食する幻想的な展開で、遺産を狙う子悪党をあっさり殺害、探偵と同一化した男に正々堂々と決闘を申し込む殺人喜劇王に濡れる。芦辺先生のネーミングセンスがいいですね、殺人喜劇王。

◾️三階特別室 / 篠田真由美 ★★☆☆☆

 建築士を学ぶ大学生の橘が研究のため取材を申し込んだグランドホテル、訪ねると奇妙なメイドに三階特別室へと案内され……。人間を食らう女怪異ペアが大学生を喰らおうとするもヘナチョコすぎて萎える話、萎えたら逃がしてくれるんで全然有情(ただし代わりのイケメン(なんなら女でも良し)をアドリブ調達するはする)。ちと薄味。

◾️鳥の囁く夜 / 奥田哲也 ★★★★☆

 トラベルライターの主人公が取材目的で念願のグランドホテルを訪問、案内役の副支配人に軽く発情しつつホテルを巡る中、白い棺から真っ白な男が出てくるところに遭遇し……。これは奇妙な良作。白い男との遭遇から両津みたいなもっさり料理人との小気味良い会話から男の行為の意味が明かされ、そのまま不思議な深夜の《儀式》へ巻き込まれていくが、恐怖よりはガロに載るような不条理短編に近い読み口。

◾️To・o・ru / 五代ゆう ★★★☆☆

 赤ん坊と思われるトオルを抱え車を駆り、グランドホテルへチェックインした主人公の女、そこに現れたもう一人の女が「透をどこへやったの?」と問い……。狂ったカルト一家の狂った生育により壊された人間が、悲しきモンスターとなり果てた末に辿り着いたグランドホテルで安息を得られた話。主人公を壊した基地外家族の地獄っぷりが端的な描写で濃厚に匂わされており、良い。

◾️逃げようとして / 山田正紀 ★★★☆☆

 横領を繰り返した末に見つかった男が、かつて「人を《消して》くれる」という噂を頼りに尋ねた占い師、彼の言われた通りに訪れたグランドホテルで……。数百万円ずつチリツモで累計三億円横領してしまった主人公のカスの手腕がちょっと面白要素になってしまっており、いくら平成前期とはいえ企業の出入金ってそんな緩かったの!?という温故知新的な驚きを得られたが、幻想怪奇小説を読むにはまあまあノイズ。

◾️深夜の食欲 / 恩田陸 ★★★☆☆

 バレンタインの深夜、グランドホテルの若いボーイはローストビーフ4皿というルームサービス注文を受け、スイートルームへワゴンを押してゆく……。スイートルームへ向かう廊下に散らばる異常な量の爪と歯、という異常現象が現代的な掌編。SCPのTaleっぽくて好き。

◾️チェンジング・パートナー / 森真沙子 ★★★☆☆

 誠実だが冴えない金持ちの男、その男が熱烈に誘いデートに漕ぎつけた女、その女と不倫中の有名建築家、冷め切った夫婦生活を嘆くその妻、バレンタイン深夜のグランドホテルで彼らが遭遇する怪異……。やっぱり不倫なんてするものじゃないよね!という清々しく教訓的な短編で、不倫勢二人のヘイトをじわじわ上げていく描写のコントロールが見事。途中バーで遭遇するゲイの酔っ払いも良い味出している。

◾️Strangers / 村山潤一 ★★★☆☆

 元ホテルマンによる、かつて勤めていたグランドホテルにおける《いわく》についての述懐……。その非日常性ゆえに人間の感情が淀んで溜まりやすいのがホテルであり、往々にして《たまり場》と化した部屋に宿泊した全く無関係の人間が《拾って》いってしまう、という話は呪霊と呪力っぽくて面白いですね。実話怪談っぽい掌編。

◾️厭な扉/ 京極夏彦 ★★★★☆

 事業に失敗し、家も家族も何もかもを失いホームレスに身をやつした主人公、彼のもとに現れた男は「グランドホテルに泊まると永遠の幸福が約束される」と嘯き……。ビッグネーム・京極先生の降臨。『世にも奇妙な物語』でドラマ化され、以後発表された『厭な』連作が後に『厭な小説』としてまとめられ、と色々歴史的な作品。物語としては、ホテルに現れた人間を射殺して保持していた大金を奪う→そこで《感染》した幸福により、奪った大金が更に増える→1年後にルールに従って大金をホテルに持参、そこで1年前の自分に射殺される、というループの話なんだけど、他者への《譲渡》はできる仕様みたいで、その後はどうなるのか?次回のバレンタインデーに撃ち殺されることで円環が閉じるのか?あるいは幸福だけが自分の前からいなくなる桃鉄のエンジェル方式なのか?が読み解けなかった。後者ならそこそこ稼いだタイミングで適当な誰かに譲渡したらグッドエンディングじゃね?と思うが、結局円環に囚われたままホテルに赴き射殺される気がする、作者が京極先生なので。

◾️新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け / 田中啓文 ★★★★★

 グランドホテルのフレンチレストランで、バレンタインデーにのみ提供される《特別料理》、その悍ましい《食材》とは……。何であろうと美味しければ食うという人間の業は異次元生物に対しても例外ではない!というクトゥルー×グルメのグチャドロ大傑作ホラー。ニグ・ジュギペ・グァのビジュアル的なインパクトは凄まじく、何喰ったらこんなの思いつくんだというグロテスクなディテールが見事で、そいつの《好物》も悲鳴モノ。中盤でシェフがその《好物》を収集し始める様は両津勘吉を想起。あいつ寮で養殖して大惨事を起こしてたな……。

◾️ヴァレンタイン・ミュージック / 難波弘之 ★★★☆☆

 新進気鋭のポップシンガーによるカップル限定のスペシャルライブ、そこに関わるバンドメンバーがホテルで霊障に遭遇し……。霊感の強いスポトレと歌姫が百年前の地縛霊を除霊するという、文体もライトな読みやすい短編。作者の難波先生はイカ天の審査も務めたベテランミュージシャンで、読みどころはむしろライブの裏側のリアリティ。

◾️冬の織姫 / 田中文雄 ★★★☆☆

 バレンタインに毎年宿泊に来る、十年来の訳あり常連カップルを迎えるフロント主任の橘だが、女性客の茜から今年が最後の来訪だと告げられ……。兄弟と女の三人による恋愛ミステリ。渋い。

◾️雪夫人 / 倉阪鬼一郎 ★★★☆☆

 再起を賭けた新作ミステリの取材にホテルを訪れた年配の作家が部屋で遭遇した怪異……。雪夫人という名前から想起されるイメージからは大きく離れたクトゥルー的なクリーチャーがヌルッと登場、問答無用で主人公を屠るソリッドな掌編。ホテル内の異界で人間の魂を使った漬物づくりに勤しむ化け物、訳分かんなくていいですね。

◾️一目惚れ / 飯野文彦 ★★★★☆

 休暇でグランドホテルを訪れた女性、ドアマンに誘われ『特別な』脇の回転扉を潜ると、ロビーの客や従業員から《ブタ》と呼ばれ……。無辜の客を罠に嵌めて認識災害を引き起こし殺害・陵辱する邪悪な怪異、斧で斬首し死体を弄び、丸焼けにした上でディナーにお出しする、というケッチャム感のある鬼畜な飯野節は見事だが、その語り部が『女性に一目惚れして山から憑いてきた霊魂』という捻りも加わっている。

◾️シンデレラのチーズ / 斎藤肇 ★★★☆☆

 バレンタインデーのグランドホテル、部屋のドアは異界に繋がり、その先では《鬼》の討伐を率いる武将となって闘いに身を投じる……。一日限りの異世界転生バトルと見せかけ、討伐対象の鬼の頭目が銃とバイクを装備していることから、相手も同じく《転送》された人間では?と思わせる仕掛けになっている。異世界を舞台にした実は同族かもしれない怪異の討伐……ちいかわだこれ!

◾️うらホテル / 本間祐 ★★☆☆☆

 ある男へ自画像のみを描いては売り続ける画家くずれの主人公、疲れた果ての逃避先として訪れたグランドホテルで……。かつてホテルの湖畔で
身を投げた女は《うらホテル》の存在で、主人公はその生まれ変わりのようなものだった……?少々入り込みにくかった。

◾️運命の花 / 榊原史保美 ★★☆☆☆

 カジノルームで出会った美少年に魅せられた主人公は、ある《賭け》を持ちかけ……。やおい論の第一人者による、写真とポエムで構成された耽美な特殊掌編。この手の作風に触れるたび『ピューと吹く!ジャガー』のジャガー写真集『骨髄移植』が自動で脳にポップする呪いにかかっているため正当に評価ができない。

◾️螺旋階段 / 北野勇作 ★★★★☆

 またしてもオーディションに落ちた売れない俳優の主人公が。グランドホテルを舞台にした映画の試写会を通じ、見知らぬ螺旋階段へと迷い込む……。メタ的には、競作の舞台としてのグランドホテルを『皆の観測により存在するもの』と位置付けることで収録作品の矛盾を全て肯定する、ターンAガンダムみたいな作品。「紙みたいにペラペラでもいい、皆に自分を見てほしい」という主人公の欲求がラストに結実するオチの鮮やかさは秀逸。

◾️貴賓室の婦人 / 竹河聖 ★★★☆☆

 二人組の宝石泥棒、グランドホテルの貴賓室に滞在するVIPの持つ宝石に狙いを定めバレンタインの夜に部屋へと忍び込むが……。世界の高名な宝石をその手に収める貴婦人が二口女でその侍女がろくろっ首、という和洋折衷妖怪ホラーというアイデア勝負だが、その動機が「宝石を常食する生態だから」というのが和の妖怪テイストから離れ過ぎ、ややピンと来なさが優った。

◾️水牛群 / 津原泰水 ★★★☆☆

 恐怖に由来する強迫観念で猛烈な不眠と拒食に苦しむ主人公、懇意にしている《伯爵》の取材に同行する形で訪れたグランドホテルの料理屋で《水牛》を勧められ……。主人公が神経症に苦しむ生々しい描写が続く中、水牛というワードが出た瞬間にガラッと雰囲気が変わり、幻想的な水牛捕獲へ。爽やかな読後感。

◾️指ごこち / 菊地秀行 ★★★☆☆

 二十年来の馴染みである、ホテル客の男と出張マッサージ師の主人公、男の口から語られる家族の秘密とは……。ホテルに棲みつく座敷童という発想から、富と引き換えにホテルから出られなくなった夫婦の悲哀と終末の物語へ。しかしこれ、巻き込まれた妻、まあまあ被害者では。

◾️チェックアウト / 井上雅彦 ★★★☆☆

 今回参戦の作家が全員登場する、カーテンコール的な掌編。井上先生、この時期は「アンソロ編集は作家の仕事じゃなくね?」と思っていらした節があり、実際そう(出版社頑張れよ案件)なんだけど、結局そこから更に四半世紀を経て先生のライフワークになる訳で、継続の偉大さに思いを馳せる。

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